「気軽にキヨリンくん、とかハルッチャ様って呼んでくれていいよ☆」
「(爽やかそうな人だな・・・)」
「・・・・ばっかもーん!」


爽やかに挨拶をかました後盛大なツッコミにその場にいた1人以外はまたか、というため息と共に笑みを零した。
――懐かしい感覚が蘇ったからだ。学生時代もよくこんな感じだったなぁ、と思い出す。そこまで思って ふと我に返る。もうこの声は聞けないはず・・・だったのだから。
しかし実際にその姿を確認してしまった。目の前にいる彼女は幻なんかじゃない。問いただしたい気持ちでいっぱいだが、 新任の彼女がいる手前、いつも通りの――5年前のやりとりを繰り広げる。


「・・・ンだよっ!この暴力教師っ!!」
「副担・・・、その方針は止めたと聞いたが?」
「はっ!ついいつもの癖で馬鹿共を見ると手が・・・!ってもう私は翼くん達の副担じゃないよ!」


誰も見てないよね!B6しかいないよね!と必死の形相で辺りを見回す彼女に見えるように、新任である 北森真奈美はそろり、と手を挙げた。


「あの…はじめまして、今日から聖帝に赴任してきました、北森真奈美と言います」
「・・・!?!!?!・・・申し遅れました、と申します。北森先生、仲良くして頂けると、とても嬉しいですわ」
「いえっ、こちらこそ・・・お願いします!(上品だなぁ・・・さっきのはまぼろしだったのかな?)」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」」
「あれ、B6の先生方はどうかなされたんで、」
「彼らはただ緊張してるんですわ。だって初日ですものね!そうですよね」
「・・・いや・・・べつに、」
「わぁあ、馬鹿瑞希っ!黙っとけ!」
「・・・緊張してるのよね?」


2人と1匹を除いた4人は、一言も話さずコクコクと首を縦に動かす。こういう時は黙って従え――学生時代の教えである。
大人しく頷いた彼らを見て、深く満足げに頷いたところで、仙道が口を開く。


「そんな畏まって変な言葉遣いするオマエが可笑しいっつーか?久々に会ったのにどーも調子でねェなァ」
「・・・清春く、」
先生!油断するな、5年経とうが10年経とうがコイツは変わらない!」
「え、なに・・・・・は?」


らしくない発言は5年ぶりとは言え、教え子からは到底想像出来ない。
ふっ、と様子を探るため、顔を近づけるとカエルのおもちゃを目の前に出された。ぴょん、っと彼の手から飛び出すおもちゃを 見つめながら、 ……やれやれ相変わらず悪戯っ子具合は変わっていない みたいだ、と息がもれた。
ため息じゃなく、顔には笑みさえ浮かべられる程に。


「ケッ…カエルのオモチャくらいじゃ驚かねーよなァ、」
「…やっぱり5年経ってもB6はそう簡単には変わらないか」
「あ、あの!先生、B6の皆さんとお知り合いなんですか?」
「クックックハーッハッハッハ!!よくぞ聞いてくれたな、ここにいる先生は俺達の学生時代の副担任だぞ!」
「ああ、随分世話になったもんだな、俺達」
「またここで今度は先生として一緒にやってけれるなんてね〜。センセと会わずに5年…長かったよねぇ」
「………うん、ほんとに。無駄に長かった・・・」
「キシシッ、腐れ縁ってヤツかァ?」
「ええぇ!?じゃあ凄い経験をしてきてるんですね!またお話聞かせてください」
「えぇもちろんです、北森先生。また是非、同僚として友好を深めたいものですわね」
「あっ私この後に上條先生とアホサイユに行かなくちゃいけないんです!すみません、バタバタしてて。失礼します」
「気になさらないで。ではまた後で」


手を軽く振って北森先生を見送ると、きっと驚いているであろう、彼らに向き直る。
さっきは北森先生がいた手前、全員平静を装ったようだが、動揺もかすかに感じ取れる。 私は5年前と変わらない笑顔を浮かべながら彼らを見る。


「・・・まったく、ここで会えるなんて想像もしなかったぞ、副担」
「翼くんにそう呼ばれると感覚が戻ってくるよ」
「本当だぜ。悠里先生と一緒に南米の奥地に飛ばされたって思ってたんだぞ」
「うん飛ばされそうになったんだけど、悠里先生が代わりに・・・元気に旅立って行っちゃった」
「そか、悠里センセはセンセの事大切に思ってたもんね」
「・・・でもあれ、絶対に分かってないよ。でも私の事は気にかけてくれて日本に残りなさいって」
「さすがだな悠里先生。無鉄砲さは変わらずと言うことか」
「でもオマエは、ほんっと変わんねェな。変わったのは口調くれェか?」
「・・・先生は何で残った?理事長の企みでT6も散り散りになったのに・・・」
「トゲーっ!」


瑞希くんが珍しく強い口調でそう言うと、トゲーも合わせるように声を出す。
そう・・・私はT6の皆さんや南先生が去ってしまった聖帝で1人待ってた。 皆を――B6を。そしてB6と同等の生徒たちを。


「この学園を去る訳にはいかなかったからね。どうしても居残るために現理事長派として居座ることにしたんだ。 だから微妙に性格変更して、理事長の気に入るような先生を演じてるってわけ」
「それでそんな変な口調なのか、可笑しいぞ」
「変ってなに!?一応T6の年長組を見習ってやってるのに!」
「クソッ、オバケの真似なんかしてんじゃねェよッ!気色悪ッ」
「はん、生意気言えるのも今のうち・・・おやおや、清春くん。いけませんね、女性にそんな言葉遣いをしては」
「「「「「「・・・・・・!!???」」」」」」」


ふふ、と笑う姿は確かに彼女。だけど5年間無駄に過ごした訳ではないらしい。
いつもとは違う笑い方をしてみせるだけで、かなり違うように見える。 今だって聖帝の天使と言われた衣笠先生の台詞をただ言っただけだ。なのに別人のように見える。 彼が持ち合わせている妖艶さも、得体のしれなさも全て表現してしまっている ・・・どういう演技力だ。改めて彼女の訳の分からなさを感じたB6である。
まぁ自分たちが在学中の時も 思いっきり破天荒な事をやっていたのでその点は驚かないでいるのだが。 驚くようなことをしても「まぁ・・・副担だからな」で片付けられるのだ。


「とにかく、事態は思ったより深刻だよ。悠里先生のためにも絶対に聖帝を取り戻す!そして理事長、シメる!」
「「「「「「(思いっきり私怨だ・・・!!)」」」」」」
「コホン・・・気を取り直して。とりあえず状況把握をして各個人で動くぞ。新しく編入してくるA4には会ったか?」
「面倒くさいが口癖のフワフワチワワ・・・えとなんだったか・・・・には会ったぞ」
「一くん・・・記憶能力退化してない?大丈夫?不破千聖くんだってば」
「俺も会ったぞ。仕事関係でも会ってるがな。多智花八雲だ」
「あのかわいい子ね。私も書類には目を通したよ。お仕事で忙しいらしいからまだ会ってないけど」
「あとはミネミネだね。ほんっと可愛ければなんでもいいって男だね。ボクが男だって言っても特に驚かなかったし」
「あーあの嶺アラタくんね。あれは目立つねぇ・・・その他もろもろも大変だったよ・・・」
「それでA4のリーダーが成宮天十郎、成宮財閥の息子だな。御輿だなんだと騒がしいやつだ」
「ああ、嫁嫁言ってる子ね。まぁー学園生活の中で婚活とは大変だなぁ、とは思った」
先生、それ多分ちょっと違うぞ」


A4についてはそんなに心配してないんだよねー、どっちかっていうとP2の方が心配。とあっけらかんと笑う。
この言葉についてはB6全員首を傾げる。どこをどう見ても最強阿呆軍団A4の方が手が掛かるに決まってる。 それをそんなに心配していないとは・・・。さすが最強馬鹿軍団B6を卒業させたことはある。


「まぁ、なるようになるっしょ。これから1年間頑張ろう!」
「うん・・・先生なら大丈夫。なんせ問題児B6を立派にここまで成長させたし・・・」
「オレ様の悪戯にも泣き顔1つ見せねェンだから、ヨユーだろォ?キシシッ」

「それでは、聖帝奪還計画開始っ!」


拳を上に突き上げた後、そのまま彼らから背を向けて立ち去る。
声高らかに発せられたそれは、嵐の幕開けを意味する言葉でもあった。 だけど彼らは怯まない。それは彼らを包み込む最強の先生がいるから。 ここは自分たちの大切な場所である、誰にも好きにはさせない。
決意も新たに、彼らはそれぞれの目的の為に歩き出した。








戦いの鐘を鳴らして
「迷える子羊の為に人肌脱ぎましょう!ああ、私のマリア、おはようございます」
「ヘイヘイヘイ、今日も元気にノッていこうZE!〜、さっきはどこ行ってたんだYO!」
「1日しっかり3食は基本だよ。1日は朝食から始まる。先生、お弁当を作ってきたから、いっぱい食べるといい」
「「「GTR――推参!!」」」
「(この人達大丈夫かな・・・悪い人たちではないんだろうけど現理事長派だもんなぁ)」





(090417)