「ぜーはーっ、ぜーはーっ・・・・凄まじかった・・・」





聖帝の校門前で息を荒げている者、一人。
彼女が疲れきった様子なのは、通勤ラッシュのせいである。




ここ聖帝はかなりの生徒数・教師数を誇っていることもあって 電車・バス共にすごく混む。そのため教師は車で通勤することがほとんどなのだが 安月給の自分の貯蓄高なんてたかがしれている。
よって車なんて買う余裕なぞなく、電車とバスを乗り継いでの通勤となっている。 しかしそこには生徒も当然いるわけであって、右を見ても左をみても 自分の生徒ばかりにぎゅうぎゅうと詰め込まれながらの通勤になってしまい、 いつも息が上がってしまう。毎朝が戦いである。 しかも今日はなんだか酔ったみたいで気持ち悪い。今にも吐きそうな雰囲気。 手を口にあててはみるものの吐き気は収まらず、うわーどうしよう状態。


周りの生徒達はに目をやるものの、そのままゆうゆうと学校内へと入って行く。 一教師に構っている時間などないらしい、がっくし。

校門で時間を食ってしまったらしい、キンコーンカンコーンという鐘の音が 学校中に響き渡った。・・・・遅刻だ!
は慌てて職員室まで走っていくこととなった。





「ち、遅刻しましたぁーっ!!!すいませんっ!・・・うっぷ」
先生!だ、大丈夫ですか?!」
「うう、南先生・・・ヤバいです。これは危険です、うっぷ」
ちゃぁーん!大丈夫かい?!俺の愛で治してあげる〜!!」
「おえ、葛城先生冗談抜きで止めて下さい、本当に吐きそう」
「ひ、酷!子猫チャーン!傷ついちゃうぜ〜!!」
「葛城先生、黙ってなさい(バコッ)」
「痛っ!!!」
「・・・ありがとうございます、鳳先生・・うっ」
先生、保健室に行ったほうがいいんじゃないかな」
「そうですよ、一時間目は私だけでも大丈夫ですから!ね?」
「す、すいません。・・・寝てれば治ると思います」
「あ、保健室まで一緒に行った方がいいかな?」
「大丈夫ですー・・・多分」
「(多分・・・)じゃあ、気を付けて」
「あいー・・・・うぅ、すみません・・・うっぷ」





とぼとぼと歩く姿はいつもよりもっと小さく見えて、教師陣はほぅとため息を漏らした。
あんな小さな体でいつも一生懸命体当たりで頑張っているのを見るとつい応援してあげたくなって しまうのだが、元気いっぱいで体力もあるの唯一の弱点が朝の通勤ラッシュである。 めったに見せない弱みだからこそ、この時ばかりは余計に弱々しく見えて保護欲をそそるのだろう。








「すいませんーベット開いてますかー」


がらりと保健室のドアを開けたものの保険医はどっかへ行ってしまっているようだ。 まぁ、私も一応教師だし、調子悪いし。
きっとあとから事情を話せば分かってくれるさーははは、と思って、開いているベットに潜り込む。 あーそれにしても吐きそうだ。うぬぬぬぬぬ・・・・。
ここに来てから清春くんの悪戯とか瞬くんの主夫ぶりとか翼くんのナルシーっぷりとか 一くんのアニマルマスターぶりとか悟郎くんの抱きつきとか瑞希くんの昼寝っぷりとかあって、 慣れてきたけど、この酔いはどーにも慣れるなんてことはない。
うーとかがーとか言いながらもぞもぞとベットで寝返りをうつ。こういうのは寝るしかない、 ひたすら寝て自分の酔いの感覚が収まるまでじっと待つしかないのだ。 邪魔が入らなければ2時間目からは普通に授業に復帰できるだろう。 ・・・・・邪魔が入らなければ、の話だが。










「おい、副担!!」
「(あー)・・・・・・・・・」


さっそく邪魔が入った。いや、自分の可愛い可愛い生徒なんだから邪魔とか思っちゃ駄目なんだろうけど。 うん、でも今はそっとしておいて欲しかった・・・。そっと枕を涙で濡らすである。 そんなことは気付きもしない自分の可愛い(はず)の生徒。声からすると生徒その1の真壁翼くんの様な気がする。





「こんな安っぽいカーテンを使っているのか!永田!すぐに違うものを取り寄せろ!!」
「――はい、翼さま」
「まったくここの連中はセンスというものがなってない!」




・・・様な気が、ではなくそれは確信に変わった。絶対に翼くんだ。
しかもあのすさまじいセンスでこの保健室を統一するつもりだ。翼くんの言うセンスがどんなもの なのかは知りたくもないが、そっちに気がいっている間にちょっとでも温存しておこう。 何、ってツッコミとかのエネルギーだ。






「見つけたぞ!!!副担!」
「ぎゃあ!!」


布団をぎゅっと握ってそのなかに頭を入れてなるべく見つからないようにしようとしたつもりだったが あっという間に見つけ出されて、温存どころじゃなくなった。
しかもあろうことか布団をひっぺがされた。翼くんはどこぞのお母さんか! 「こら、早く起きなさい!」みたいな。なんかのび太くんになった気分。





「つつつつつつ翼くん!ぐっともーにんぐ」
「・・・Good morning、副担」
「く、無駄に発音が良いな・・・!」
「相変わらず発音はがたがただな、フッ」
「なんですとー!!!・・・うっぷ、ふ、布団返して・・・」
「調子が悪いのか?」
「バスで酔っただけー・・・・・」
「・・・Bus?バスごときで副担がか?!」
「信じられないって顔しないでよ!・・・うっ」





未だにびっくりして固まっている翼くんから愛しの布団を取り戻し、勢いよくかぶって おやすみのポーズ。あーヤバい吐く、こりゃ吐く。翼くんに勢いよく怒鳴り返したせいで こう、胸がむんむん?むかむか?むらむら?するような。あ、むらむらは危険だった。








「副担、本当に調子が悪いのか?!」
「ぎ も ぢ わ る い のー・・・・悪化したかもー・・・」
「副担が気持ち悪い、などというのを俺は初めて聞いた」
「そりゃ私でもたまには調子も悪くなるでしょーよー・・・うぐ」
「Fuu・・・こんな硬いベットで寝ていては治らんだろう」
「いや、放っておいてくれればそのうち治「そういう訳にはいかない!」
「永田!最高級のベットを取り寄せろ!!いますぐにだ!」
「――はい、翼さま。5分以内に」
「あとは副担、そういえばテイハンパツの枕が欲しいとか言っていたな」
「うー・・・低反発の枕ね」
「それも取り寄せろ!!」
「本当に放っておけば治るか「あとは薬だな!永田!」
「――真壁財閥所属研究チームに連絡が取れ次第手配します」
「よし!」
「・・よし、って・・・うっぷ」





ベットの傍の安っぽいイスに腰を下ろしつつ、保健室に絨毯でもひくか、とぶつくさ言っている 翼くんは滅多に見ない真剣な顔つきで、補習の時もこれくらい真剣になってくれたらなぁ、なんて ちょっと笑ってしまった。おっともう授業は始まっている。
翼くんは教室に帰りなー、と言い、布団から顔を出して自分がベットに寝ているせいか やけに大きく見える翼くんを見上げた。
でも思いがけず翼くんがなんだかすごく寂しそうな顔をしていて、なおかつ動く気がなさそうなのを 感じ取って、教室に帰りなさいってもう一回言おうという 気にはならなくなってしまった。例えるなら、捨てられた子犬みたいな、あの良心に訴えかけてくるようなビーム出してる みたいだったから。



自意識過剰すぎるのかもしれないけど、それでも心配してくれたことが嬉しくなってしまって、 湧き出る気持ち悪さをほんの一瞬忘れられた気がした。
それからギシギシとなるベットから身を起こして、翼くんの頭をくしゃりとなでた。





「副担!何をする!!?」
「え、なでて欲しそうだったから、つい」
「そんなつもりはない!!!」
「そっか、ごめんごめん・・・心配、してくれてありがとう」
「Worryだと?!俺はそんな・・・!」
「はいはい、そうだね・・・うっ!」
「ここで吐くなよ!永田!薬はまだか!!」
「薬はもういいって。翼くんが来てくれたからそれでじゅーぶん!」





私が言い終わるのと同時に翼くんの顔がかぁっと赤くなるのが見て取れた。
もうこっちを見ようとしない翼くんだけど、でもやっぱり傍にいてくれるだけでうれしかったんだ! ああもう可愛いなぁ。一向に収まらない吐き気だけどたまにはこんなのもいいんじゃないかな?









心配症は愛ゆえに
「(シャッ)お前ら、うるさいぞ!!」
「瞬くん、どっから出現したの?!」
「隣で寝てたんだ!!」
「そのまま寝ていてくれれば良かった・・・」
「どうかしたの翼くん」
「ななな、何でもない!!」
「(ガラリ)プリティーゴロちゃん登場だよー!!あ、ツバサやっぱりここにいたー!」
「・・・いたら悪いのか」
「べっつにー?走って教室出てっちゃったからどこいったのかなぁーって思っただけー」
「・・・・っ悟郎!!」
「(ガラッ)先生!大丈夫ですか!!」
「南先生まで!?」
「今は休み時間なんで大丈夫です!!」



みんなに愛されてるといいなぁと思いました(作文)
ちなみにシャッてのはカーテンを開ける音でガラリとガラッはドアを開ける音です