私の受け持ちの生徒で、主夫みたいな子がいます。
その子はバーゲンと聞くと目を輝かせ、セールは欠かさずチェック。
お買い得商品、お一人様2個とかだとあとからもう一回来てまた買っていくような子です。 しかし容姿が容姿なのですごく目立っていて、店員さんには気付かれていると思います。
多分私よりもずっと家計を切り盛り出来て、きちんと貯蓄までできてしまう良い子です。
お金の管理なんかもすごく立派で、無駄遣いが多い私にとってはどっちが先生か分からなくなりそうです。 一円一円を大切にしていて、家計簿を見せてもらったところとても綺麗にまとめてある子です。





「うちの近所のドラックストア、オープンでポイント5倍!」
「なっ本当か!!すぐ行ってくる!場所教えろ!」
「えっとーそこの通り沿いにまっすぐ行って角で右に曲がってそれで・・・・」
「遅い!分かりにくい!!」
「なっ、だって入り組んだところにあるから説明が難しいんだよ!説明するの嫌だ!」
「説明嫌いで教師になるとはどうしようもないな!」
「うっ!!!」





・・・そして結構痛いところをついてくることが多いです。
勉強関係ではそんなによろしくない成績でも主婦も顔負けの節約術なんかをよく知っています。 三角コーナーのぬめりをとる方法だとか、掃除機の効率的な掛け方なんかプロ級でした。 100円ショップで感動してうっとりしていましたが、99円ショップがあると聞いて さらに感動をしていました。
卵の安いところを教えてあげたら、手を握られて「ありがとうありがとう!!」と彼らしくなく取り乱した様子で 感謝されました。普段は滅多にありがとう、なんて言わないのにそういうときだけはすごく素直な子です。 でも、まぁ・・・・そういうところが可愛くて私は好きだなと思います。





「隣町のスーパーの4時のタイムセールでカレールーが一箱なんと88円!!」
88円?!信じられん!
「しかもカレールーだからごっそり買い込んでおけばのちのち楽!」
「よく分かってるな!しかもカレーはいっぱい作れてしかも簡単な素晴らしい料理だ!」
「野菜もいっぱいとれるしね!栄養抜群!!」
「そうだ!で、場所はどこだ!!」
「えっと、多分ここから徒歩30分くらい・・・かなー?」
「クソッ・・・今日は俺の近所でもタイムセールがあるからそれは逃せない!」
「いや、でも自転車こいで行けば15分くらいで着くと思う」
「草薙の自転車を借りれば余裕だな!」
「そうだね、一君に頼まなきゃいけないなぁ」
「よし、さっそく行くぞ!・・・来い!」
「え?ええ?!私も?!まだ南先生のお手伝いが残ってるんだけど!」
「・・・・・それくらい明日言い訳すればどうとでもなる!」





・・・そして突拍子もないことをたまに言い出します。
この時はあまりの真剣さにしょうがないので私は一くんの自転車を借りて、立ちこぎで さらに荷台にその子を乗せてスーパーまで行きました。
その子はカレールーばっかり10個くらい買い込みレジの人も吃驚していました。
確かに、カレールーばっかり10個も買う人がいたらきっと私も吃驚してしまうことでしょう。 でも本人は「これで半年は持つだろう」と自慢げな様子だったので私はあえて何も言わず 暖かく見守ってあげました。
帰りはその子が自転車をこいでくれたので、私は楽チンでした。
しかし私+カレールーで重かったらしくさんざん文句を言われました。
でも行きも重かったと言ったら「・・・でも俺には楽そうにこいでる様に見えたぞ」と言われたので、 くそう、どうせ体力だけがとりえですよーっと負けじと言い返しました。
そうしたら、なんだかやけに優しく微笑まれて頭を撫でられたのであとは何にも言うことができなくなってしまいました。





「おい、今日は俺の近所にある店がセールをやるらしい。行くぞ!」
「ごめーん、今日は南先生が出張で私が一くんの補習をやることになってるんだよね」
「補習?そういえば・・・副担だったな」
「忘れていたみたいですけど実は私クラスXの副担なんです!!」
「草薙か、そうか・・・・じゃあ俺も受ける」
「ええええええええええ?!ママママママ、マジで?!マジですか?!」
「そんなに驚くことはないだろう!」
「いや、驚くって!!先生感動で涙が・・・!南せんせーい!びっくにゅーす!」
「・・・っ!別に良いだろう!!」
「いやぁ、やる気になってくれるとは思わなかったなぁ!うれしいなぁ!」
「・・・・・」




ついには自分から補習を受けると言い出しました。
素晴らしい!素晴らしい進歩です!!4月当初は大の勉強嫌いだったのになんという変貌!! 先生としてとても嬉しくなりました。もともとこの子はおつりの計算とかはすごい早い子なので 頭の回転が速いんだろうなぁとは思っていましたが、やっぱりやれば出来る子なんです!
それからも一くんとだけでなく翼くんや清春くん、瑞希くんや吾郎くんたちとの補習の時にもちょこちょこと 現れては一緒に勉強し、めきめきと実力をつけていきました。
でもまたなんで急に補習を受けるなんて言い出したのかが謎です。 バイトとヴィスコンティっていうバンドの練習で忙しくて大変なはずなのに、合間を縫うように補習に ちゃんと出てくれるようになったことが謎です。 その謎を詳しく追求するとまたへそを曲げて出てくれなくなるかもしれないので言えなかったのですが。





「本当に問題を出すたびに珍解答が出てくるなぁー」
チン解凍?冷凍食品は便利だな!高いのが残念だ・・・」
「ほら、またきた!」
「・・・?」
「可愛い間違いだからいいんだけどしっかり覚えておくこと!」
「先生、ここはど―ゆー風にやんの?」
「ここ?ここはこうしてこれをかけてこの数字をもってきて割ると出る!」
「・・・どうして草薙がここにいるんだ?」
「なーに言ってんだ、お前が後から乱入してきたんだろーが!」
「(バシーンッ)副担!この問題を教えろ!!」
「翼くん、ドアは丁寧に扱うこと!勉強教わりにきたのは偉いって褒めてあげるけど!」
「フッ、俺が偉いのは当然のことだ!」
「あーはいはい、いいから席に座ってねー」
「・・・・・・クソッ!」
「どうかした?」
「・・・・何でもない!!」





そんなこんなで冬も過ぎセンター試験を乗り越えることができました。
補習の効果があったのか試験の結果は上々で満足のいく結果をとることが出来ていました。 ああ、教師やっててよかった!って思うのはこういうときです。 生徒が頑張って結果を出してくれたっていうのは教えたこっちとしても嬉しいものです。 あんまり嬉しかったので南先生とおめでとうパーティをやってしまいました。徹夜で飲んだり話したりで 私たち2人とも翌日にはくまが出来て、とんでもない顔になって生徒達に心配されてしまいました。 そんな酷い状況でも私たちは嬉しくて嬉しくて仕方がなかったんです。
それから寒い冬にも負けないようにとカイロを配り応援しました。なんかその子は灯油まで切り詰めて 生活をしていそうで少し心配だったからです。 「これは、タダか!いい、無料ほどいいものはない!!」と大喜びだったのできっとカイロを選んで 正解だったのでしょう。私はその子の喜ぶ顔が見れて心がとてもあったかくなりました。 そうしてとうとう受験の時がやってまいりました――――!!!













合格した!!!!!
「え?ええええええー!!!おっおおおめでとう!!頑張った、良く頑張ったよ!!」
「・・・ちょっとは落ち着け」
「だってあんなに努力してたんだから喜ぶのも当然だよ!」
「俺自身受かるとは思わなかった」
「うんうん!本当に頑張ったもん!」
「興奮しているところ悪いが、」
「うんうん!良かった良かった!」
「俺は、あなたのことが好きだ」
「うんうん!・・・ってえ?!ああ、うん私も大好きだけど」
「違う!そう言う好きじゃなく!」
「っていうともしかして・・・付き合って欲しーとかそういう・・・・?」
そうだ!むしろ結婚してくれ!先生!!
「えええええええええええええええええ!!?しゅ、瞬くぅぅぅんんん?!」







「駄目か?」と可愛く尋ねられればもうくらくらとめまいがして。
ああもう、好きだなぁなんて思ってしまった私を神様、どうかお許しを!









アンビリーバボー!
「それにしても瞬くんといると無駄遣いが減るなぁ!」
「おい、また菓子を買ってきたな!」
「はっはー!ええじゃないかええじゃないか!」
「・・・それ歌詞に使えそうだな・・・メモメモ!」
「はい、チラシの裏〜」
「お、気が利くな!さすが俺が見込んだだけのことはある!」
「ふふーん、そうでしょそうでしょ!!」
「それもいいな!!!」