聖帝というのは超お金持ち学校である。
けどこの聖帝の異常なところはところどころに現れていて、ほかの学校にはないもの ばかり。いやぁ、もうまったく困っちゃうね。赴任したての頃は、半分泣きそうになりながら 仕事をしてたけど今じゃそれも日常茶飯事。当たり前のことになっている。慣れって怖いね。 どこが変かというとバカサイユ、なんて馬鹿丸出しの建物が建ってたり、舞踏会が あったり日常とはどこか・・・かなりずれている この聖帝で私はひとりのとんでもない問題児と出会うことになる。

B6といえば、顔はいいけど頭は馬鹿。そんな生徒たちだと赴任してから教えられた。 そのときはまだ自分が関わるなんて思ってなかったから、そっけなく返事を返したような 気がする。実際のところ自分がどう思っていたかなんて、ほとんど覚えてない。
その見方が変わったのは梅雨のじめじめした頃だった。





そのときの私は、普通にクラスBの副担をして平和な日常を過ごしていた。
教室で書類の整理をしてから(私は職員室よりも教室でやるほうが学生時代を思い出せて好きなのだ) 書類を持って職員室へ帰ろうとしていた。
少し歩いた後廊下を曲がったら、急に視界が変わって上に持ち上げられたような感じがした。 なんと網に引っかかったらしい。そんなの漫画でしか経験できないことだと思ってた。 魚体験である。地引網とかそういうのらへん。それにしても何この防犯。え、網って捕獲用だよね!? おいおい、ブルジョワなんだから網とか古典的な方法使うなよなぁー。
でもどうやって下りようか考えて、あたりをきょろきょろと見回していると 私が曲がってきた廊下の角から一人の生徒が現れた。



「キシシシッ、間抜け面しやがって。バッカじゃねーの!」
「・・・・?誰」
「ケッ・・・この俺サマを見て誰、だと?知らねーのか、女教師チャンよォ!」
「来たばっかりだからよくわかんなくて。何コレ地引網?」
「反応薄いっつーの!マジつまんねぇ!」
「つまんない奴で悪かったわね!じゃあなたはさぞかし楽しい人なんでしょうね!」
「モチロン!俺サマ退屈は嫌いだぜェ。これでもくらえってーの!」
「うぎゃっ!ちょ、つめた!冷たい!卑怯じゃんコレ!私動けないし!!おーろーせー」
「ヒャハハハ!!お望み通り下ろしてやるぜェ〜!ほーらよっ」



その生徒がそばにあったロープを引っ張ると網がすとん、と落ちた。
実際はその中に私が居たわけだから、どすんと大きな音を立てて落ちた。としておくべきだろう。 しかしマジで痛い。ありえない。ぶつかったところ全てが痛いし。
しばらくうずくまって痛みが過ぎ去るのをじっと待っていたんだけど、若い頃とは違って 痛さはなかなか遠ざからない。はぁあ、私もおばさんになってゆくのね。 ああ花の乙女のセブンティーンにかえりたい・・・!


しばらく何も喋らずじっとしたままだったけど、ふとあいつはどこへ行ったんだ?とか 言う考えが湧いてきた。何しろ落とされてから少しの音もしないわけだから、気になっても当然だと 思う。・・・ まさか私をほったらかしで逃亡したんじゃあるまいな!うっわそうだったら絶対探し出して 首しめてやる!報復だ、報復!!
そんなことを考えながら顔をようやく上げると、少し足を曲げてポケットに手を入れた状態のあいつがドアップで現れた。 あ、あいつとか仮にも大事な大事な生徒のこと言っちゃってるけどこの際無視します。 当然です。教師になんてことすんだ、こいつ。あ、こいつになった。いやそんなことはどうでも良くて。



「う、うわ!びっくりした!てゆかもうどっか行ったと思ってた!」
「俺サマは心優しーから、女教師チャンの百面相の観察をしてたんだぜーッ!」
「ど・こ・が、心やさしーのかなぁ?是非聞いてみたいなぁ。はははは・・・」
「何だ?俺サマのいうことになんか文句でもあんのかァ?」
「普通、あんなことされたら文句言うでしょ。ウォーターガンのせいでびしょびしょだし!」
「ケケケケケッ!たーのしーぜ!まじで最高!ほらこれもくれてやるぜェ!」
「(ビチャ!)うっわ、ねばねばしてるし!なんじゃこれはー!!」
「もう一発くれてやる!ほーらよっ」
「・・・っ!キャッチ!!お返しだよっ!そらっ!」
「(ビチャ!)・・・っ!何しやがんだテメェ!!」
「はーいもう一発!く・ら・え!」
「やりやがったな!もう何やっても文句は言えねーなァ!そーダロ?くらえっ!」
「いい加減に・・・!はっ!!しょ、書類!!」


すっかり存在を忘れていたけれど、はっと思い出して紙袋に入れた書類を見る。すると 私が放課後全部を使って綺麗に(ここ重要ね!)綺麗にまとめた書類がそりゃもう見るも無残な 姿で発見された。バラバラ殺書事件とも言っていい。むしろバラバラっていうよりも、 ぐちゃぐちゃに水に浸っちゃってて、あともう訳のわかんないねばねばしたものも ついていて、とても読める状態じゃない。バラバラ以前に解読不可能!
な ん て こ っ た ! さ い あ く だ ! !

意気消沈してがっくし来ている私に追い討ちのように声がかかる。


「また教室で一人寂しくやればいいんじゃねーの?ケケケッ!!」
「な、な・・・!!これやるのにどんだけ掛かったと思ってんの!」
「・・・フーン。ま、頑張ればいいんじゃね?」
「ちょ、後で説教よ!説教!!クラス、名前言いなさい!!」
「こんなに有名だってのに知らねぇなんてよォ!教えるワケねーダロ!」
「だから赴任してきたばっかなんだって!」
「・・・教師なら調べろっつーの!ヒントはクラスX在籍ってコトだ!」
「言ったわね!!がっぽり調べてやるから首を洗って待ってなさい!約束よ!」
「約束・・・嘘ついたらハリセンボンのーますってか?」
「ハリセンボンじゃなくて針千本だからね!?」
「んじゃなー!女教師チャン!」
「こら、人の話は最後まで聞きなさーいっ!!」


そいつは悪魔のような言葉を残して、嵐のように去っていった。
完全に真っ白になった私をびしょぬれの廊下にひとり残して。



「(あれ、何で私がひとりで教室でやってるって知って・・・?)」



ほんのちょっとの違和感を残して消えたあの生徒。
しかし調べると言っておきながらきっと忙しさに負けて忘れてしまうかも、どうしようなんて 思っていた私が馬鹿だった。よほど反撃されたのが悔しかったのか、あの生徒は毎日悪戯をしかけにくるのだ。 爬虫類が降って来たり、水が飛んできたり、ねばねばしたボールが飛んできたり・・・いろいろと。 ああ、もうこんなんでは忘れたくても、忘れられるはずがない。
ほとほと参っていた私のもとに突然、一通の通知が配られた。 嫌な予感がして、ぱっと封を切って見てみるとそこにはこう書いてあった。

――クラスXへの副担に任命する」






な ぜ だ !わ た し が な に を し た と !
嫌な予感どころではない、超絶に最凶にウルトラハイパー嫌な予感が見事に的中した。 クラスXってあれじゃないか。あいつがいるところじゃないか!
そうして翌日クラスXの担任である南先生の後をうなだれるように付いて行き、そこで やっぱり見事あの生徒、後で知ったことだけど聖帝の悪魔、仙道清春くんと運命の再会を果たしたのであった。 え、全然感動じゃないですからね!


「今日からこのクラスの副担になります・・・あああああああああああ!!!!」
「やーっと見つけたな、女教師チャーン!これからヨロシク?」
「ぐあああああああああああああああ!誰がヨロシクするかぁ、ボケェエエエ!!!」





カレとカノジョの約束
「カベー、頼みがあんだけどよォ」
「何だ、清春が頼みごとなんて珍しいな。いつもは頼む、なんて言わないだろう」
「キシシッ、をうちのクラスの副担にしてくれれば良いだけだぜェ!」
「またお前は突拍子も無いことを・・・まぁそれくらい訳もないことだが」
「頼んだぜーッ!ケケケッこれからが楽しみだなァ!」
「・・・?」
「ついでに葛城と真田は、どっかに飛ばしてくれれば良いぜェ!」
「オッサンは賛成だが・・・でもこの2人はきっと戻ってくるぞ」
「ケッ・・・こいつら邪魔なんだよォ!」
「何か言ったか、清春」
「なんでもねェーっ!」





清春くんは見た!正確にはずっと見ていた!見たいな感じで。
約束してくれたのが嬉しくて、毎日悪戯しに行って忘れられないようにして、
そうしていつかは頭もこころも自分でいっぱいにしてやろうという野望が芽生えて
その先まで書きたいなぁ。という私の野望。