今日も今日とて畑仕事。えんやこーらえんやこーら。・・・こら、そこ!それしかやることが ないのかとか言わない!野菜たちはねぇ、1分いや1秒でも気を抜いてはいけないものなのよ! そう、可愛い可愛い我が子のごとく大切に丁寧に扱わなくちゃいけないの!って・・・まぁ 私に我が子がいた経験はないから、そこんとこはよくわからないけど。と、とりあえず、愛情を いっぱーいに注いで作る野菜はうまい!これ、真理!




そう、そんなわけで私は今日も畑に来て、野菜たちの世話をしている。最近は雪が降ったり、木枯らし が吹きまくったりして大変だったけど、今日は天気がよく、太陽のおかげでぽかぽかしている。 しゃがみこんで、草を抜きながらその暖かさについうとうととしかけてしまう。




「ああ、危ない危ない!こんなところで寝ちゃったら大変!」
「でも・・・・眠いものは眠い・・・ぐぅ」




ん?今私以外の声がしなかったか。ま、まさかこの野菜たちが私の愛情に答えて返事をしてくれた とか?!ってそれはあるわけないか。そういうことがあったらとっても楽しいんだけれど、それは さすがにない。でも大体その野菜たちの様子を見れば、なんとなく・・あくまでなんとなーくだけど、 様子が分かる様にはなった。今は調子がいいとか、悪いだとかそういうことは、だけど。 だから、色々な畑で野菜たちの調子を読み取ることにも少しずつ出来るようになってきた。 私の観察眼が成長したってことだろうか。
そんなことを考えながら、感慨深く頷いていると何かが視界の隅に映った。白い・・・影? なんだろう、と思いそちらに視線を移す。




「え?ええええ、人・・・・?!ちょ、もしもーし大丈夫ですか?!」
「・・・ぐぅ」




もしかして、さっきの言葉はこの子のものだったのだろうか。眠いものは眠い。それはそうだが、 なにもこんな畑しかないようなところの道路で寝なくてもいいのに!発見が遅れれば命に関わる・・・ いや、別に命には別状はないのかもしれないけど、こんなところで大の字になっていたら 危ない!人通りは少ないとはいえ、たまにトラックや車やバイクが抜け道として使っている道路だし、 万が一のことがあったら・・・・!とりあえずあの子を移動させて、事情を聞かなきゃ!さっきの ように眠いものは眠い、と切り返されるかもしれないが。




「ふぅ、よいしょっと。・・・おーい!起きてくださーい!」
「・・・ぐぅ」
「こんなところで寝ていたら、危ないですよ!」
「だって・・・眠い・・・仕方ない」
「家に帰ってから寝ればいいじゃないですか!ほら、立ってください!」
「ん・・・・あったかい・・・・」
「そりゃ、道路よりは暖かいですよ」




何とかその子を立たせ、服についた砂を払う。てか、この子すごく大きい。壁のようだ。 私は標準サイズだとは思うが、その頭何個分足りないんだろう・・・って感じだ。 すごく背が高いのに、言動のせいだろうか小さい子を扱っているような気になっている。 立ってください!と言ったら素直に従ってくれたけれど、またダラーンとなって私に もたれかかってきている。ちょ、しっかりしてくださーい!おーい!寝ないでー!




「ほら、しっかり立って!世の中物騒なんですから!」
「ん・・・ねむ・・・ぐぅ・・・」
「あー、もう!寝ないで!!」
「トゲー!!」
「ひゃ!え、な、何この子。トカゲ・・・?しかもアルビノだぁー」
「トゲー!!」
「かわいいなー・・・ん?どうしたの?」




トカゲは畑仕事で見慣れているから、驚くことはなかったけれどアルビノなんて珍しい。 初めて見てしまった。かわいいなぁ、真っ白だー、と喜んでいたらまたアルビノちゃん(もういいや、 名前勝手に付けちゃお)が何かを示そうとばたばたしている。一旦 眠っている子を座らせて、自分もかがんで見ると、どうやら何かを伝えようとしているようだ。
私が大量に抜いた草の1本を手に取って、肩に担ぐという行動を繰り返している。クエスチョンマーク を頭の上でぐるぐると回らせていると、アルビノちゃんがまたトゲー!と鳴いた。 アルビノちゃんは草を1本取って、次は眠っている子の頭のてっぺんまで駆け上がる。 草と眠っている子を交互に指を指し、そして草を肩に担ぐ。 アルビノちゃんはもしかして、この子のペットなんだろうか・・・?なんだか慣れているようだし。




「えーっと運ぶ?ん、違う?草がこの子で担ぐ・・・」
「トゲー!」
「もしかして、この子を担げって言いたいのかな?」
「トゲー!!!」
「わ、正解か!この子眠ったままだしね・・・・」
「・・・トゲー・・・?」




心配そうなそのくるりっとした瞳を見て、ちょっとかわいそうになってきた。 だってそうでしょ?このままこの子が寝ちゃったままだったら、アルビノちゃんはずっとこの 寒空の中待たなくてはいけないのだ。そしてなによりこの眠ったままの子も風邪を引くだろう。 それはなんだか心が痛む。トゲー、と力なく鳴くアルビノちゃん。ああ、駄目だ、私こういうの 弱いんだから。




「よし、大丈夫、アルビノちゃん!この子担いで行ってあげる」
「トゲー!」
「うん!野菜作りに必要なのは一に愛情、二に体力!任せてくれていいよ!」




アルビノちゃんの顔が喜びに満ちたような顔をした、というのは私の勘違いだろうか・・・。 でも、嬉しそうに鳴くアルビノちゃんを見ていたらまぁ、運ぶだけだしいいかなと思った。 野菜たちの世話はもう終わっていたし、そろそろ帰らなくてはいけない時間だ。 この子を送り届けてから、家に帰るとしよう。




「じゃあ、道案内お願いできるかな?」
「トゲー!」
「あはは、賢いんだね!凄い!」




分かった、と言いたげな元気の良い返事。アルビノちゃんはするすると私の頭の上に登り、 左の道路の方を向いて鳴いた。眠ったままの子は肩に担いだ。その振動に少しだけ反応したけど、 その最初だけで耳元に聞こえてくるのは安定した寝息だけだ。なんて図太い子・・・。 よく眠れるのは良いことだけどね!そ、そうだ!名前!この子の名前を聞いてなかったぞ! アルビノちゃんの道案内の元、眠ったままの子に話し掛けてみる。




「お名前はなんですか?・・・って寝てるから無理か」
「・・・瑞希・・・・・・」
「今のは・・・えっと瑞希くん?ちょっと起きてるなら歩いてくださいよー!」
「・・・ん・・・そう。・・・ぐぅ」
「寝るの早いですよ!もう!お家の人に文句言っちゃいますよ!」
「トゲー!」
「はいはい、こっちに曲がるのね?」








そして15分後。私はある建物の門の前にいた。無論、1人と1匹を担いだ状態で、である。 ここ、家じゃないよね!明らかに学校だよ・・・。校門には「私立聖帝学園」と書いてある。
もしかして、瑞希くんはここに通っているのだろうか?でももし通っていなかったら不法侵入に なってしまうんじゃ・・・。そんな私の懸念を振り払うかのように、アルビノちゃんが私の頭の 上で元気よく、トゲー!と鳴いた。どうやらそのまま学校の敷地に入れ、とのことらしい。 なんか言わんとしていることが、分かってきてしまう自分が怖い。動物も植物も大体同じって ことなのかな。ああ、今日はロールキャベツにしよう。寒いから煮込み料理がものすごく食べたく なってきた。キャベツもあったし、ひき肉もあったから完璧だ。よし、この子を送り届けたら 暖かい煮込みロールキャベツを作って食べよう!決めた、今決まった!


この子を無事送り届け、家に帰る。それが私の最終目標だ。よい事もしたし、気分良く ロールキャベツを食すことができるだろう。そう思い、未だにぐぅ、とかすぅ、とかしか 言わない瑞希くんをもう一度抱えなおした。



日溜りの中の野菜と彼
「でも本当に大きい校舎だねぇ・・・」
「トゲー!」
「ん・・・・そう・・・・・」
「なんか私、傍から見たら独り言言ってるみたいじゃない?!」