その日、宮ノ杜五男は浮かれていた。
拾い物をしたのだ。
いつもは興味深々に聞いている授業もどこか上の空で、最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴ったと同時に、鞄を引っ掴んで 教室を出て、自動車に乗り込む。
早く家に帰る、それだけが彼の心を占めていたのだ。
屋敷について、使用人に挨拶、千富に挨拶もそこそこに、階段を駆け上がり、客室へ急ぐ。いつもは がらんとしたそこも今日はどこか違って見える。
期待を込めてドアノブを回して中に入った。






「ぎゃーー!ちょっと皆何やってんの!」
「あ、博おかえり〜!いやぁ、博が拾ったっていうから皆で様子見しにきたんだよ」
「ふん、こんなのどっかに捨ててきなよ」
「駄目だよ!大体皆なんで、この子を取り囲んでるの?この子が起きた時びっくりしちゃうよ!」




中に入ればベットを取り囲むようにして、自分の兄弟たちが立っていた。
予想外の出来事すぎて動転し、 ばっと、大股で踏み出して、女の子を覗き込むようにしていた他の兄弟たちを払おうと近づく。
いきなり動こうとしたことが良くなかったのか勢い余って、ベットの端に足を引っ掛ける。
危ない、と声が聞こえて、ベットで眠ったままの女の子を押しつぶす事だけは阻止しようと、ベットに手を付く。
・・・・・・までは、まだ良かった。問題は手の位置ではなく自身の口の位置だった。




「・・・・・・あらまー、そゆこと。俺たちお邪魔だったかしらね、ふっふふ」
「眠っている女子に接吻か・・・・ふむ、新しいな」
「うっわ、サイテー。博サイテーだね。責任取らなきゃいけなくなるよ」
「お前たち、少し五月蠅いぞ!静かにしない・・・・・・・博?なにをやって、」
「皆さん、もう夕飯の時間だって千富さんが・・・・・・博?」

「やっ、ちょ、これは違うよ!!じ、事故だから、そう事故!!」
「ん・・・・・・・・?」
「あっ、目開けた!!」
「えっ」





慌てて身体を起こして、否定するように顔の前で手を左右に振れば、その後ろで身動きする音が聞こえた。
あれだけぐっすりと眠る様に倒れていたのに、どうして今。この時なの、と思わなくもないけれど、 無事に目覚めてくれたということだけが身体を駆け巡る。




ゆっくりとその双眸が開かれるのをじっと見つめる。
彼女の黒い瞳は周りを見渡して、一言告げた。
おはようございます?と合っているような合ってないような言葉を。




「ほう、眠っていた女が接吻で目覚めるとはな・・・」
「あ、スリーピングビューティじゃない?」
「な、なにそれ」
「眠り姫」
「ね、眠り姫ー!君、姫だったの!?どこの?」
「や、違うし・・・。落ちついてください」










眠り姫が目覚めたら?

(眠り姫)

「スリーピングビューティって・・・美人じゃないですしー」
「ねぇねぇ、君どこから来たの?」
「・・・?寝てる間にいつの間にかだったのでよく分かんないですね」
「君さー寝てても起きててもよく分かんない子だねー」
「あははー良く言われますー」
「その眠たげな話し方を正せ!語尾を伸ばすな!」
「何この人、なんでこんなにイライラしてるんですか」
「ま、まぁ大佐はいつも基本的にはこんな感じだがな」