いつでも突然に物事は起きるものである。

かぐや姫は成宮の言った通りの内容だった・・・大体の大まかなところ、かなりおおざっぱに言えばの話しだが。 それをあの司書に言えば、成宮くんはなかなかいいとこつくよね、と朗らかに笑った。
物語ではかぐや姫は最後、月に帰ってしまったが一体その後どうしたんだろうか、だとか考えていたら何だか物悲しい 気持ちになってきてしまった。現代文の問題ではないのだから、深い所まで考えなくても良いのにだ。


「お〜い、方丈くん?聞いてる?」
「・・・はっ!な、なんだ何か言っ」
「あー、聞いてなかったんだね・・・」
「・・すまない、少し考え事をしていた」
「あらら。今ね、コーヒーか紅茶どちらが良いって聞いたの」
「ならば・・・紅茶を貰おう」
「ふふ、規則に反する!とかは言わないんだね」


僕がその発言に反論しようとした声は彼女の紅茶だってー!と後ろに向かって叫ぶ声に掻き消されてしまった。
・・・本当に調子が狂う。・・・って、ん?彼女以外にもここにいる人間がいるのか?


「おい、司書はお前以外に誰かいたか?」
「ううん、予算と人件費の関係で大体私1人」
「そうだったな・・・生徒会で決まった事だ。だが今後ろに誰かいるような発言をしただろう?」
「ああ、それなら・・・あ、来た」
「・・・・・・・??!!!」


長身の男がトレーの上にコーヒー2つと紅茶を1つ乗せて出てきた。
後ろの準備室から出て来たのは不破千聖―――A4の一味だ。驚きすぎて、椅子から転げ落ちるところ だった。すんでの所で状態を持ち直し、なんとか取り繕う。


「・・・全然取り繕えてないよ。方丈くん。がたがただよ」
「う、うるさい!放っておけ!」
「・・・そんなに怒鳴るな。頭に響く」
「誰のせいだと思っている!」
「くぁあ、とりあえず席につけ」
「そうそう、ま、茶でも飲んで落ち付きなさいな」
「そうだ。これをぐいっといけ」
「千聖くん、それをぐいっといったら口の中が大火傷だよ」


そう言いながら、不破のトレーから紅茶を取り、僕の方に押しやる。
慣れた手つきでその動作をするものだから、不破がここに頻繁に来ているんじゃないかとついつい疑ってしまう。 ・・・ぼ、僕には全然まったく関係がないことだがな!
渡された紅茶は湯気が立ち上り熱そうだ。1口そろりと飲んでみるとじん、と口の中が痺れた。 ・・・ああ、落ちつく・・・ってそうじゃないだろう!


「何故ここにいる!成宮のお守りはどうした、不破!」
「くあぁ、俺は図書委員だ。ここにいるのは当然だ」
「な、図書委員・・・だと!?」
「図書委員会はやることがなくて最適な委員会だ」
「やりがいがない委員会に進んで入るやつがいるとは・・・!」
「世の中は広いからねぇ。物好きな人もいるよ」
「ここはうるさいことを言うやつもいないし居心地が良い」


そう言われちゃうと照れるなぁ、と笑うとその笑顔を、黙って受け止める不破。
・・・あまり見ていて気持ちの良いものではない。何故かは分からないが、胸の奥から苦しいと言う声が聞 こえた気がした。
図書室にずっといても違和感がない奴がいたことを今更発見したことで、危機感がぐっと高まったのだろうか。 今まで見向きもしなかった図書室に魅力を感じ初めている自分がいることは確かだ。


「千聖くんは面倒だとか言いながらいつも手伝ってくれるの」
「・・・お前は見ていて危なっかしいからな。天と同じだ」
「えっ、私成宮くんと同レベル!?」
「まぁ、似たようなものだ」



軽口を叩く不破の目はその言葉とは逆に真剣なもののような気がした。
もっともそれを感じ取って欲しいと願っている相手には届いてはいなく、僕が 気付いてしまったのだが。


「成宮くんと同じレベルかは置いておいて、千聖くんにはこれからもよろしくお願いするよ」
「・・・任せておけ。委員の1人として最低限の活動は面倒だがやってやる」
「ま、特にやることもないしね。座ってるだけで良いんだけど」
「それを聞くと、この委員会に入って良かったと心から思うな」
「ありがと。ああ、方丈くん。次の本を用意しておいたよ」
「あ、ああ。すまないな、いつも」
「ぷっ・・・どうしたの、急に。いつものことでしょ?」
「・・・そうだな、いつもだ」
「はい、舌切り雀だよ!」
「着たきり雀ではないのか・・・また勘違いしていたんだな」
「方丈、舌切り雀を知らなかったのか・・・あんなに有名なのに」
「不破、一般常識を知らないお前に言われたくはない!成宮に言われた時も腹が立ったが、今回も かなり腹が立つな!」
「舌切り雀は日本国民が知る一般常識だと思うが。事実俺でも知っているぞ」
「・・・うっ!・・・こ、これから知れば良い話だろう!僕も・・・・・お前も!」
「はいはいはーい!争わない争わない!図書館ではお静かにね」



はのんきにコーヒーにミルクを入れてスプーンでぐるぐるとかき混ぜている。
かき混ぜるにつれてコーヒーの真っ黒な色がだんだんと柔らかな茶色になっていく様を見つめる。 それが、まるで自分のようだ、なんて、思ってしまうなんてさっきまで想像もしていなかった事だ。


その気持ちになんとなくでも気付いてしまった自分自身は、嬉しいんだか戸惑いなんだか 泣きたくなるような、、そんなあやふやな気持ちのままだ。
この心がどう育つかというのはまだまだ分からないままだけれど、それが良い方向に 行けば良いと願うばかりだ。







着たきり雀のこころ
「(あ、名前で呼んでくれと言う事をすっかり忘れていた!)」
「慧?・・・慧?おーい慧ってば!」
「(僕は双子だから苗字で呼ばれるとどちらか分からないから、という理由が1番妥当だな・・・)」
「(完っ全に聞いてないな・・・ったく)」





(090505)