「何故、逃げる?」
「なにゆえって・・・言われてもそんな、はいそうですか!なんて言って殺される訳にはいかないでしょーが」
「・・・大人しく斬られてくれれば、俺もやりやすいのだが」
「そんなそっちの都合を押し付けられても困りますよーだ!」



べーっと舌を出して、どたどたっと彼が繰り出す刀を無様に避けると、壁に突き当たった。やば、後ろ壁じゃないか。 余裕ぶっこいている場合じゃなかったなー。まずったなー。 冷や汗がたらり、と垂れる。

そんな私に容赦ない眼光を突き付け、目の前の男。刀を首筋に近づけて動くな、と一言。 言われなくても動かないつもりですが、はい。ええ。だって動いたら首飛ぶよね、これ、 確実に飛ぶよね・・・!勘弁してくれよ。

それが彼と私の出会いだった。のんのん、出会いなんて唐突に訪れるものだ。
例えそれが、時代をうっかり越えていたとしても。ケセラセラ、


・・・・なんて軽い問題じゃなかったのだ、これは。






「で、言い訳はそれで十分だろう。・・・本当の事を言え」
「ひ、ひど!今、誠心誠意真心込めて理由を言ったじゃないですか!そうやってなんでも疑ってかかって・・・!」
「副長、この者の言っている事は支離滅裂ですが、確かにいきなり背後に現れました」
「斎藤、お前が背後を取られるなんて、滅多にねぇ事だぞ」
「は、・・・その通りだと」
「だーかーら」



緊張が走る2人の会話に入ってくる緊張感のない声。 無論これは私の声だけれども。



「あのですね、いきなり落下してそしたらこの人の後ろにいた、ってだけですよ」
「斎藤は気配に鋭い。お前のような奴がいて、分からねぇはずねぇんだ」
「だ・か・ら・・・!そんな事言われても、私にも訳がわかんないんですってば」



少し声を荒げてしまったが、それもこれも皆が分かってくれないせいである。
私は今、まさに最高級のステーキを口にする所だったのに、なにがどーしてこんなことに。 ああ、あのステーキ・・・一体どうなったんだろうか。口に運ぼうとフォークを動かした時、 ひゅって落ちる感覚と共にどたっと落ちたら、何故か周りは戦闘中だった。 手に持っているものはフォーク、ナイフ、そして一切れのステーキのみ。
そりゃ普通は逃げようとするだろう。周りが血まみれで自分の身が危ないのだとしたら。

だけどその前に見つかってしまったのだ。私に背を向けていたこの男に。 こっちに振り向く男の後ろに襲いかかる違う男を見てしまったその時、私は自然と手に持っていたナイフを 投げつけたのだった。もちろん、当たらない。頬をかすったくらいだろう。 それでもその一瞬も逃さず斬り捨てた、その男は斎藤一というらしかった。
不審者という眼で見られた私はどうにかこうにか逃げようとしたのだけれど、


・・・結果的に逃げられず捕まった訳だ。

しかも聞けばこの2人はあの有名な新選組の、土方歳三と斎藤一と言うではないか。
まぁ、有名とは言っても私はそんなに知らないんだけれど。
こーんなに頭が固い人達だとは思いもしなかったけどね!

ああ、とににもかくにも!早く尋問終わらせて解放してくれないかなぁ・・・。










おいでませ池田屋!
(だからお呼ばれもしてないし、早く帰りたいんだけど!)




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