いつも会う。毎日会う。正確には朝の7時半。
天を見張る教師がいるため、自分はここ最近べったりくっついている事は多少減った。
そんな俺の近況だが、廊下をぶらぶらしていると必ず向こうの角から現れて歩いてくる奴がいる。 俺と一緒でただの暇潰しなのか、目的があるのかは分からない。
制服ではないその人物はあまり聖帝にはいないので目立つ。1回聞いてやろうかと思うのだが、いつも向こうの方から、 にこという有無を言わせない笑顔で会釈しつつ過ぎさっていくので何も聞けず仕舞いになる。 学園内にいることはいるので関係者だとは思うのだが。


そんな事が続いたある日。彼女と違う場所で会うのは初めての事だ。 ことの始まりは、ついさっきの休み時間。
昼飯にしようとして弁当を広げたのだが中身は見事に空だった。 アホサイユの中では滅多に漂う事のない緊張が走った。


「空、だな・・・」
「空、だねぇ・・・」
「空、になってるね・・・」
「・・・・」
「これはどういうことか、説明してもらおうか、天!」
「天ちゃーん?きちんと正直に話さないとどうなるか分かってるよねぇ?」
「これはGMY!ゲキマジヤバイよ?天ちゃん。食べ物の恨みは怖いよ?」
「・・・」


天を見ると、奴はそっと目を逸らした。
多智花なんかは特に天にとび蹴りを食らわせようとしていたが、なんとかなだめた。 実際何も言わなくても、天のその態度を見れば食ったとはすぐに分かる。
嶺と多智花はぎゃいぎゃい騒いだが無くなってしまったものは仕方がない。各自で昼食を取る事になった。
多智花と嶺はアホサイユを出てクラスの女子と、天は俺と学食にすることになった。 ちなみに天は腹が空きすぎて動けねぇ…と言った後にソファーに寝そべりそのままになった。…弁当を食ったのは一体誰だっ たか、と問えば、 手をただひらひらとさせて降参のポーズを取るだけだった。そんなこんなで俺が学食まで行って天の分も取ってくる事 になったのだ。


間抜けにも学食のトレーを持ってランチを待っている時に彼女は手に本日のランチ、パスタセットを持って現れた。
いつもと同じあの笑みを見せながらの登場に多少動揺したのは認めてやっても良い。 だけどまさか学食勤務だとは思わなかった。いつもは弁当を作ってきてしまうので、学食は利用しない。 いつも弁当を作ってきていたことが、こんなところで裏目に出るなんて・・・。
決められた場所、時間でしか出会う事もなかった人が今この前にいる。
何だかひとつ謎を解いてしまったような寂しさを抱いた。目の前まで来て初めてその人は口を開く。


「本日のランチ、パスタセット2つの方〜」


案外普通だ、と思った思考は次の瞬間、一時停止した。目の前で空を舞うパスタが見えたからだ。
素早く皿を彼女から奪って上手に上から降ってきたパスタをキャッチする。周りのまばらな拍手を受けつつ、 彼女を見下ろす。
目の前で華麗にずっこけた彼女はカウンターにごつん、という大きな音を響かせて ぶつかった頭をさすりつつ、俺に涙目状態ながら聞いてきた。


「あだだ…あなた、だ、大丈夫です?!」
「ああ、平気だ」
「パスタも…?!」
「大丈夫だ。ほら」
「あ、なかなかいい盛り付けですね!じゃ、じゃなくて、あ、ありがとうございます!すみませんでした」



ペコペコと頭を下げる彼女は血の気が引いていたが、俺が上手くキャッチしたことを知ると、にこりと笑った。 やっぱり毎日すれ違う時ににこりと笑った彼女だった、と再確認すると同時に、 まだ青い顔をしてはいるものの、あの笑顔は印象的で忘れることなんてできそうにも無い。
毎日すれ違ってはいるものの、声を掛けたことの無い、ましてや話しかけたこともない人が目の前にいたという事が なんだか不思議に思えてきた。
・・・明日からは、話しかけてみるか。名前くらい聞いておけば良かった。
俺は少々盛り付けがずれたパスタを食べながら、思ったのだ。



未来でも会いましょう
「あー、学食の本日のランチ、パスタセット!!」
「やっくん、まだ食べるの〜?さっきこれでもかって食べてたのに」
「別腹と言う言葉を知らないのですかぁ?ピーちゃん!」
「悪ぃけど、お前らの分はねぇぞ!」
「・・・天ちゃーん?そういうことばっか言ってるといつか・・・」
「い、いつか・・・?!」
「んでなんで、チィちゃんは一時停止してるわけ?」
「さっきから、食べながら一時停止を繰り返しててよぉ。なんなんだ、千の奴・・・」








(090620)