お昼休みってなんだか無性に眠くなる。ほら、今もあくびが出た。
でもそれもしょうがないんだろうなとは思う。だって昼ごはん食べたあとで、さらに すごく暖かくて気持ちいい午後の日差しが中庭には降り注ぐからだ。

そんないい場所だけれど、ここは人の気配がほとんどない。
ここは腐ってもブルジョワ校で、中庭なんてわざわざ来なくても敷地はあまりあるほど あるし、中庭の必要性なんて告白場所くらいしかないんじゃないかって思う。 あ、それは裏庭か。ぶっちゃけ聖帝には庭が多すぎて庶民出の私から見れば無駄な敷地ばっかりだ。




足と手を投げ出して一人でベンチを占領し、はぁー、と胸に溜め込んでいた空気を吐く。
別にため息つきたい気分でもないんだけど、こうまったりとした空気が流れると お茶を飲みつつぷはーってやりたいなぁ、なんて。あ、それだったらビール飲みたいなぁ! ぷはーって。いやいやオヤジくさいとか言うんじゃありません。 一人、酒盛りってのもたまにはいいかもねぇ、とか思ったりする。






「先生、さすがに職場で酒盛りはヤバいだろ」
「ビールをこっそり持ち込んでやれば大丈夫・・・っていつのまに!」
「さっきから居たって。先生が大きなあくびしてるところから」
「み、見たな!」
「たまたま見えただけだって。相変わらずだな先生は」
「ねぇ、ところで一くん。なんでここにいるの?」
「え?」
「だーかーらー、一君は卒業したはずでしょ!大学はどーした大学は!!」
「うっわ、怒んなって先生。今日は午後からは授業なしだから高等部に寄っただけ」




突如後ろから現れたのは草薙一くんだった。ああ、超びびった!
一くんは私が聖帝に転任してから初めて南先生と一緒に受け持った生徒だ。 最初はどたばた色々あったけど、なんとか最後は聖帝大学へと進学した。 その努力は私もすごいと素直に感心するほどのものだったし、合格通知が来た時は 嬉しくて涙涙でものすごい状態になったことを指摘されても全然構わないくらいに感動した。 私の努力もだけど、あんなにおばかさんだった皆がちゃんと考えられる子に成長したことを 私は誇りに思ってる。もともとは皆いい子だったんだし、当然っていえば当然なんだけど。

南先生と一くんを始めとしてB6の皆を追い掛け回したことを思い出しては笑い、 そしてまた彼らが卒業した後も私はクラスXの副担として頑張っている。




「あ、鳳先生にも挨拶した?」
「いや、まだだけど」
「鳳先生ね、一くんのこと気にしてたよ。前一緒に飲みに行った時に言ってた」
「一緒に?飲みに?・・・待て先生!」
「何さー。色々話したいって楽しそうに言ってたよ」
「いや・・・その・・・鳳先生と?」
「うん。色々相談のってもらったりね、私もあんな教師になりたい・・・!」
「そりゃいい先生だったけどさ・・・・」
「そうだね、頼りがいもあるし、大人って感じだし!!」
「先生は鳳先生がタイプってわけかー」
「タイプのひとつっていうか、うーんそれだったらお坊ちゃんも好きかなー」
「マジ!?翼か?!翼なのかーっ!?」
「な、なんか一くん今日壊れてない?」
「い、いや・・・別に」




がっくしと肩を落とす姿は言っちゃ悪いけどなんか可愛い。アニマルマスターなんて異名を持つ 一くんだけど、一くん自体もアニマルみたいで可愛い。まぁ、とりあえず ここに座んなさいと起き上がってぽんぽんと自分の隣を指す。
一くんはちょっとためらうような表情を浮かべたけど、あー!!とか急に叫んだ後、 どすっと音を立てて私の隣に座った。







「・・・・」
「・・・なんで黙ったままなの、一くん」
「別に・・・」
「・・・拗ねた顔も可愛いけど、何があったのか言ってくれなくちゃわかんないよ」
「俺は・・・俺はどうせ可愛い生徒だよ!!」
「いや、うん可愛いけど」
「真面目に頷かれても困るってゆーか・・・・」
「だって可愛いじゃん!!困った顔とかさ!うん!可愛い!」
「可愛いって言われても嬉しくない!」
「悟郎くんは喜んでたけどなー。しかしアレはかわいー。羨ましい」
「悟郎と一緒にしないでくれ・・・先生」
「ああ、ごめんごめん。悟郎くんは別格だった」
「・・・俺は頼りないし大人っぽくもないしお坊ちゃんでもない」
「・・・?」
「それでも、俺は先生のこと好きなんだけど」
「う、わー・・・一くん。殺し文句だね、それ」
「先生俺はマジなんだけど?」
「分かってるって。一くんの言うことを疑うわけないじゃん?」
「さっすが先生だな。でもそういう台詞は俺の目を見て言ってもらおうかー」




そう言いながらぐっと迫ってきた一くんを見て うーわー格好良いなぁ、なんてことを考えてしまう。 さっきまでは可愛かったのにいきなり格好良いモードに変身してしまった。わお! だから先手必勝、息がかかるくらいの距離まで近づいてきた一くんにコツンとおでこを合わせてふっと笑う。 一くんはあっけにとられた、また可愛い顔でぽかんとしている。
あーかわいー。




「頼れるとか大人っぽいってのはタイプの1つって言ったじゃん」
「・・・んじゃお坊ちゃんは?」
「ん、まぁそれも好きだけど。石油王の嫁特集とか見るとねー」
「俺じゃ石油王の代わりにはなれないか?」
「馬鹿だなぁ、石油王にならなくたって私の1番は可愛い可愛い一くんだよ」




その言葉を聞いてさらにあっけに取られた様子の一くんを見て、 私はアニマルマスターの嫁だって大歓迎ですとも!と一くんに向かって言う。
それから、一くんをぎゅっと抱きしめて耳元で可愛いってまたひとつ大好きな可愛い一くんのために 言ってやった!ふふっ。









とっておきの言葉
「・・・鳳先生と2人で飲みに行ったってのは・・・」
「へ?2人じゃないよ」
「(良かった!!!)」
「葛城センセーと・・・・」
「(余計悪い!!)」
「あとは九影先生と・・・・二階堂先生と・・・」
「(そうだ!)南先生は一緒にいかなかったのか?」
「ん?ああ、南先生用事あるから帰っちゃってさー残念だったなぁ」
先生・・・これからは俺を呼んでくれ・・・頼むから」
「一くんが頼みごとなんて珍しい!大丈夫、酔いすぎて終電逃すことはない!」
「(鈍いんだか鋭いんだかわかんねーな)いいから連絡してくれ」






色々苦労してる一くんが好きです