「なんじゃこの暑さは」


私は家からの道のりで何度こう思ったことだろうか。
いやはやしかしながら、高校は過ごしやすいところだ。 何故そう思うのか、と言われたらそれはもちろんブルジョワ校の特権である冷暖房が完備してあると言った点、 それが1番にくる。前の学校はしがない庶民の学校だったから(こんなことは言っちゃいけないんだろーけども) (私も庶民代表みたいなもんだし)冷房暖房なんぞあるわけもなく、毎年汗だくで授業してたなー、なんて・・・・。



「フン、この暑さのなか勉強をやる奴の気がしれん。冷房を付ければいいだけの話だ」



机に頬杖をついて偉そうに言う翼くんが不機嫌そうな声を出す。もちろん教室は冷房完備だ。涼しくて快適。 しかし翼くん、言うことはもっともだけどこうもいわれるとさすがに、私ぷっちんときてしまいますよ?
大体、庶民とはこういうものなんだ!汗だくでクーラーつけようかどうしようか、うーん今月の電気代ヤバいもんなぁ、 なんて考えながらあれこれ悩みつつ、結局アイスで片付けられるような、そんな庶民のあり方! でもあれ、これって自分が庶民っていう・・・庶民代表だけど・・・悲しくなってきた・・・庶民を語ってしまった・・・。




「おい、何変な顔をしてるんだ」
「失礼な、これでも今庶民のあり方について考えてたところなの!」
「庶民?日々金のやりくりに頭を悩ませるという副担のような奴らの事か・・・?」
「当たっちゃいるけど、当たれば当たったでむかつくなぁ・・・」



ははは、と半笑いで翼くんのほうを見てみれば、翼くんはちょっと焦ったようにたじろいだ。
いや、別にお前が庶民だ、と言っているわけじゃなくてだな!などと言っているがもう私の耳には さっきの言葉がきちんと入ってしまっている。さっき言ってたじゃないか、思いっきりお前は庶民だと言ったような ものじゃないか!ばーかばーか! そんな悲痛な私の心の声が彼の胸にも響いたのであろうか、それともこの空気に耐えられなくなったのであろうか、 翼くんは顔を上げて指パッチンをして永田さんを召還した。 (毎度のことだけどほんと永田さん、謎)




「永田!ドリンク!俺と副担の分だ」
「―――かしこまりました、翼様」
「つーばーさーくーん?ドリンクはありがたいけど、問題進んでるの?」
「・・・と、当然進んでいるに決まっているだろう!」
「へーあーふーん、そうなの?そのわりには紙がまっしろだけどなぁー」
「あ、いやこれは・・・・っ!」
「いーい?庶民は時間の無駄にも気をつけなきゃいけないのよ」
「ふむ、瞬と同じことを言うな」
「ああ!瞬くんはまさに主夫だからね!尊敬しちゃうなぁー」
「な、なに!?副担は俺より瞬を選ぶと言うのか・・・!?」
「同じく庶民代表としては、私瞬くんのことすごいと思ってるよ」
「・・・なにっ!」




私が最後の言葉を翼くんに向かって言った瞬間、翼くんは苦い顔をして黙ってしまった。 ・・・そんな悔しがらなくても。てゆうか翼くんはどうやっても瞬くんのようにはなれないと思うんですけど。 だって正反対だしね。いろいろなことが。
いやぁ、でも翼くんもカリスマ性とかあってすごいと思うよ、なーんてフォローをしようと いつまでも落ち込んで俯いたままの翼くんの肩をぽんぽん、と叩こうとした、瞬間に彼は拳を握って立ち上がった。翼くんの 表情から察するに、おそらく、良いことではないだろう。これは経験だ。


「副担がそこまで言うなら・・・俺も庶民になってやろう!」
「はー?!何を言い出すの、翼くん!あっ、まさか暑さで熱が・・・!」


やっぱり阿呆なことを言い出した。私自身、ちょっとしためまいにやられそうになったけど、そこはどうにか持ち直す。

念のため熱がないか翼くんのおでこに手をやってみるが、そこにはひやりとした肌の感触だけで熱っぽさはまるでなかった。 いいなぁー翼くん、体温低いんだ。夏はくっついていると涼しいかもしれない、などと暢気なことを考えていると おでこに伸ばした手をつかまれた。




「副担、俺は立派で麗しい、優雅な庶民になってみせるぞ?」
「(すでに庶民から外れてますが・・・・)」
「すばらしい心がけです、翼様」
「(ええええー!そこで褒めちゃうのかよ!永田さん、勘弁して!)」
「クックックハーッハッハッハ!!そうだろう、そうだろう!」




永田さんの言葉によって、ますます得意げになる翼くん。おいおいおい、この子ってば高笑いまで始めちゃったよ、どうしよう。 翼くんが庶民になってやろう、と言ったところで、その翼くん的庶民はきっととんでもない庶民になってしまうに 違いない。そうなるともっと厄介だ。 一応、無理だとは思うが説得を試みてみる。頑張れ、私!フレッフレッ私!




「私、翼くんにはそのままでいて欲しいなぁ・・・・(無理かな・・・)」
「・・・・っ!」




私の工夫も何もない思えたこの言葉は案外翼くんに響いたらしい。
それは照れたようにそっぽを向く翼くんの横顔を見ただけで十分に分かることだった。






庶民の知恵
「ん?副担、何を見ている」
「あ、これ?これはねー、瞬くんから貰った生活の知恵メモ!」
「瞬が?」
「おもしろいんだよー、コーヒーのだしがらは脱臭効果抜群、とかさぁ」
「WHAT?!だしがら?コーヒーはイタリアにある真実の口から出るのだろう?!」
「翼くん・・・瞬くんに色々教えてもらおうね」
「副担?何を遠い目をしている」