ClassZは問題児ばかりが集まっているクラスだ。特にA4と呼ばれる彼らは良くも悪 くも目立つ。それは内面のせい(主に頭部)でもあるが、それ以上に外面のことがある。 A4は誰もが見とれる美形集団とも言われているからだ。
まぁ…それと似たような感じの奴ら6人を受け持ったことがある私からしたら、 大分美形には免疫が付いてきたけれど。


ClassZ副担任の私は、午前の授業が終わり、職員室でゆったりとしていた。 ゆったりって良いなぁ…いいなぁ、この平穏な感じ。
B6という問題児6人組からA4という問題児4人組に減ったのもある。 しかしなによりも学園ではパーフェクトツインと呼ばれる超エリート2人が北森先生や私のサポートを してくれていることがとても大きい。


「おい!先生はいるか」
「こんにちは、せんせい」


ゆったりするはずだったのだが、さっそく噂の2人のお出ましのようだ。
片方はやや苛立ち気味にもう片方は朗らかに私に声を掛けた。


「はいはい、どうかしたの?」
「嶺がいなくなった!」
「ちょっと目を離した隙に逃げられちゃって」
「それは大変だねぇ」
「大変だと思ってないでしょうが!!」
「多分お昼ご飯でも食べてるんじゃないの?」


丁度お昼時だし、と思って口にした言葉は切り捨てられた…すでに心辺り は見てきているらしい。無惨だ。


「アホサイユにはいなかった」
「裏庭も校庭もいなかったしね、後はここくらいしか・・・」
「案外身近な所にあるもんだよ、落としものとかの場合は」
「あいつは物ではないでしょう」
「だから余計に見つかりにくいんだよね」


辺りを見回してみるが、見当たらない。まぁ分かるようなところにぼけーっと 突っ立っている馬鹿はいないと思うけど。


「大体担当教師もいないってどういうことだ!」
「え、いないの?」
「うん、風門寺先生も一緒にいなくなっちゃってて」
「……一緒に逃げたよね、それ」
「補習だと言うのに教師が逃げるとは!」
「在学中から困った子だとは思ってたけどね…」
「え〜っ!センセってばゴロちゃん達の事そんな風に思ってたの〜?!ポペラショック!!」
「あっ、今出たらマジマジドマジにヤバいよっ、エンジェルちゃん!」
「…方丈くんたち、やはり落としものは身近にいたようだよ」
「…そうですね」
「言ってた事当たったね、せんせい」


そんな会話をしながら、天童先生の机の下から飛び出した悟郎くんと それを止めようとした嶺くんを冷たく3人で見つめる。すごすごと出てきた2人 は気まずそうに視線をさまよわせた。まったくこの子たちは…。


「いくら天童先生の机がバラまみれで隠れやすいからって駄目でしょ?」
「本当はねセンセの机に隠れようとしたんだよ?」
「そうそう!KNW、決して、蔑ろにした、わけじゃないんだよ」
「そういう問題じゃないでしょうが」
「うっ…だって慧と那智は絶対職員室に寄るからゴロちゃん…」
「「…!?!」」
「どういう事?確かに2人は毎日報告に来てくれているけど・・・」
「もぅ、センセはお鈍さんなんだからっ!馬鹿っ、でもポペラ好きっ!」
「もちろん、オレもさっ!DKS、大好き過ぎて、困るよ、先生」
「はいはい、分かったから。毎日聞いてるから」
「もー!センセったらポペラつれないんだから!」


ぷーっと膨らませた顔は在学中となんら変わりはない。
むしろ5年経った今、可愛さにはさらに磨きを掛けているが・・・。 こんなに可愛くなっちゃってどういうつもりだろうか。どうしようもないけど。 むしろこんなに可愛くなっちゃうのは、何故なんだ、今度化粧のやり方教えてもらおうかなぁ?


「どうしたの?先生。可愛い顔が台無しだよ」
「いや、大丈夫だから。つーか、嶺くん近い、ち、近いから!」
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」
「もー!アラタってば、センセはゴロちゃんのセンセなの!駄目っ!」


悟郎くんがなんとか私と嶺くんの距離を開ける。嶺くんは、残念そうな顔をしているが、逆に 私はほっと胸をなでおろす。だって嶺くんってすぐに距離を縮めようとするから、少しも 気が抜けない。
私がほっとするのと同時に後ろの2人の息を吐く音まで聞こえてきた。 呆れてため息しか出ない、といったところだろうか、まったくです。


「先生、もう昼休みも終わる。早く昼飯を食べないと次の授業が始まるぞ」
「そうだね〜あと10分もないよ?早く食べた方がいいんじゃない?」
「あ、本当だ。・・・そうそう、5時間目は私の授業だけどきちんと予習した?」
「してあるに決まってるだろう!僕を誰だと思っている」
「もちろんだよ〜。だってせんせいの授業だし」
「そうだね、聞くまでもなかった、いつも通り完璧だよね」


2人を見ると、いつもの自信満々な笑顔。さすが、頼もしいと思わせるだけのことはある。 職員室の窓から春の風が入ってきて、制服の裾を揺らす。 笑顔で2人を見つめる私の前にぬっと2つの影が間を遮った。 そうそう、置いてきぼりだったでこぼこコンビだ。


「ちょっとちょっとなぁーに見つめあってんの?!許さないからねっ!」
「MTI、マジで、ちょっと、いい加減にしてくんない?先生〜、オレたちの事も忘れないで」
「なっ、見つめあってなどいない!お前らこそいい加減にしろ!」
「まったく、補習逃げ出しておいてよく言うよね。そういうのはちゃんと出てから言うんだよ」
「「・・・うっ」」
「皆、仲良く仲良く。嶺くん、放課後はもちろん補習頑張るもんね?」
「ううっ、せんせ〜!NYM、なんて、優しいんだ、まるで女神のようだ!」
「その時はもちろん私も、方丈くんたちもスパルタでいくよ!」
「ゴロちゃんもセンセと同じ、スパルタで行くね!」
「エンジェルちゃんまで〜!」
「大丈夫よ、分からない所はちゃんと一緒にやるし、嶺くんなら出来るって信じてる!」


手に手を取り合って、今はまだ天高くあるお日様を指してそう言う。
きっとこの子たちを卒業させるには大変な苦労が待ち受けているに違いない「その通りだな」
だけど、でもしかし!ここで諦める訳にはいかないのだ!「せんせい、張り切ってるね」
こら、そこ余計な茶々を入れない!


「大丈夫だ。こいつらを卒業させる事、先生ならきっとやり遂げるだろう」
「なんていったって、おれたちが付いてるしね。後ろは任せて」
「ふ、2人とも・・・!ありがとう」


なんて頼もしい言葉・・・!柄にもなくちょっと感動してしまった。
そうだよね、パーフェクトツインだもんね。嗚呼、思い出す・・・南先生とタッグを組んでB6を 追い掛け回した時のことを・・・。そんな孤独な2人の戦いはそれはそれでよかったけど、 今回は、北森先生とのタッグ、そこに超頼りになるP2が参戦してくれるのだ。 心強い・・・!


「どうしよ、センセ、ポペラ感動しちゃってるよ〜」
「なんか俺たちのけもの?I3?いても、いなくても、いい感じ?」
センセってこういうの弱いんだよねぇ〜。ショウちゃんとかにもこんな感じでキラキラーって目線送ってたなぁ」
「どうするエンジェルちゃん!オレたち出遅れた?」
「大丈夫、アラタ!ほらよく言うでしょ?手のかかる子の方が、可愛いって!」
「それを君たちが言うのは、ちょっとどうかと思うなぁ」
「那智!そいつらに構っても面倒なだけだ!放っておけ」








最後に笑うのは
                もちろん・・・だよね?


「そうそう、可愛い子には旅させよ、とも言うよ。んじゃ、悟郎くんこのプリント放課後までに」
「ぶーっ!センセは厳しいんだから〜。うん、でもアラタの為に一肌脱ぐよ!」
「そうね、嶺くん。ゆっくりでいいから頑張ろうね」
「エンジェルちゃん・・・!先生・・・!」









(090316)