俺には野望がある。
それは、あの先生のことを名前で呼ぶってことだ。
とりあえずこれは夏休みまでの俺への課題ってことで、自分自身に 出しているんだけどこれがどうも上手くいかないことばかり。 多分苗字呼びに慣れちゃったからってのもあるとは思うんだけど やっぱりなんてゆーか、恥ずかしいって気持ちがあるし 万が一「先生」なんて呼べたとしても変だと思われないだろうかとかいろいろ ぐるぐると考えてしまうからだと思う。






「(先生先生先生・・・・・やっぱ難しいなぁ)」






名前を呼ぶ練習をしながら校舎を歩き回って、先生を探す。
先生は行動力抜群でいつもひとつの場所にいるってことがない。
ほとんどB6関係で動き回ってるからだ。とはいっても副担任である先生には 南先生のように毎日補習をしたりする、ってことはなくって 悪戯しまくってる仙道や、いつもどっかに行ってしまう斑目なんかを教室まで連れて行くという 力技関係の仕事の方が多い。前なんか帰る!と言ってバイクに乗って走り出そうとしている 真壁にタックルして捕まえて南先生の補習を受けさせてた。 危うく轢かれはしなかったものの、その危ない行動にはさすがの真壁も呆れたようで おとなしく教室へ帰って補習を受けていた。 というわけであのB6が真面目に補習してるという影には先生の力も関係してる。






「(先生先生先生・・・・・)」






再び念仏のように唱えながら、俺は放課後の人気のない廊下を歩く。 と、にぎやかな声が聞こえた。お、もしかして先生かも!
俺は小走りでその声が聞こえる場所へと向かっていった。










「キシシッ!覚悟しろよォ?」
「くっそ、そんなでかい水鉄砲持って!おとなしく悠里ちゃんの補習受けろ〜っ!」
「だーれが受けっかよそんなモン!」
「待て!清春くん、それ構えてどうするつもり!!?」
「決まってんだろォ?」
「ぎゃっ!突然発砲するなーっ!うっわなにこれ床べとべとしてるんだけど!」
「カベんとこの特製ネバネバ水だからなァ?」
「くっ!最近のガキは全く!」
「オメーだってガキだろーがァ、その色気の無さとかよォ」
「・・・なっ!失礼!・・・ぎゃっ!当たったらどうする気だ、ボケ!」
「そーゆートコが色気ねェって言われんダロ〜」


「何をやっているんだ、副担」
「翼くん!ぎえぇぇ、つつ翼くんのせいで私はこんな目に・・・!くっ、」
「ふ、副担、俺にしがみつくなっ!」
「い、いーじゃん、ちょっとくらい盾になってくれたって!あれネバネバしてんだもん!」
「Why?なぜ縦になる必要がある!?」
「漢字が違うのっ!」
「(ムカ)オメーら、んなぁにイチャついてんだよッ!」
「あっ、ちょ!ぎゃ!バッ馬鹿!!翼くん行けーっ!」
「教師のくせに生徒を売るのか!」
「だってこのあとデートなんだもんっ。服汚れたら困るじゃない!」





「「「でーと?」」」




突如聞こえたこの単語によってどうやら水鉄砲合戦は一時休戦になったらしい。 俺も思わず隠れていた廊下の壁から出てきて聞き返してしまう。 教師がデートとかそんなことを生徒の前で言ってもいいのか、とかそんなことは頭には 全然浮かばなくて、俺の頭はフリーズ。文字通り真っ白になる。




「真田先生いたんですか!助けてくださいよ!ネバネバ星人から!」
「ででで、デートって・・・・!?(もしや時既に遅し?!)」
「副担!どういうことだ、説明しろ!!」
「おもしろいことになってんなァ?邪魔しに行ってやるからなァ!」



「だから清春くんが補習に来てくれれば悠里ちゃんと補習お疲れ様デートなの!」



「・・・な、なんだそっか。(ショックで立ち直れなくなるかと思った・・・)」
「いちいち、紛らわしいことを言うな!まったくこれだから副担は!!」
「そーゆーことならぜってー行ってやんねェー!」
「そんなこと言わないで、ほらっ行くよっ!!」
「あ、テメ何勝手に手ェ繋いでんだよォ!」
「こうやって連れてかないと逃げるでしょーが!あー衣笠先生にアドバイスもらっといて良かったぁ〜」






文句をたらたらと言いながらもおとなしく付いていった仙道を見るとどうやらまんざらでもないらしい。 いつもの笑みとはまた違った笑みを浮かべている。さては衣笠先生それを見越して先生に アドバイスを・・・?さ、策士だ・・・。
それでもおとなしく引きずられていくわけにはいかないと思ったか仙道は空いた手のほうに何故かスプレー缶をも持って 先生のスーツにシューッと落書きをしている。それに気付いた先生がぎゃあぎゃあと騒いでいる。騒ぎ加減では先生も負けてはいないと思う。
それにしてもあの聖帝のデビルと呼ばれる仙道と隣に立っている真壁のことを いつのまに先生は名前で呼ぶようになったんだ? お、俺のことはいつまでーも「真田先生」なのに!うがーっ悔しいっ! でも名前で呼ばれたら呼ばれたで恥ずかしくなってしまうんだろうってことはわかってる。 それでも俺は名前で呼びたいし、呼ばれたいんだーっ!!!



「悔しいか?」と聞かれたらもちろん俺は「すっごく悔しい!!!!」って叫ぶんだろうけどっ! (実際先生が見えなくなった途端ふふんっとひどく自慢げに真壁に言われた)
そんなこと悔しいからこそ絶対真壁には言わない。何でかってそりゃもちろん俺はオ ト ナ !だからだ。 いずれっ・・・いずれ呼んでもらえるように頑張るからいいんだっ!











オトナの事情
ちゃーん!俺とひと夏のアバンチュールを過ごさないかい?」
「やだなぁ、銀児先生ったらー!」
「(☆@■◇◎#*!!??!?!)」
「真田先生、先を越されましたね。フフッ」
「(なんで?どーして!!?俺こんなのばっかり!!!)」











先生にはへたれでいて欲しいです。そのほうが楽し・・・可愛いからです!