「ん?翼くん、またなにやって…は?永田さんの事?うーん優秀ですごい人だと思うよ」
「翼さま?何をしてるんですか。…?先生と私ですか?そうですね、私にはもったいない方ですよ」





「これが、ターゲットに極秘に聞いた情報だ」
「(今のどこが極秘…?)」


B5の疑問点はさておき、真壁翼は机に書類を叩き付けた。
その声は多少のいらだちを含んでいた。身近な人物で副担に好意を持っている人物は自分しかい ない、そんな考えは甘すぎだとちゃんと分かっている。 副担は自分たちをここまで引っ張ってきた根性といい、性格といい申し分ない。好意を持つのも仕方ないことだ、と 頭では分かっている。自分たちが、ただの問題児であって彼女との関係が卒業までの期間限定なものであることもちゃんと 分かっていたつもりだ。
だが、どんな理由を並べたててもやはり、しかし、気に入らないの一言に収まってしまう。 とにかく、気に入らない、気に入らないのだ。自分たちの副担を取られてしまったかのような錯覚に陥りそうになる。


「でもさー焦るにはまだ早いんじゃねぇの?確実に先生と永田さんがどうこうって言う証拠もな い訳だし」
「ったくハジメはそういう事ばっか言ってるからいつも出遅れるんだよ!」
「…?!悟郎…それは酷いぞ…!」
「まさか先生…1日3食につられたんじゃないだろうな?昼寝とおやつを付けられたら俺達には勝ち目なんてないぞ!」
「おい!ナナァ??ブチャの時は落ち付けだのなんだのうるさかったくせになんだァ?」
「大人に…ならなきゃね…うんうん」


静かに諭されて、ぐっと詰まって七瀬瞬は下を向いた。彼は前回かなりの大人な態度を見せただけあって、 今回の発言はどうにもおかしいと自分でも思う。
前回では大人の態度を見せることが出来たが、やっぱり自分の中で 担任と副担ではやはりちょっと違うようだ。南先生は大切だ。幸せになってほしいと思う。 だが、先生は違う。もちろん幸せになってほしい・・・でも自分の下を去っていくのは見たくない。
こういうところがまだまだ子供なんだと思う。我侭なのは分かっているし、彼女を困らせることになってしまうことも、 よく分かる。大人になろう大人になろうとしていて背伸びをしてみても、その一生懸命さはいつも空回りしてしまう。 ここぞと言うときにいつも自分の大人像がガラガラと崩れていくのを実感してしまう。ため息が出るのを 抑えられない。


「相手はあの永田さん…ちゃんと計画してやらないと返り討ちだけじゃすまない…」
「ミズキったらやる気まんまんなんだから〜」
「こーゆー時は素直に祝福しなくてどーすんだァ?あいつの人生だろォーが!」
「…仙道…お前…」
「いくら悔しくてもゼッテーに手に入らねェものだってあんだよ…」
「……キヨがそんなこと言うなんて!どうしたの?なんかポペラおかしいよ?!」
「いつもと立場が逆転してるな。まさか清春に諭されるとは思ってもみなかったぜ」
「………さっきから聞いていれば余計な事をごちゃごちゃとやかましい!いいか、お前ら!」
「……うるさいのは翼…声のボリューム落として」


前回とは違い、清春がやけに大人な事を言うために、いつもとちょっと違う空気が流れてい る。前に担任が葛城と結婚すると聞いた時には誰よりも早くバカサイユを飛び出 したと言うのに、今日は落ち着いている。
やはり彼も大人になったのか…と思うのは斑目瑞希である。だが彼は発見してしまった。 清春のウォーターガンを持つ手が微かに震えている事に。それ以前にウォーターガンを持つ大人はあまりいない。あまりというかいない。 これは…ただの演技だな、と考えてふむ、と首を傾げてみる。
自分としては南先生も、先生も誰にも渡したくはないのだが・・・良い考えはないのだろうか。うーむ。
その一連の動作の間にもB5達の会話はテンポよく進んでいく。


「だけど先生からは別に付き合ってるとかそんな感じしねーけどなぁ」
「あれ…照れてる…絶対先生なんかある…」
「瑞希がこう言うんだ!絶対何かあるはずだ」
「マダラは色々ヤベーから、今後アイツに近づくの禁止ッ!」
「清春、瑞希はたまに抜けがけすることもあるが基本的には大人しいぞ。だからノープログレムだ!」
「そうそう、全然大丈夫。全然安心。先生をぎゅってすると安心」
「ほらな、安心だと瑞希自身も言っている」
「全然安心…ッて、最後のはおかしいだろがッ!」


担任と葛城の結婚騒動があった時に、色々と凄いことを言っていた彼に仙道清春は声を張り上げ反論した。 どうも自分の周りには抜けてるヤツが多過ぎる、と思いつつも抜けてるからこそ悪戯のしがいがあるな、と考え直す。 さっきは大人な発言をしたが、それはいつもと違う事を言って他の奴らを大人しくさせる作戦だ。
本当の所はバカサイユを飛び出したい気持ちでいっぱいだ。ただ気になるのはマダラの1言。 なんだァ、あいつが照れるって…笑ったり怒ったりと表情豊かだけど、オレ様の前では照れた表情なんて…。 自分が黙った事でしん、と静まり返った室内で口を開く者がいた。


「でも、俺は先生が結婚しよーとしまいとずっと好きだぜ!大好きだ!」
「一!お前はまた恥ずかしい事を平気で言う!」
「まったくだ!聞いている俺の方が恥ずかしい!」
「…いやぁ、シュンは〜もっと恥ずかしい事ポペラよく言ってるよ?」


―そんなはず、と口にしようとしてB5全員の視線を受けた七瀬を見て風門寺悟郎は少し笑ってしまった。
背伸びして大人びているように見えるだけで、本質的にはまったく変わってないということが分かったからだ。 久々のB6会議だ。卒業してからもう大分時が流れた。だけどいくら月日を重ねても心地良く考えられるくらいこの空間が好きだ。
それと同じ様に副担である彼女の事も…。この関係をずっとずっと保ちたい、とも何度も考えたけれどそれももう そろそろ潮時なのかもしれない。自分もなんらかの意志表示が必要になってきたかなぁと考える。


「好きなものは好き!はっきりさせとかねーと気持ち悪いだろ?」
「だが…ストレートすぎる!」
「大体一は1番自覚するのが遅かったくせに、なんだ!」
「な…そんな怒らなくてもいいだろーが!」


学生時には決して語る事の出来なかった想いを口にするのはやはり恥ずかしい、と心の中で呟くのは草薙一である。
今でこそ堂々と気持ちを公言しているがやっぱり好きだと言うのは勇気がいるし、難しい。 自分だってほいほい言っているわけじゃないのだ。む、としたのが顔に出てたのか、それとも心で伝わったのか トゲーが同意するように鳴いた。
南先生の時も焦ったけど結局それが敬愛の念であるのか恋慕のそれであるのかは 分からない。鈍すぎると言われてしまえばそこまでなのだけれども、でもやっぱりどんな想いであっても 彼女のことが好きだという気持ちに偽りの気持ちはない。







「あの、永田さん。最近B6の皆がちらちら柱の影からこっちを見てくるんですが・・・」
「先生もでしたか。奇遇ですね。私の方もかなり背後からの視線を感じることがありますよ」
「バレバレなのに、向こうはバレてないって思ってるところがまたお馬鹿さんですよね」
「・・・そういえば。翼さまがよく先生のことを聞いてきますね。翼さまだけでなくて他の方も」
「へ?私のことですか?えー、なんだろう。なんか悩みでもあるのかもしれないですね」
「先生、耳を貸して下さい。・・・・・」

「ちょっとハジメ!ポペラきつい!体重掛けないでよっ・・・ううむ、先生がよく見えない!」
「俺だって重いんだよ!おい瑞希!俺の頭の上に肘置くな!先生、何話してるんだ?!」
「先生・・・また永田さんとおしゃべり・・・僕なんか最近忙しくて話も出来ないのに・・・翼、邪魔」
「なに?!俺が邪魔だと?!永田・・・どうして副担なんだ・・・!瞬、お前の服のもこもこで前がよく見えんぞ!」
「俺より仙道の水鉄砲の方が邪魔だろう!・・・って先生!ち、近い近い近い!もっと永田さんとの距離を開けろ!」
「オメーら、全員が邪魔で発射できねーダロがッ!クソッ!あいつも、何考えてんだよッ・・・!」



エンディングはまだ








(090606)