「フェリチータッ!」
「わ、」



ふらふらとカフェの空いた時間に買いだしに出ていれば、見知った顔が巡回中なのに気が付いて、私はふらふらとそちらへ寄る。 真面目な彼女の事だ、しっかりと仕事中なのを見つつも、その表情の真剣さにすこし微笑ましい気持ちにもなり、 彼女の息抜きにでもなるかと、声を掛けつつ腕をまわす。
おどろいたようにぴくり、と身体が反応するのを楽しんだ後、にこやかな表情で彼女が振り向くのを待つ。

・・・・・・・はずだった。



「お前、何者だ、」
「は、ちょ、待って、ストップ!ストップ!」
「・・・・・!!」
「知り合いか?」
「あのね、お気に入りのカフェの店員さんなの」



同行者が悪かったのだ、と思いたい。フェリチータの今日の 物騒な同行者はフェリチータのその言葉を聞くとちゃきり、と私の首にしっかりと当てていた日本刀をさっと鞘に戻す。
フェリチータの肩に回した手をそろりと降ろしながら反応をそっと伺うけれど、表情は硬いまま。 わりと可愛い顔をしているけど、表情はむっとしているというか、私を警戒しているというか・・・。
まぁ、いつもの人達だったら軽く流してくれる所だけど、今回のこの子は初対面だ。
確かに大切な”お嬢”に虫が・・・・・む、・・・・・・・・、



「あ、マズい、ごめん、」
「・・・・・・?」
「怪しい奴だな」



今の私男でした、ごめんごめん、と言えるはずもなく。
ついノリで肩に腕を回したり、抱き込んだりとかなり軽いスキンシップをフェリチータにしていたはずだったけれど、私は今や 男でした、男になってたんでした。そりゃ怪しいわ。
どうも忘れがちになるこの頃の自分にちょっと危機感が沸いてきますね、なんて思っても そんな理由は今更言えるはずもなく、目の前のこの子が警戒するのも無理はない。
女の私であったのなら良かったけれど、そんな事を言っても戻れるわけではないしね。うん。



!紹介するね。こちらはノヴァ、聖杯の幹部」
「はじめまして、ノヴァ。私はです、カフェの店員さんやってます」
のリモーネパイはとってもおいしいの」
「ありがとう、フェリチータ!ノヴァもぜひ食べに来てね」
「ふん、お前がか。リベルタたちが騒いでいたのを聞いた事がある」
「リベルタ!リベルタは元気?最近一緒にいないよね?」
「最近忙しいみたいであんまりカフェに行けないの・・・」
「そーなんだ。またお暇な時にでもきてね、って言っておいて」
「うん!絶対いくね」
「あ、でもパーチェさんは呼ばなくていい。ツケ払うまではくんな、って言っておいて」
「あ、はは・・・ごめんね、
「噂は・・・本当なのか・・・」



そんな会話を楽しくフェリチータと交わしていれば、ノヴァは難しい顔をしてじっと考え込んでしまった。
どうしたんだろうか?フェリチータを取られたと思ったのかしら?
確かにフェリチータはとてもかわいい!!私と絡んでいるとたまにフェリチータの同行者は難しい顔をして黙りこむ 事が多いので、とっても大切にしている子に虫が付くのはと思っているのかななんて思う事は多々あるのだけれど。



「噂?どんな?」
「ばっ、のぞきこむな!近い!」
「ごめんごめん」
「ルカが発狂していたぞ、虫が付くだとかなんだとか」
「またルカ?もう、そんなんじゃないって言ってるのに」
「虫?・・・・・・・・・・私のことかな?」
「お前以外にだれがいるっていうんだ!」
「だってフェリチータがかわいくてかわいくて・・・!」
・・・!」



ピンクに染まるフェリチータの表情もまたかわいくて、私は自分の表情も緩んでしまうのを感じた。
やーかわいいなぁ、こんな可愛い子が毎日職場にいたら、絶対めっちゃ楽しいに違いない!
私の様に キッチンに籠ってリモーネパイを作り続け、飽きたらかわいい女の子を追いかけ声を掛けてという生活もまぁ、悪いとは 言えないけれど、フェリチータが毎日いる職場っていいなぁ、なんて妄想をしていまう。
そんな事を考えていると冷え冷えとしたオーラを隣から感じた、これ超まき散らしてるー超敵意抱かれてるーと声にならない 悲鳴を上げそうになる。でもだってしょうがないじゃん!かわいいんだもの!
あんまり言うと変態と思われるかもしれないからこれでも黙っている方だけど、かわいいんだもの! 一応見た目が男だからさりげなく言う様にしているけれどフェリチータはドストライクすぎて隠せないんだもの!!



「言い訳はしません、かわいいから仕方がない。ね、フェリチータ」
「恥ずかしいよ!」
「ルカとはまた違ったタイプの奴だな・・・」
「ノヴァはフェリチータのナイトみたいだな」
「なっ・・・・・!ちが、こいつが未熟だから僕が見てやらなきゃいけないだけだ!」
「はいはい、フェリチータもノヴァもかわいいかわいい」
「馬鹿にするな!頭を撫でるな!見下げるな!」
「や、それは無理ですよ、ノヴァ。かわいいなぁ」
「可愛い可愛いと連呼するな!!」



にこりと笑い、ノヴァの頭に手を置けば噛みつかれる勢いでまくし立てられた。
きゃんきゃんと喚く犬の様で私に言わせてみればリベルタとはまた違ったタイプのワンコ?どちらかというとネコの様で フェリチータには及ばないもののかわいい。
このままかわいく成長して行って欲しいものだ。そんな妄想がこぼれ出てあふれ出ていたのだろうか、ノヴァにはぎろりと 睨まれたけれど、私はどこ吹く風でにっこりと笑顔を返したのだった。 あーかわいい。












リモーネパイは

  風に吹かれるように


「なんなんだまったく、あいつは!」
「ノヴァも気に入られてたね、頭撫でられてた」
「気に入られ・・・っ、お断りだ!!フェルもあんな奴に構うな」
「ノヴァもまんざらじゃなかったでしょ?」
「・・・・・・あんな飄々とした食えない男・・・!」
「あ、レモンの香り〜ルカがリモーネパイ焼いてるのかな?」
「・・・・・」








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