これ!次はこの歌詞でいく!とヴィスコンティ愛用のスタジオで そのリーダーである七瀬瞬はそう声高らかに宣言した。 それを覗き込んで固まるメンバーたち。これは・・・なんだか・・・うん、 そんな微妙な空気を纏いながらそれぞれ顔をあわせる。 そんなことには気付きもせず、リーダーは得意そうに頷いた。




「なぁ、瞬。こ、これは・・・ちょっと俺歌えない・・・」
「そうだなぁ、これを歌うのは拷問に近いかも」
「はぁ?なんでだ?この俺が寝ずに考えた歌詞だぞ!歌えないってことあるか!」
「いや、歌詞が・・・うん。まぁそう言う問題じゃなくてさ」
「なんだ、何が言いたいんだ、祐次」




新生ヴィスコンティになってからというものの、前の瞬からは想像もできないほどの 譲歩ができるようになったことに、メンバー全員びっくりしつつも、感謝している。 前だったら確実に曲の相談などでメンバー全員の感想を聞くだなんてありえなかったからだ。 それゆえ、彼を変えてくれた彼の担任、副担教師には多大な感謝を送るばかりである。

とまぁそこまでは良かったのだが。


「(なーんか最近ラブソング多いんだよなぁ・・・恋か?)」


祐次が疑惑の目で見るのも仕方がないくらい、最近の瞬が持ってくる歌詞はラブソングばかりだ。 しかも歌うのが恥ずかしいくらいの歌詞。激甘。聞いたら糖尿病で入院してしまいそうなくらい、 甘い。これをそのまま歌ってしまうと、かなーり厄介なのである。 まぁ歌っている自分が恥ずかしいってのもかなりの割合を占めているのだが、あまりに 甘い歌詞のせいかスタジオ内が薔薇でも舞っているような感じになってしまうのである。 歌っているこっちが酔ってきそうだ。




多分、瞬が好意を寄せている人物へこの曲を捧げたなら一発でころり、な気もするが、 それもそれであまりの歌詞のすさまじ・・・素晴らしさにびっくりしてしまう可能性も考えられ なくはない。
そして、そんな人物が瞬の周りに急に現われたとも思えない。 彼の担任の南先生か?ともメンバーで相談して みたりもしたのだけれども、彼の南先生へのまなざしはいつだって尊敬とか信頼であって、 けして恋、というものではない。ということは、


「ねぇ、やっぱ副担の方じゃないの?」
「前、瞬の友達が言ってたよな・・・副担は呼ばないのか?!って」
「瞬のことだから肝心な人はライブに呼べないとかじゃないの?」
「あーもーじれったいなぁ!」
「別に・・・いいと思うけど。青春・・・」

「おいお前ら!何やってる!」

「はいはーい、今行く!」



とりあえず、あまりにすさまじ・・・素晴らしいところは多少カットしつつ、どうにか 歌えるような歌詞に変更し、メンバー全員でここはこうした方がいいんじゃないかなど いろいろミーティングも兼ねながらの練習に、祐次がほっと内心ため息をついていた時、 唐突にそれは起こった。






「はいはいはーい☆ポペラやっほー!ゴロちゃんだよー!」
「悟郎!なんでここに・・・?!」


ドアの方を見てみれば、これはこれはまた可愛らしいツインテールの美少女の登場である。 メンバー達はもしやこのこいつか?!とも思ったけれども、瞬から聞いていたとおり、こいつは 男だ、という知識が頭の中に入ってきた。しかしよくライブなどを見に来てくれていて見慣れているとはいえ、 やはり可愛いのも事実だ。そこらへんの女の子よりもずっと可愛い。 いやでもいくら瞬でも男はなぁ・・・・ありえないよな。 メンバー内の心の声が一致した時であった。


「ゴロちゃんだけじゃないよ?シュンのためにぃ〜、連れてきてあげたんだからっ!」
「は?誰をだ?真壁か?草薙か?斑目か?まさか・・・仙道じゃないだろうな!」


顔が引きつっているのがここにいる祐次からでもよく分かる。 そういえばいつも喧嘩してるよなぁ〜とのん気に考えてみたりする。 前なんてその悪戯で楽屋が花でいっぱいになってしまったことを思い出す。 あれはあとの始末が大変だった。メンバー全員腕いっぱいの花を抱えて帰ったっけ。



「やだなぁ〜シュン。キヨを連れてくるわけないでしょー!」
「だよな、いくら悟郎でもそれはないな。じゃ誰を連れてきたんだ?」
「へっへーん!ね、ねっ、入って入って☆パラッペ入っちゃって〜!」
「・・・・?」
「ちょ、悟郎くん、ここどこ?・・・ん?あれ、瞬くん?」
「な、あ、あんた!なんでここに?!いや別に来て欲しくないとかそういうことじゃ・・・」
「今日は補習だったんだけど、悟郎くんに引っ張られてね〜」
先生にシュンの頑張っているとこ見せたかったのー☆」
「「「「・・・・・」」」」




平静を装ってはいるが、長年の付き合いだ。いつもの瞬らしくないことぐらいすぐに分かる。 歯切れが悪いというか、目線をさっとずらすあたりがとても怪しい、と祐次は睨んだ。 もしかして・・・この人?と龍太が呟くのを聞いて他のメンバーもうんうん、と頷く。 確かに、こんなに分かりやすいとは思っていなかったけれども、なんだかそれらしい。
とりあえず接触を試みてみる。


「初めましてか、先生?」
「そうだね、えっとこんにちは。瞬くんの副担のです」
「よろしく、先生!俺、祐次」
「こっちこそよろしく!仲良くしてね!祐次くん!」




すっ、と手を差し出されて、握手を求められる。目を合わせると、にこっと笑いかけられる。 これまた南先生とは違った感じの人だ。なんていうか元気系というか。 握手に応じるために自分も手を差し出す。とその瞬間、いつのまに移動したのか俺の前に瞬が横から割って入ってきた。 ちょうど握手が出来ないように妨害できる立ち位置で。


先生・・・練習を見に来たんだろう?」
「うん、まぁせっかく来たんだし、聞かせてもらおうかな?」
「なら、聞かせてやる。・・・おい、祐次。何ぼさっと立っているんだ?」
「・・・はははっ、なんだやっぱりそういうことかー、瞬!」
「な、何を笑ってる!」


ふっと先生と瞬の後ろにいた美少女と目が合う。俺と目があったかと思うと、 そいつはにっこりと微笑んだ。ああ、なんだそうか。分かっててここに先生を連れてきたって わけだな?そうなんだろ?意味あり気な目線を送ると、そいつはさらに笑みを深くして、 人差し指を口の前に当てた。






後は彼女だけなのです
「ふーん、ヴィスコンティってラブソング多いんだねー」
「あ、いや、これはっ、最近だけで普段はもっと違う感じのだ」
「え?なんで?最近の流行だったりする?」
「そういうわけでもない、ただ歌いたくなった、それだけだ」
「うっわーさすがミュージシャンだね、言うことが格好良いじゃん?」
「・・・まぁな」




タイトルはあとは彼女が気付くだけなんだからって意味をこめたんですが・・・。
タイトルって難しいー!