私の朝といえば、もちろんモーニングコーヒーから始まる。小鳥達のさえずりと共にコーヒーを 味わうのが私流の朝の過ごし方である。ああ、小鳥達といっても私のアパートの外で鳴いている鳥と いえば、スズメかカラスぐらいのものだが。スズメはまだいい、これがカラスとかだったりすると 本当に朝からげんなりしてしまうのだ。だって朝から「アホ―、アホ―」とか言われてごらん、 あー・・・1日の気力をすべて奪われたような気分に陥ってしまうよ。



・・・・・嘘です。そんな優雅じゃないです。

とまぁ、ここまでは理想論なのだが、いかんせん最近の朝はかなり寒い。 このアパートの壁の薄さもあるのだろうが、そこは安月給の身、我慢するしかない。 布団の中にいれば、もちろん首から下はぬっくぬくして暖かくて極楽天国なのだけれど、 首から上は寒すぎて、凍ってしまいそうなくらいである。 というわけで、おきまりの布団から出られない、というやつである。誰もが体験するであろう 冬の恒例行事である。もちろんその魅力に毎年取り付かれている私にとって冬の朝と言うのは かなり厄介な相手なのである。どうしよう・・・起きたくないよ・・・。



ちょっと学校に飽きてきたころの学生みたいなことを言ってしまったが、でも、起きるのが つらいのは本当のことである。タイマーでストーブが付くように設定してあるのだが、それも また暖まるまで時間がかかるのが難点だ。ストーブが動き始めると必ず起きてしまうのだから、 タイマーを早くセットしたとしても同じ事だ。便利なんだけど、なんかもう便利さが逆に あだになってしまうというか。でももう7時だし、起きなきゃいけないよなぁ・・・。



目覚ましは6時半にセットしているが、そんなものはとうに切ってしまった。頭は正常に 今日も動いているが、どうしても出るのに勇気がいる。もぞもぞと布団の中で動いて、なんやかんか どうでもいいことを考えてみる。お休みしたいよー・・・!でも教師としてそれはいけないこと だよねー。示しがつかないし、南先生に迷惑掛けちゃうし・・・。



ちなみにこれがいつもの私の朝である。コーヒーは飲むがいつも遅刻ギリギリになってしまうので、 優雅には飲んだことがない。むしろ流し込む感じだ。頭をスッキリさせるためだけの飲み物である。



と、ここまで言い訳に言い訳を重ねた私だったが、ふと布団のなかのなにか、自分の体温以外に 暖かいものがあることに今気付いた。なんか小さいけど暖かい・・・なんだこれ・・・。 布団をめくってしまったら、部屋の冷たい空気が暖かい布団のなかに入ってしまうので、 自分の顔を布団の中に入れてみる。なにか・・・こう・・ふさふさっとした・・・・、




「ぎゃぁあああああ!!猫!ね、ねねね猫ー!?なんで?!」
「ニャー」
「ニャーじゃないよ、ニャーじゃ!どっから入ったの?!ねぇどーして?!」
「ニャー?」
「疑問形にしても私、言葉わかんないし、ちょ!近づかないで!ぎゃあああ!」
「おはよう、先生!」
「おはよう、先生ってなんですか、猫喋った!?え、マジかよ、勘弁してよ・・・!」





ん?そこまで言って少し違和感。ん?猫って喋るか?私がいくら取り乱していると言っても、 そんな猫が喋るなんてありえないってあり、えな、いって!ぜーはーぜーはー・・・呼吸困難に なりそうじゃないか、やるな・・・たかが猫のくせに、この私をこうも取り乱させるとは。





「ぎゃぁあああ、こっち近づくんじゃねー!・・・すいません、ごめん、近づかないで!」
「先生・・・ったく、タマがびびってんじゃねーか」
「びびってるのはこっちですよーだ!てか猫・・・って。え?」
「ん?やっと目覚めたか?」
「・・・・・おはよう」
「おう!おはよう、今日もいい天気だ。ちょっと寒いけどな!」
「あー・・・起きたくなーいよー・・・って、え?待って?なんで?はぁ?」
先生、落ち着けって!朝から忙しーなぁ」





私の混乱は別に普通であると思う。待ってちょっと待って、をかなりの回数繰り返した後、 ようやくなんとなーくみえてきた。目をこすってみる・・・誰かと思えば一くんである。 ってちがーう!一くんとかそういうのじゃなくて、なんで彼がここにいるのかという話である。 しかもちゃっかりなんか牛乳勝手に飲んでるし!混乱状態で現状を理解できていないのだが、 気になることを彼にひとつ打ち明けてみる。





「それ・・・賞味期限、昨日までだった気がするけど・・・」
「げほっ!・・・っ!は、早くそれを言えよな・・・!!」
「ごめん、明日捨てようと思ってそのままにして寝ちゃった・・・ってちがーう!なんでここに?!」
「え、先生がいつでも来ていいって言っただろ?だからタマと来た訳だっ」
「確かに、来てもいいと言ったけど、それは相談があるとき緊急のとき!そして時間帯考えろっ!」





そう、確かに私の勤務する聖帝学園にはB6と呼ばれる6人組みがいる。 なにを隠そうその子たちのクラスの副担は私である。いつでも相談にのれるように、と自宅の住所を B6全員に渡し、ここのアパートの大家さんにも彼らが訪れたら入れてくれるように、と 頼んでおいた。・・・しかしそれは彼らがまだ心の傷を負っているときの話である。 なにか困ったことがあった時によりどころになれる存在になれるように、と考えて行動したのだが、 今はB6全員、補習もちゃんと受けてくれているし、問題は起こっていない。よって私の家に来なくても 良い状況になったのだ。だから余計に疑問が募る、・・・何故、来たのか?ということが。てゆうか 大家さんもさすがに朝からは、ちょっとおかしいと思って止めてくれればいいのに・・・いや、いつでも入れてやって くれと言っておいたのは私なんだけど。





先生のことだから、起きれなーいとか言って布団の中でグズグズしてるんじゃないかって思ってさ」
「その通りです・・・言い返せないです・・・遅刻ギリギリになっちゃうけど許して」
「先生なのに遅刻か?まぁ気持ちはわからないでもないけどなー」
「でしょ?まだ包まってても、時間あるからいいかなーとか思っちゃってさ」
「タマ抱いて寝ると暖かくてさらに幸せだよな!分かるぜ、その気持ち!」





微妙にかみ合ってない気がするが、幸せそうに笑っているのであえて気分を落ち込ませることもない だろうと思って黙っておく。てゆうか猫がいたんだった!ひぃ!



「猫、布団から出てくれー・・・!おねがい!」
「ニャー」
「く、くそう・・・動く気ないな。もういいよ、私起きちゃうんだから!」
「おっ、タマよくやったなー、偉いぞ!あとでかつおぶし削ってやるからな!」
「ひぃ・・・もう朝から踏んだり蹴ったりよ・・・たく。猫に布団から追い出されるなんて」
「でもまぁ、遅刻せずに済むんだからいいじゃんか!なぁー、タマー?」
「ニャー!」





はぁ、やれやれ本当についてないなぁ・・・って違うよ!待って普通に朝から一くんいるって おかしくない? って、私着替えてないし、髪もそのままじゃんか!やば!一生徒の前でこんなだらしない格好を 見せるわけには・・!まぁさっきも散々だらしないところ見せちゃったんだけどね・・・。 そんなことを思っていると、一くんが非常に言いにくそうに、目を泳がせながら口を開いた。





先生・・・それで寝てるのか?ただわれどくそ・・・?」
「へっ?あ、うん。いいでしょ、この文字T!ちなみに唯我独尊ね!」
「いや・・・可愛いパジャマとか着てんのかなーっと思った俺が間違ってるんだよな・・・」
「ん?何か言った?」
「いーや、なんでも!」





なんだろう?なに、その珍しいものを見た、みたいな目は!もういちいち気にしていられる性分じゃ ないからそれは放っておくことにする。もういい、割り切れ!人間割り切りが大事だ! 確か今日って放課後に職員会議あったような・・・。じゃあ、スーツに着替えなきゃいけない なぁ・・・スーツって走りにくいし面倒なんだよね・・・。まぁ会議なら仕方ないけど。 着替えてくる、と一くんに言って部屋を出る。そして着替えた帰りに洗面台で顔を洗って髪も櫛で 解かす。戻ってくるなり、ずっとドアを見ていたのだろうか、一くんと目が合った。



「「・・・・」」
「・・・・先生・・・」
「・・・・何」




てゆうか何その目は!今にも朝ご飯は?みたいな目は!あげないよ!朝ご飯なんて! そんな子犬のうるうるみたいな目をしても無駄なんだから!
優雅な私の朝(理想)を邪魔してくれたお礼さ!うるうる視線から逃れるように、くるりと後ろを向いて、 コーヒーメーカーの電源を入れる。するとすぐにコーヒーのいい匂いが部屋に漂い始めた。 ああ、コーヒーのいい匂い・・・!これよ、この優雅さ!スズメのさえずり!やっと暖かくなってきた 部屋!次はこの部屋から出たくない・・・。コーヒーを飲みながら、一くんが喋る言葉を だーっと聞き流す。





「俺、今日朝ご飯も食わずに家を出たんだぜ?先生を起こすために!」
「はいはい、ご苦労さんでしたねー」
「そんな俺を放って先生だけ朝ご飯食べる気か?!かわいそうって思わないのか?!」
「はいはい、一くんったらかわいそーめっちゃかわいそー」
「5時に起きたんだぜ!まだ外が暗いうちから!タマも見つけないといけなかったし」
「はいはい、よーし、トースト焼いて食べるかな」
先生・・・なにか恵んでくれよ。俺、学校に着くまでに倒れる・・・」





確かに、空腹は辛い。かなり、辛い。遅刻ギリギリで駆け込んでくるとなると、たまに朝ご飯を 十分に食べられないことがあるのだが、その時の授業の辛さといったら無い。葛城先生の熱烈 スキンシップを流しつつ進める授業にはかなりのエネルギーがいるのだ。
そう、朝ご飯は重要!朝ご飯を抜くということは許されないことなのだ!そうだ!まぁ、それが 例え、朝から猫を連れ込み乱入してきた一くんであっても!最初は絶対あげないんだから!と 思っていたが、だんだん朝ご飯について真剣に考えているうちにかわいそうになってきた・・・。 ほら、お食べ、って気持ちになってきた・・・。





「よし、朝ご飯は大事だ!1日の基本だ!よって食べることを許可する!」
「よっしゃ!先生、さすが太っ腹だぜー!タマのも頼むぜ」
「タ・・・タマも・・・?い、いやいやそうだよね、生物皆兄弟!平等にしなきゃね!」
「さっすがー!分かってるぜ!!」


朝ご飯をきっちり食べると決まったら、きっちり作らねばならない!それが朝ご飯に対する礼儀と いうものだろう!そう声高らかに熱弁して、拳を握り、エプロンをつける。いざ・・・!


「おー、先生。朝から燃えてるなぁ・・・ってどんだけ作る気だ?!」
「一くんもお皿出して!フォークも!そこにあるから!」
「え、あ、はいはい・・・分かったよ」





トースト、ひき肉とトマトのオムレツ、ベーコン、チーズ、サラダ。
15分後、これらの料理が机の上にずらりと並べられた。タマにはかつおぶしお買い得パックを 与えておいたが、これで良いのだろうか?そして最後にコーヒーをカップに注ぐ。これで完璧だ!





「すごい量だな・・・それと、料理ちゃんと出来たんだな」
「ふっ、こんなもんよ!さぁ、お食べ!」
「お食べって・・・・・あーもう!いただきます!」
「はい、いただきます!」





一心不乱に食べ続けて、数分。オムレツと格闘しているとどうも視線を感じて顔を上げると、 一くんがこちらを見ている。な、なんか今日はやけに視線が合うな・・・。
どうかした?と相変わらずオムレツを口の中で、もぐもぐとさせながら目で問い掛け首をかしげると、 一くんは焦ったような表情でこう切り出した。



「いや、なんつーか、その・・・」
「何?言いたいことあるなら、言ってよ」
「今更なんだけどっ、朝から押しかけて悪かった」
「はぁ?今更も今更だね。もういいよ、起こしに来てくれたんでしょ?」
「・・っ、起こしに来たっつーのは間違いじゃないんだけど・・・他の奴らが」
「他の奴ら?それはB6のみんなのこと?」
「そう、だから、他の奴らも先生の部屋に押しかけようって言ってて」
「はぁ・・・うん?え、それが?」
「だーかーらーっ!あーっと、その、他の奴らに見せたくなかったっていうか・・・」
「・・な、何を?いまいちよく分かってないんだけど・・・」
「瑞希と悟郎は一緒に添い寝するとか言ってるし、翼も翼で眠り姫の絵本読んでたし、 清春はあの通りだし、瞬もああみえて・・・」
「ま、まぁ清春くんが来てたら、優雅な朝はどこかに吹っ飛んでっちゃうと思うけどね・・・」
「と、とにかく、見せたくなかったんだ!先生の寝顔を!」
「はぁ?寝顔ぉ?」





下を向いて、フォークを握りしめたままぽつぽつと語る一くんを見ていたら、なんだかおかしくなって きてしまった。しかも寝顔。要するにこういうことだろうか、他のB6のみんなの いたずらを阻止するため、5時に起きて来てくれた、と。 ・・・な、なんて先生思いのいい生徒なんだろうか!感動!でも寝顔くらいいつだって見れる気が ・・・うん、そうじゃん。





「・・・ぷっ!あはははっ、一くんたら!寝顔なんていつでも見れるよ!」
「そ、そうか・・・?それはどういう・・・?」
「だって私いつも職員室で、お昼寝してるもん。この前なんか起きたら隣で葛城先生が伸びてたし」
「あーそういうことかよ・・・そ、それは・・・スリッパがいい感じに当たっちまって・・・」
「ん?なんで葛城先生がスリッパにやられたって知ってるの?」
「あーそれはだなー・・・もうどうでもいいじゃねーか!なぁ、タマー?」
「ちょ、タマを使って逃げるの止めなさい!」





朝ご飯はすっかりきれいに食べてしまった。そして、 私を心配してくれたのは嬉しいけど、もうこんなことはないようにしなさいね、みたいなことを言いながら 私達は、ようやく学校へ行く準備をして玄関のドアを開けた。
するとそこには悲惨な姿の瑞希くんと悟郎くんと清春くんと瞬くんと翼くんが立っていた。 みんなきれいな顔に引っかき傷のようなものが付いていた。悟郎くんだけはさすがというべきか、 傷1つついていない、さすがおしゃれに気を配っているだけはある。肌には敏感なのね・・・!しかしかなりキレているようで、 半笑いだ。そのほかのみんなもしかり。





「一・・・わかっているんだろうな」
「な、何がだ・・・?」


少しの間が開いた後、一くんを標的とした壮絶な追いかけっこが始まった。






鬼が勝ち!
「さぁ、これから副担の部屋へ突入する!」
「楽しみだねー☆ポペラ楽しみすぎるー!先生、かわいいパジャマとかで寝てたりしてっ!」
「トゲーと先生と添い寝しちゃお・・・・」
「キシシッ、水鉄砲も、準備満タンだぜェ!」
「こんな朝早く押しかけて、迷惑じゃないか・・・?」
「じゃあ、なーんでお前は来てるんだってーの!」
「お、俺はただ、他の奴らが先生に迷惑を掛けないかどうか・・・!」
「おい、何をしている。早く行くぞ!・・・ってうわぁあああ!!」
「チッ、ナギのやつ、こんな妨害しかけやがって!タダじゃおかねーぞ!」
「ぎゃああ、ゴロちゃんの素敵すべすべお肌がぁああああ!!」
「悟郎・・叫びすぎ・・・近所迷惑・・・痛い・・・」
「なーっ!ちょ、なんだこの猫の群れは!!草薙のやつー!!!」





かるめ焼きさまへ!思いやりとは何ぞや同ヒロインでのリクでしたー。ありがとうございましたっ! なんか全然違う気がするんですが、気のせいですかね・・・すみません。そこは心の目でお願いしますっ!