午後3:00、斑目瑞希の思惑。

斑目瑞希はどうしたら良いのか分からずにバカサイユ内で突っ立っていた。

いつものように、昼寝でもしようとバカサイユに足を向けた自分を迎えたものは、 ふかふかのソファーに寝りこけているクラスX副担、であった。 スーツなどではなく、おそらく走り回っていたのだろうジャージ姿で仰向けになって、これまた 大胆にもこんなところで寝ている。そういえば今日の午後からの授業はすべて葛城先生に任せたとか 言っていたような・・・。だからこんな時間まで、眠っているのか。 いつも寝ている自分が言うのもなんだけど、そんなんじゃ 「先生」として「生徒」に示しがつかないだろうとも思ってしまう。 でも、ここで睡眠を取っているということは、自分たちのことを信用してくれているという ことになるのだ、と考えると何だか嬉しい。矛盾だ、すごく矛盾してる。・・・でも嬉しいからいいか。


そんなわけで、彼の中では特になんということもないのだが、ここはバカサイユ内である。 もう一度言うが、一般常識の世の中ではない、非常識がまかり通るバカサイユ内である。 かくいう自分も昼寝をしにここに来たのだが、副担である彼女にとって、ここは結構危険な 場所ではないか、と思う。


「どうしよう・・・先生。熟睡・・・・」
「トゲー!クケ―ッ!」
「あっ、トゲー!どこ行くの」


トゲーが肩から降りて、ぱたぱたと音を立てながら先生に近づいていく。そして、もう一度 トゲー、と鳴く。そこで斑目瑞希は、はた、と気付いた。


「ばばばばーん・・・ブランケットー・・・!トゲーそっち持って」
「トゲーッ!」


了解とばかりに元気良く鳴くトゲーと自分で、眠っている先生にブランケットを ふわりと掛ける。ちなみにこのブランケットは先生が、まだ肌寒い時があるから、と微笑み ながら言って自分にくれたものだ。そう、微笑みながら。いつも清春を鬼の形相で追いかけたり、 翼の無駄な出費を厳しく一刀両断している先生だけれど、本当はとても優しいことを自分は知っている。 それだけで、自分はなんだか心が暖かくなるような気がした。うん、今は、これでいい。

ほっとしたら、眠くなってきた。そうだ、バカサイユには昼寝をしに来たんだった。 当初の目的を思い出したら、余計に眠くなってきた。ソファーは対面式に2つ置いてあるが、 そのうちの1つは先生に占拠されている。

しかし、大人しくもう1つのソファーに座るような斑目瑞希ではなかった。 ふむ、と少し考えてから、おもむろに自分の膝の上に先生の頭を乗っけるようにして座った。


「膝枕・・・ふふっ。いいよね・・これくらい」
「トゲー!」
「トゲーも一緒にお昼寝しよっか・・・」
「トゲー!!」
「よし、こっちにおいで・・・・ぐぅ」

こうして2人と1匹は心地良い眠りについたのであった。




午後4:00、草薙一の動揺。

草薙一はどうしたら良いのか分からずにバカサイユ内で突っ立っていた。

ねこにゃんに、餌をやり終えた後、特にやることもなかったのでバカサイユに寄ってその扉を ばーんっと勢い良く開けたが、予想に反してバカサイユの中はシーンと静まり返っていた。 どうやら瑞希が寝ているらしい、ソファーから頭が見えている。眠っているのを起こすのも かわいそうだと思い、開けた時とは逆にそーっと扉をしめる。そしてそのままそーっとソファーを 覗き込む。・・・そこで見たのは、瑞希の膝の上で幸せそうに眠っている先生。完璧に予想外だ ・・・・眠る、先生ぷらーす瑞希ぷらーすトゲー・・・・。 いろいろ思うところがあったが、とりあえず、起こさないように正面へと回る。


どうすりゃいいんだ?とばかりにやたらに豪奢な造りのシャンデリアを見上げてみるが、 どうにもならない。てゆか、瑞希の奴、膝枕?!いやいや、違うだろ、普通反対だろ! ・・・いやいや、反対でもちょっと困るか・・。ってちがーう!俺が言いたいのはそういう事じゃ ・・・!


草薙一は頭を抱えて、うなってみたが、バカサイユにいるのは寝ている2人と1匹のみなので、答えは出ない。 試しに、先生の頬をぷにっと突っついてみる。無論、それくらいのことじゃ起きるはずもない。 そんなことで、起きてしまうような先生ではないことを俺はよく知っている。 瑞希をどけるという考えも湧き上がったが、こんなに幸せそうに寝ている先生を起こすのも 忍びない。うーん、どうしたものか、と考えた時、バカサイユに次なる来訪者が訪れた。




午後4:15、真壁翼の提案。

真壁翼はどうしたら良いのか分からずにバカサイユ内で突っ立っていた。

正確には、副担の顔を覗きこんでいる一の姿にびっくりたまげてちょっと放心した、といった ところなのだが。ついつい、手に力が入ってわざわざ取り寄せた特注のマトリョーシカを 握りつぶしてしまうところだった。危ない危ない。とりあえず、テーブルにマトリョーシカを置いて、 一に事情聴取する。返答次第では、どうなるかわからんがな。 そこまで言って俺は一息付き、永田を呼び紅茶を飲む。


「事情聴取だなんて言葉よく知ってたなー、翼」
「HA、それくらい俺にとってはなんてことない!」
「翼さまは最近火曜日に放送されるサスペンスに少々はまっておられるのです」
「ああ、なるほどな」
「ハーッハーッ・・・っと、ここで大声は危険だな。副担が起きてしまうかもしれん」
「だな。んで、どうすりゃいいと思う?この状況」
「ふむ・・・そうだな、瑞希の代わりに俺が膝枕をする」
「・・・それ、自分がしたいことだろーがっ!」
「いい案だと思ったのだがな!」
「ど こ が だ よ !」


一に全否定をされたので、ちょっと傷ついたが立ち直って副担の方へと近づく。 茶色っぽいがほとんど黒い色素の髪をすくいあげ、さらりと流す。 副担が走り回っている姿をいつも見ていたものだが、眠っている時の大人しい副担もなかなかいい。 GAPがあるというのは良いことだと聞いたがな! しかしこれだけ大人しい副担というのは、滅多に見れないものだ。貴重すぎる。 瑞希が膝枕をしているというのが、引っかかるが。うらやま・・・げふんげふん! ついつい本音が声になる寸前で、可愛らしい足音が聞こえた。しかし起きている2人には破壊神の ような足音に聞こえた。




午後4:25、風門寺悟郎の来襲。

風門寺悟郎はどうしたら良いのか分からずにバカサイユ内で突っ立っていた。
 
が、その次の瞬間眠っている2人+1匹の前に立っている翼と一にタックルをかました。 可愛いなりをしているが、ダメージはかなりのものである。 事実、翼と一は衝撃がすさまじすぎて、一瞬顔が蒼白になった。 今現在、2人はちょっと涙目である。


「なにこれなにこれ!どーゆことー?なんで瑞希の膝枕でセンセが・・・!?」
「・・・それは俺たちが聞きたい」
「俺が来た時はもうこんな感じだったぜ」
「それで、今どうしようかと一と相談していたんだ」
「そんなの簡単だよ!ゴロちゃんの魔法でパラッペ起こしてみせるよ☆」
「しかし、これだけぐっすりと眠っているのを起こすのも忍びないしな・・・」
「じゃあ、瑞希だけ起こしてゴロちゃんがセンセを膝枕〜☆」


一はその時、B6が何故固い結束を誇っているかが分かったような気がした。 しかし言えなかった。悟郎が鋭い目つきでこちらを見たからである。事実、校内にいるときに 葛城先生から先生を守っているのは悟郎だと思う。フッ飛ばしても、蹴っ飛ばしてもはいあがり 先生に近づく葛城先生を、またもやちぎっては投げちぎっては投げしているのは悟郎だ。


「(前に、悟郎がごく自然に葛城先生を踏みつけているのを見たぜ?!)」
「(俺なんて、もっと凄い現場を目撃してしまったぞ!?ああ、恐ろしい・・・!)」
「なーに?2人ともそんなポペラすみっこに行っちゃって〜☆どうかした?」


こうしてみると美少女にしか見えないのだから、余計に怖い。 笑顔が、なぜかすごく恐ろしく見えるのだが・・・・。翼と一は現実から目を背けたくなった。 しかし現実は現実である。ありのままを受け止めなければいけない。




午後4:45、仙道清春の陰謀。

ばこっと、扉を蹴破る音がしたのでそちらの方向へ首を向けると、 かなりの速さで走ってくる仙道清春がいた。 その手には、右手に水鉄砲、左手にはカメラをどうやらもっているようだ。


「キヨってば、もっと静かに入ってきてよ。先生が起きちゃうじゃん!」
「キシシシシッ!カベんとこのやつすげェなァ!」
「なんのことだ?」
「おい、翼・・・また変な発明品を清春に渡してねーよな?」
「WHAT?!真壁財閥の総力を尽くした発明品が変なものであるわけないだろうが!」
「そういっている時点で、もう怪しいぞ。ほら見てみろ、清春の顔!」


その顔に浮かぶ凶悪そうな笑顔は彼がまたなにかをやらかしたということを表している。 まぁ、どんな表情でも悪戯をかかしたことはないが、今日は特にごきげんな様子である。 いつもよりも凶悪笑顔が5割増しくらいになっているからだ。 内心焦った翼が何をやらかしたんだ?と聞こうとしたが、その瞬間さらに大きな音を立てて扉が開いたので、 その声はかき消されてしまった。




午後4:45:32、七瀬瞬の意地。

ばこーんっ!と扉が開き、反対側にぶつかりリバウンドするくらいの衝撃を与えつつ、 清春と同じくらいのスピードで髪を振り乱しながら入ってきたのは、七瀬瞬であった。 真っ赤な髪を振り乱して、追いかけてくるその恐怖は計り知れないものではあるが、 清春はそれを軽くあしらうようにして、バカサイユの中を走り回っていた。 一方3人はまったく状況が掴めない。 そこで悟郎は秘奥義を使うことにした。そう、ゴロちゃんハンマーという最終兵器である。 どごおぉぉおおんっと凄まじい音がしたが、そこはさすがのバカサイユ。少し揺れただけで 特にダメージはないようだ。さすが、無駄に金を掛けているだけはある。・・・と、思ったが、 壁に亀裂が入ったので、やっぱり大丈夫そうではなさそうだ。ゴロちゃんハンマーの破壊力が お分かりいただけたかと思う。


「ごほっ、な、何をするんだ、風門寺!」
「こんなところでいつまでも追いかけっこなんかしてるからだよ、ポペラプンプン☆」
「ぐへェー、モロみぞおちに入ったぜェ・・・・」
「貴様は自業自得だ!」
「何か、やらかしたのか?清春」
「別にー、ただバカサイユにいたらー?ブチャが来たから、暇つぶしにプシューッと一発お見舞いして やっただけだぜェ?」
「なんだそのプシューッ、は」
「カベんとこからもらった”プシューッと一発スリープコロン”だぜェ?」
「それだけじゃない、仙道のやつ、先生の寝顔を写真に撮っていたんだ!」
「えー、ずるいずるい!キヨばっかちゃっかり先生の写真いっぱい持ってるのゴロちゃん知ってるんだからね!」


悟郎のその言葉はその他の皆を固まらせるには、十分だった。






誰が1番になる?!
「何!?清春、それは本当か?!もしそうだとしたら・・・UNBELIEVABLE!」
「持ってるよーなァ?持ってないよーなァ?キシシシッ!」
「はっきりしろ!!どっちなんだよ!」
「仙道、貴様・・・!持っていたらただじゃおかない!くそっ!」
「絶対ポペラ持ってるよ!だって、前ゴロちゃん見つけちゃったもん!」
「あれ・・・みんな・・・?」
「あ、瑞希!今起きたんだね!ポペラおっはよー☆」
「ん・・・おはよう・・・」
「ってゆーかァ、ぶっちゃけマダラの方がおいしい思いしてると思うぜェ?」
「「「「・・・・」」」」





やけに、瑞希とキヨだけいい思いしてますね!