「それじゃあ、瑞希くんを渡さなくちゃね・・・えっと先生は・・・」
「・・・ん・・・・・ぐぅ・・・・」
「さっきから返事をしているのかどうかもよくわからなくなってるよ、瑞希くん!」




職員室を探そうと、首を動かし職員玄関を探す。
探しながら学校内を歩いていると、とんでもない代物が私の視界に移った。宮殿である。 もう一度確かめるために目を凝らして見てみるが、やはり宮殿である。 学校内に宮殿とは、かなり似合わない。っていうかおかしいよね!?存在する所が間違っている。 上を見上げるようにして、アルビノちゃんと目を合わせると、アルビノちゃんはするすると私の 肩のところまで降りてきて、宮殿に向かって頭を突き出し、トゲー!と鳴いた。 まさかここに入れというのか、アルビノちゃん。瑞希くんを見てみるが、依然として寝息だけが 私の耳に届く。まだ寝ているのか。いっそすがすがしいなぁ。




アルビノちゃんの有無を言わせないその瞳に、私は負けた。しょうがない、昔から野菜と動物には 弱かった。道路隅の植物になんとなく水をやってしまったり、スズメにえさをやったり。 いいじゃないか、こうなったらどこまででも付き合おう。すべてはアルビノちゃんの言う通り!




宮殿に近づいてみるとやっぱり大きかった。ドアをかちゃりと開けると、こんなに大層な造りなのに あっけなく開いてしまった。いいのだろうか、防犯とか。 ドアが開くとアルビノちゃんは一目散に奥へと走っていってしまう。 ちょ、待ってー!私をこんなところで1人にしないでー!いや、もしかしてここが職員室だったり する?それだったらいいんだけどなぁ。 体力に自信がある私でも、さすがに瑞希くんをずっと抱えているのは辛くなってきた。




一歩部屋の中に入ってしまえば、ふかふかとした足元の感覚。うっわ、すごい高級そうな絨毯。 こんな泥靴で入っても良かったんだろうか?うう・・・ちょっと不安になってきた。 出た方が良いかな?とも思ったけれど、アルビノちゃんが奥に行ってしまった。 考えた挙句、私も奥へと進んでみる。ずりずりと瑞希くんの足が床に当たる音がする。 静かだ。聞こえるのは瑞希くんの寝息だけ。 そしてたどり着く大きな扉、思い切ってずばんと開けてみる。と、冷たいものが顔に当たった。




「なにこれ・・・?水?」
「ケケケケッ!どーだ参ったかァ!・・・ん?オメー、ブチャじゃねーなァー?」
「・・・もしかして、ここの生徒さん?」
「それ以外の何に見えるっつーんだヨ!・・・て、マダラか?」
「マダラ・・・?瑞希くんの知り合いですか?」
「知り合いっつーかァー、なんつーか・・・」
「どしたの、キヨ?・・・って瑞希ー!」
「良かった。瑞希くんのお友達ですか?」
「うん、そうだよ☆ちょっとー、瑞希!ゴロちゃんポペラ探してたんだからねっ!」
「・・・ん・・・・ごめん・・・・」
「道路で寝てたので、送りに来たんですけど・・・もう大丈夫みたいですね」
「ふむふむ、なるほどー☆ありがとって、髪、濡れてるよ!」
「へ?ああ、さっき水がバシャって掛かったみたいで。あはは」
「ポペラ大変!こっち来て!キヨ、瑞希をこっちに引っ張ってきて!」
「え、あああ、あの?!」
「ったく、メンドクセーなァ!来いッ、マダラ!」
「・・・ん・・・・ぐぅ・・・」






こうして私は、あれよあれよと言う間にソファに座らされてしまった。 すごい、これも凄くふかふか。私立というのは、みんなこんなものなんだろうか。公立出の私には 理解ができないことばかりだ。水で濡れてしまった私の髪を見て、えっとゴロちゃん?が タオルを持ってきてくれた。可愛いうえに優しい。ありがとうございます、とお礼を言ったら、 抱きつかれて今もソファの後ろから抱きつかれたままだ。そして膝の上には瑞希くん。 私の隣に座ったと思ったら、ばたんっとダイブしてしまった。そしてこれもまたそのまま。 キヨくんは私の目の前で、やたらでかい水鉄砲を磨きつつ、あぐらをかいている。




「永田!ドリンク!7つだ」
「瑞希、いい加減起きろって!困ってるだろーが!」




そして新たに2人増えた。キヨくんと同じく私の前で偉そうに足を組んでふんぞりかえっている 男の子と、私の隣で色々世話を焼いてくれているお母さんみたいな男の子。 誰だろう?と内心首をかしげていると、それを察したのだろうか、後ろからゴロちゃんが 翼と一だよ、と教えてくれた。そうか、翼くんと一くんか。




「そうか、それは悪いことをしたな。礼を言うぞ!ハーッハッハッハ!」
「でも、どうしてここが分かったんだ?瑞希は寝てるし・・・」
「ああ、それは瑞希くんと一緒にいた、アルビノちゃんが教えてくれて・・・」
「アルビノちゃん?なんだそれ?」
「トゲー!」
「わ、ここにいたの?!・・・この子のことです」
「ああ、トゲーに聞いたのか。んー、よしよし、トゲー偉かったなぁ!」




アルビノちゃんはテーブルの影からひょっこりと姿を表した。どうやらアルビノちゃんは トゲーと言うらしい。事情を説明したのだから、もう帰ってもいいかと思い立ち上がろうとするが、 後ろからがっちりホールドのゴロちゃんと膝の上の瑞希くんの所為で、立ち上がることができない。 仕方なく、貰った紅茶を大人しく飲む。ぐびぐびぐび、ああ、私のロールキャベツ計画が! 今年のキャベツの出来は最高だったから、きっと美味しく出来るだろう。
そんなことを考えつつ、紅茶を飲んでいると、あることが気になった。とりあえず手を挙げて質問してみる。




「あの、1つ質問なんですが」
「何だ?言ってみろ」
「なんで紅茶が7つあるんですか?ここには6人しか・・・」
「後1人、じきにここに来る」
「ゴロちゃんたちは6人グループみたいなもんなの☆」
「・・・B6って言われてる・・・ぐぅ・・・」
「えーっとよくわからないですけど仲良しってことですね」
「キシシシッ、仲良しこよしーって訳かァ、笑えるぜェ!」
「・・・?何がですか?」
「それはなァー・・・・お、来やがったなァ、」




耳を澄ませて聞き耳を立ててみれば、水の音がする。バケツの水をひっくりかえしたような そんな音だ。それと一緒に激しい悪態を付く声が聞こえる。だんだんだんっ、と怒りを 露わにしたそんな足音のまま、扉を開けたのだろう。扉が勢いよく開く。




「仙道ーっ!!今日こそは殺す!」
「ヒャハハハ!ナーナァー?水も滴るいい男ってかァー?」
「ふざけるな!毎日毎日よくも、やってく・・・・」
「・・・?どうかしたか、瞬」
「ん・・・あれ?七瀬さんじゃないですか?」


「「「「「七瀬さん・・・?」」」」」




5人の声がハーモニーを奏でた。ぴったりと正確に発音されたその言葉は部屋の中に、 響きわたった。そしてその後、5人の顔がいっせいに私の方を見た。5人のうち2人は、 かなり近い近い・・・!トゲーまでもが見つめてくる。
なにかマズいことでも言っただろうか。でもこんなところで七瀬さんと会うとは思わなかった。 そうか、高校生だったんだな。てっきり大学生くらいかと思ったんだけど。







驚愕の中の野菜と彼ら

「もしかして知り合いだったりするのか?!」
「瞬が呆然としているところを見ると・・・そうらしいな」
「ヒャハハハ!」