「おはようございます、えっと欠席は・・・」
「南先生、瞬くんがいませんー!」
「え、ほんとに?先生、昨日の補習の時は何か言ってた?」
「欠席するなんてこと言ってませんでしたけど、何かあったんですかねー?」
「そうね、欠席なんて珍しいし・・・」




今では滅多に席が空くことのない状態に満足していたら、この予測不可能な事態が発生した。 B6の皆も一応HRには出席してくれるようになったんだけれど、 今日はぽっかり一つだけ席が空いている。瞬くんの席だ。



「はいはいはーい!ゴロちゃんも何も聞いてませーんっ☆」
「悟郎くん、わかんないなら言わないの!」
「ぷーっ!センセのケチ!」
「ケチだとぉ?!」
「FUU・・・朝からゾウゾウしいぞ、副担。すこしは落ち着け」
「落ち着くのは翼くんのほうだし!ゾウゾウしいって何?!騒々しいでしょーが!」
「あ、あの先生、落ち着いて」
「南先生〜!だって間違ってるのって直さないと気持ち悪いじゃないですか!」
「私もそれは思うけど・・・翼くん、今日は国語の補習をしましょう」
「WHY?何故そんなことをしなければならん!」
「でも瞬のことは俺たち何も聞いてないぜ・・・?おっかしーなぁ」
「・・・連絡・・・し忘れ・・・?」
「朝、俺サマが悪戯しかけてやったときには人の気配があったぜ?」
「じゃあ、朝にはいたんだよねー・・・」





もともと授業に出席することはなかったとしてもバカサイユにはいる瞬くんのことだ、 今日B6の皆も見てないというのはどうもおかしい。 しょうがない、瞬くんの家に電話かけてみるか。バイトで疲れて二度寝しちゃったとか あるかもしれないし。何の連絡もないっていうのは心配だからね。

職員室へ帰って電話をかけてみたが、トゥルルルルルル、トゥルルルルとコール音が続くばかりで ちっとも肝心の本人は出てきそうな気配がない。 お昼、夕方、補習後とまたかけてみたが、それも駄目。 B6の皆もそれぞれ電話をかけてくれたらしいが、本人には繋がらなかったらしい。 翼くんなんかは、携帯電話を持たせておけばよかった・・・!と言っている。 確かに、瞬くんは携帯電話を持ってないから、家に電話するしかないんだよねー・・・。 うーん、私もそんなに携帯電話なんて使わないから分からなかったけど、なければないで不便なものだ。



補習後、心配だったので帰宅途中で南先生と瞬くんの家へ行ってみたのだが、インターフォンを 押しても反応がない。どうやら家には居ないようだ。 本当にどこに行っちゃったのよ・・・!がっくりして、とりあえず明日まで様子を見ましょうと いうことになった。南先生と私はがっくしと肩を落として、とりあえずは家への道のりを とぼとぼと歩いた。きっと明日には連絡つくよね、という希望を抱いて。






「HRを始めます、えっと欠席はー」
「はいはい!センセ、またシュンがいないんだよぉ〜!」
「俺からも連絡してみたけど、出ないんだよな、あいつ」
「やはり携帯電話を持たすべきだったな・・・!」
「連絡・・・つかないと・・・不便・・・」
「そうそう、ナナにはGPS機能がついたやつがいいんじゃねェの?ヒャハハ!」
「おっ、清春くんすごい!GPSを知ってるとは・・・!」
「それを使って悪戯してやるぜーッ!!!」
「褒めたのに・・・台無しー!」
「キシシッ!」
「それにしても連絡が二日もないなんて・・・」



南先生も私と同じように困り顔だ。
今までにこんなことは一回もなかったし、欠席の時には連絡を誰かから通じてしてくれていたはずだ。 それが今回に限っては、一度の連絡もなく行方も誰も知らない。 もしかして瞬くんが危険な目にあってたりとかしたらどうしよう! パニックになりかける私をゴロちゃんが心配そうに見てくる。 ああ、私がパニックになったら駄目だ、余計に皆が不安がってしまうから。 落ち着け落ち着け、自分!



「真壁財閥所属捜索チームを結成させるか?担任、副担」
「確かに翼くんの力があれば探し当てることができそうだけど・・・」
「南先生!私、もう一回瞬くんの家まで行ってみます!」
「それがいいわね。とりあえずもう一回行ってみてから決めましょう!」
「永田!一応準備させておけ」
「――はい、翼様。了解致しました」
「行ってきます!!」






校門を走って出て、駅まで走る。電車に乗ればすぐの所に瞬くんの家はあるから、 便利な立地といえば立地だけど、それでももどかしい思いを感じずにはいられない。 プシューっという電車の扉の開く音と同時に電車に乗り込む。 きょろきょろ、と周りを見渡してみれば、もうすでに通勤ラッシュの時間は過ぎ、まばらに 人が乗っているだけだ。ため息ともつかぬ息を吐き呼吸を整えながら、座席に座る。 ここから瞬くんの家の近くの駅までは5つある。 ああ、もう早く早く!途中の駅なんてすっとばしてよね!



焦る気持ちだけが募り、いてもたってもいられなくなったけれど電車の中ではさすがにどうしようも ない。とにかく目をつむって気持ちを落ち着かせてみる。 走ってきたせいもあるのだろうが、心臓がどくどくといっているのが聞こえてくる。 またプシューっという音が聞こえて人が乗り込んでくる音が聞こえる。どうやら一つ目の駅に 停車したようだ。 そんな中、パタパタパタ、と靴の底が音を鳴らしながらこちらへ近づいてくる気配がした。 どうやらその人は隣に座ったらしい。 まぁそんなことはどうでも良いのだが、とりあえず瞬くんの無事だけを祈って、 早く早く早く・・・と念仏のように唱えてみる。こういうときだけ神頼みだ。 祈ることに必死だった私は、周りの状況を冷静に判断できるような感じではなかった。



がたんと電車が揺れて、ぐらりと揺らぐ体。
その振動のせいか、乗ってすぐ眠りに入ってしまったらしい隣の人の体もこちらへ傾いた。 いやいやいや、こっちがもう真剣で人の身を案じてるって時になんとも無礼な奴だ。 隣の人にこちらの気持ちを分かれというのも無理なことだが、それでも少しいらだたしい。

元の位置に戻してやろう、と思いふっと目を開けてみれば、なんだか見慣れたような赤色の綺麗な髪。 んん?と思って視線を頭から顔にずらして見れば、見たような顔。 あーれーれー・・・瞬くん?もしかしてこの人の肩に顔乗っけてぐーすか寝ているのは しばらくの間行方不明だった七瀬瞬くんではないですか・・・? でかい荷物だと思ったら、ご丁寧にベースも一緒である。
びっくりしていると電車が急カーブを曲がって、瞬くんの体がぐらりとさっき以上に揺れ、 ぽすっと私の膝に頭が乗る。いやいやいや、目覚まそうよ!おーいおーい!



「へ?ちょ、ちょっと!!ねぇ!!」
「ん・・なんだ。俺は眠いんだ」
「はぁ?いやそういうことじゃなくて連絡もなしにどこ行ってたの!」
「ヴィスコンティの新曲の打ち合わせだ・・・」
「連絡くらいしなさい、心配したじゃんか!!」
「・・心配・・・。あ、そこはフレーズが・・・!」
「ちゃんと起きなさい!」
「クッ・・・リズムが違う!!」
「こら!起きろ!!」



もしや寝惚けている・・・?と驚愕のまなざしで瞬くんをまじまじと見つめると、 明らかに夢の中である。それにしても最初は打ち合わせがどうのこうのって言ってたから、 微妙に意識はあったのだろうが、またしても夢の中に入ってしまったようだ。 とりあえず南先生には連絡をいれておく。そう、良かったわ、と心底ほっとしたような声を あげた南先生に、今から学校に戻りますと伝えて電話を切る。 さて、目的地がまるっきり逆になってしまった。乗り換えなきゃ。 未だに夢の中の瞬くんを揺すって起こそうとする。



「放っておいてくれ・・・眠いんだ」
「学校帰んなきゃいけないから起きろー!」
「・・・やっぱりそこは変えたほうがいいみたいだな・・・」
「お・き・ろー!!!!」
「(バシッ!)・・・っ!痛っ!また仙道の馬鹿だな!絶対に殺す!!!・・・先生?」
「ええ、そうですとも。あなたの先生ですよーははは」
「なっなな、なんで先生がここに・・・!?しかも膝枕?!」
「やっと起きたか・・・よーし帰るぞ!」
先生!事情を説明しろ!」
「こっちが聞きたいよ!もう!!」









おいしい体験をした
「シュン〜!!ゴロちゃんすっごく心配したんだからね〜?」
「ああ、すまなかったな(膝枕膝枕膝枕・・・!)」
「瞬、お前はこの携帯を持て!連絡がつかないと困るからな!」
「翼・・渡すのはいいけど、その携帯の色のセンスどうにかしろよ」
「最高の色づかいだろう!何せ俺がデザインしたんだからな!ハーッハッハッハ!」
「ああ、ありがとう(膝枕膝枕膝枕・・・!)」
「ちょっとシュン?どうかしたのポペラおかしいよ〜?」
「ナナが変なのはいつものことだろォ?キシシッ!」
「ああ、別になんでもない(膝枕膝枕膝枕・・・!)」
「おかしい・・・先生と何か、あった?」
「・・・膝枕!なっなんでもない!」
「膝枕?もしかしてセンセーに・・・?ゴロちゃんパラッペ羨ましーっ!」
「何?瞬のやつ先生に膝枕してもらったのか?ずりーぜ!」
「あああああああああああ・・・・!」
「おい、瞬!落ち着け!!クソ・・・今度は俺が行方不明になる!永田、ヘリを出せ!」
「翼こそ・・・おちついて・・」
「ヒャハハハハ!動揺してやんのォ!笑えるぜッ!」







動揺しまくる瞬くん、かわいすぎる。妄想に走りすぎました。