ちゃんの部屋の前に立って、一応声を掛けてから入ろうと思ったけれど、 中からの返事は帰ってこない。まさか?と嫌な予感が全身を駆け巡った。
勢いよく障子をあけて中へ飛び込めば、予想を裏切り、すやすやと眠るちゃんの姿があった。思わず脱力する。



「・・・・なんだ・・・はぁ、」



大人しく寝ててとは言ったけど・・・ほんと、この子、僕を振りまわすの得意だよね。
勝手に振りまわされているのは僕の方だって言う自覚は もちろんあるんだけど。ちゃんっていつでも本能のままに動いてるせいで、行動が掴めない事が多々あるし。



雷の力を持っていた頃は雷で覆われていたちゃんだけれど今はそんな事はない。
あの雷壁に守られもしないけれど、寝顔はとても穏やかなもので、それだけで僕は良かったと感じる事が出来る。
あの時のちゃんはとてもつらそうで見ていられなかったから。







そっと障子を閉めて、ゆっくりと彼女が眠る布団の横へ腰を下ろす。
布団から白い手首が覗いている。
ほんっとに日の下に出ないせいかどんどん白くなっている気がする。 ま、かといってずっと外に出ていても心配なんだけどね。大丈夫大丈夫って言ってわらっている時こそ危ないというのは 本当の事だ。笑ってたのがいきなり一時停止して、後ろに倒れるとかもあったし・・・。油断大敵だ。



ゆるく握られたその手を見つめてから、少し間。
きゅっと自身の手を伸ばしてその手を繋ぐ。やっぱり少し冷たくて、生きているか不安になる。 だけど眠るちゃんの胸が上下しているから呼吸はしていることにほっとする。
この子は僕を不安にもする。不安なんてこのかた感じたことなかったのに。 いろんな感情を僕から生み出してくれる貴重な存在だ。



いつの間にか止めていた息を僕がそっと吐きだすと同時に、布団が動いた。
じっと見つめていると瞼が震えた。どうやら目が覚めた様だ。



ちゃん、起きた?水持って来たよ」
「・・・?ああ・・・・沖田さん、おはようございます?こんにちは、・・・・・おやすみ・・・?」
「なに?寝ぼけてるの?」
「え、おは・・・あれ?こ、こんにちは、沖田さん」
「寝ぼけてたね」



にっこりと微笑むと、ちゃんは面白いように焦り出した。
「い、いやべ、別に寝ぼけてなんか・・・!」とわたわたしながら、身体を起こす。 寝ぼけ眼なちゃんもなかなか、と思いながらのにこにこでもあったのだけれど、彼女は面白いくらいに それには気が付かない。自覚がないのか、ただ単に無防備なのか、ただ何も考えていないのか。
・・・・・・・・・・・後者だろうな。悪いけど。絶対なにも考えてない。うん。
そこまで考えて深く頷くと、ちゃんはなにを頷いているんだろう?という感じの表情で、怪訝そうな視線を寄こした。
そしてそこで僕が持ってきた水に目をやる。



「ああ、お水ありがとうございま・・・・って、沖田さん!手!」
「ん?ああ・・・繋いで欲しそうだったから、つい」
「そんな子どもみたいなこと思ってないですよ!しかもわたし寝てましたからね!」
「はいはい、分かってるよ」
「うわっ、なんですか、その顔」
「いつも通りだけど?とりあえず早く元気になりなよね」
「それはもちろんですよ。・・・・・・・・まったくもう、勝手なんですから」



指摘されたけれど、その手を離したくなくて。
さらにきゅっと握った手をちゃんは少し目を見開いた後、ゆっくりと握ってくれた。



自分の震える手に気が付いただからだろうか?
体調を崩しているのは彼女の方なのに、まるで自分の方が重病人みたいだ。
もう少し眠ります、と言って微笑んだ彼女の眼が閉じられるその瞬間までが永遠に感じられて。

少しでもいいから彼女を繋ぎとめておきたいと思ってしまうのは、やっぱり僕の我儘なんだろうか?









さあ、

それでは眠ることにしよう





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