「総司、」
「なぁに、一くん。怖い顔して」
「・・・いつも通りだ」



む、っとした表情が出た一くんに呼びとめられて振り返る。 雨が少し振ってきて、少し肌寒い。そろそろ布団や衣服も秋物冬物を出さなくちゃなぁと頭の片隅で考える。
そんな僕の思考に気が付いたのか、そうでないのか分からないけど一くんは尖った声を出した。



「総司、あんたは・・・少し過保護すぎるんじゃないのか」
「過保護・・・ああ、ちゃんの事?」
「それ以外になにがある」



口数が少ない分、とてもぐっさりと聞いてくる一くんに笑いかけるが、一くんの表情は最初と変わらない。 それどころかため息まで吐かれた。なに、僕そんな態度取られる覚えないんだけど。



「それは・・・しょうがないよ」
「・・・」
「それに、」
「・・・・それに?」
「あんな想いはもう二度としたくないんだ。それに僕は別に過保護じゃない、」
「過保護じゃないとすると、なんだ」
「あはは、そんなに知りたい?」
「・・・・・・・・・」



面白がってそう一くんに聞いてみれば一くんはむっつりと黙りこんでしまった。
あらら、からかいすぎたかな。でも僕の行動は別に過保護って訳じゃないと思う。 むしろ僕は怒っている。無防備過ぎる彼女に。 まぁ、それも一くんから見たら過保護に見えてしまうのだろうけれど。
それでも また、失ってしまうんじゃないかって思ってしまって怖くてたまらなくなる時がたまにあるから。



「やっぱり余計な事だったかなぁ・・・ふぅ」
「・・・?出過ぎた事を言ったな、すまなかった」
「ううん、一くんはちゃんの事心配してくれてるんだもんね」
「なっ、・・・・そんな事はない。失礼する」



からからからと笑いながらそう言えば、一くんは少し焦った表情を見せた後、足早に去って行った。



さっきのあれだってただの八つ当たりだ。
朝一番に会うのが僕じゃないってことから、新八さんと手を繋ごうとする彼女とか。酷く苛々する。 そしてこっちがこんなに言っているのに同じ事を繰り返す彼女や、それをなんとも思わない平助や新八さんにも 苛々してしまう。 でも今回の件は僕のせいだから、彼女をとやかく言える様な立場ではないのだけれど。

それもこれもそう、二、三日前にいつも遊んであげている子たちからこんな話を聞いたからだった。











「え・・・?」
「だから、総司のとこにいる?なんか、水出す人!曲芸師なの?」
「どこで見たの?」
「うん、お庭に入ったところで1人でね、水をぱーって出してね遊んでたの!」
「・・・・そう」



事実ちゃんは1人でいる事が多い。 彼女自身1人でいる事が好きなのか、屯所内をうろうろしている事が多い。
庭に出て水を操って遊んだり、草むしりしたり(これはたまに見つかって怒られている) 1人で縁側でお茶を飲んだり、そんな感じの変わり映えもない毎日を過ごしている。

それに幹部もいつだって相手が出来るわけじゃないから1人になる時間は多い。 1人が好きだといってもあまりに人と接触のない日々を送っているちゃんはたまに寂しそうに笑う事があった。
だからこちらにちゃんを呼びこんだ張本人である自分がなんとかしたほうがいいのか、とも考えた。 そう思っていた時に飛び込んできたのは子どもたちの声だった。 子どもたちに相手をしてもらえば寂しくないんじゃないかと思いついたのだ。
自分が空いている時はいいけれど、やっぱり1人に戻ってしまうとまた寂しくなるんじゃないかって考えたから。 そう思ったらすぐ、僕はその子にある事を提案した。


「ねぇ、じゃあその子に話しかけてみたらどうかな?」











そういう訳で、その子は翌日ちゃんに話しかけた。その子たちに囲まれながらちゃんは久々に1人じゃない 楽しい時間を過ごせているみたいだ。僕はそれを見て少し笑って確認して巡察に出た。



誤算があったのはここからだ。
僕が巡察から帰ってもちゃんはまだ子どもたちと遊んでいた。 僕が巡察に出たのは太陽も高く昇っていた頃。しかも僕が上げた日傘も差していない状態だった。 今はもう太陽が沈み、周りが橙色に包まれている頃だ。 そんなに長くは遊ばないと思ったのに。まさかの事態だ。
門から入った僕に気が付いたその子たちの数人にこっそりと合図を送って、もう全員帰れと言った。
その子たちは大変満足した様子でにこにこで手を振りながら去っていったけれど、僕はそれよりもちゃんの 体調が気になった。まだまだ不安定な状態なのだから無理はしちゃ駄目だって十分すぎるほど彼女自身も 分かっているはずなのに。

多分久々の来客に加え、自分の相手をしてくれるものを見つけてはしゃぎすぎたのだろう。 やっぱり疲れたのか早めに就寝する彼女を見届けて、僕も部屋の灯りを消したのだった。



「まぁ、過保護だって言われちゃえばやっぱりそれまでなんだろうけど」



そして朝、予想通りぐったりとしたちゃんが発見された訳だ。
それでも僕は彼女の気を紛らわそうとしてあげたかったのだ。 子どもたちと遊ぶちゃんは確かに楽しそうに笑っていたから。 いつかの寂しそうな笑顔を浮かべながらではなくて。
でも限度を知らないから、体調を崩してしまった彼女にも同時に腹が立つ。 心配させないで、無理をしないで、と何度もきつく言ってるのに。

自分でも矛盾した考えを持っているなぁとは思う。けれど、どうしたってこの世界からはじき出されてしまう 彼女の存在をどうしても認めてあげたかった。居場所を作ってあげたいと思った。 ここにいてもいいんだって、彼女は思ってないようだから。
それが僕のそばならなおさら嬉しいと思う。


「だから・・・お願いだよ」


そう1人で小さく呟いてからさっき彼女に言った通り水を持って彼女の部屋へ向かう。
先ほどとは違ってしん、と静まり返った彼女の部屋までもうあと数歩だ。












きみはそこにいる




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