夏も真っ盛りな8月の聖帝学園職員室で事件は起こった。
夏も真っ盛りであろーが、どうであろーが補習組のA4達は今日も学校へ来ていた。 今日は国語の補習だったので、自称国語教師の翼くんとも一緒に補習をしたのだが・・・ううむ、なかなか進まなかった。 ま、まぁ・・・・自称だしね、うん。自称はどうしようもないしね、うん。たまにまともな事も教えているのだが、 どうも彼の指導はだんだんと横に逸れていくことが多いのだ。
とりあえず一旦休憩という事にして、私は翼くんと共に職員室に戻ったのだが・・・職員室のドアに手を掛けたところで、 ふと気になる視線を感じた。1、2、3とゆっくり数を数えてから、ばばっと振り返る。 振り返った先には挙動不審な4人組みが変な格好で止まっていた。普通に・・・怪しいから。


「何やってるのさ・・・4人とも」
「そんな事をしているんだったらさっきの俺の質問くらい答えられるようにしておけ」


翼くんが呆れるくらいなので、まぁ、ポーズはご想像にお任せしたいところだが、一応実況中継しておく。
1、成宮天十郎くん、何故かあっぱれ、といいたくなるポーズ。
2、不破千聖くん、何故かハリセンでツッコミ待ちのポーズ。
3、多智花八雲くん、何故か・・・何故かではないか、アイドルポーズ。
4、嶺アラタくん、何故かバラが舞っているんだけど・・・ビーナスポーズ。
・・・こいつら阿呆だ・・・。そりゃばれるって、せめてなんか隠れるとかしたらどうよ、うん。 おーい、と声を掛けると硬直した身体を元の通りに動かしてこちらへ寄ってくる。


「いやぁ、まさかオレ達の事を見破るたぁ、さすが副担だなぁ!」
「うんうん、やっぱり仙道センセーとやり合っただけはあるぴょん!」
「・・・ふぁあああ、俺は面倒だったんだが、仕方なくついてきた・・・本当だ」
「うふん、先生と真壁先生を2人きりにはさせてあげないよ。MZD、マジで残念でした!」
「え、何しにきたの・・・翼くんの言っている事が正しく思えて来たよ、珍しく」
「め、珍しくとはなんだ!俺はいつも正しいことを言っている!」


見破るもなにもそのまんまだったけどね、という余計な一言はそっと胸の中にしまっておく事にする。 あのねー生徒がほいほい職員室に遊びにきちゃいけないの!と言いながら、 廊下で騒がしいとまたあの生徒会御一行に怒られてしまうので(私、先生なのに・・・)とりあえず職員室に入る。 おっじゃましますぴょーん!と多智花くんの元気な声が誰もいない職員室に響き渡る・・・。


「おい、貴様らは静かに入ってくる事も出来ないのか!」
「あ、せんせいだ〜、やっほー、お邪魔してるよー」
「俺の事は無視か」


えっと・・・誰もいない職員室のはずなんだけど・・・しかもさっそく 怒られた、うん。まぁこの2人なら職員室にいても全然違和感ないしね、 ・・・ってそれはマズい!私の先生としての威厳とかそういうもろもろの事情があるのだから! 大体なんで夏休みなのにこの優等生2人組みがここにいるんだろうか。その疑問はそのまま口に出てしまった。


「えっと、あの?2人ともなんでここにいるのかな?うん、じっくり伺っちゃおうかな?」
「べ、別に特別な理由があって来たわけじゃない!だ、だがお前が阿呆どもをまとめられるかどうか・・・」
「はいはいはーい、慧は単にせんせいの事が心配だったんだよ。もちろん・・・俺もだけどね〜」
「心配?・・・一応大丈夫だよ?今日は翼くんもいるし、ね?」
「そーだぞ、お前たち!この真壁翼がいる限り、勝手にはさせん!」
「てやんでぃ、真壁!テメェがいるから不安なんだろうが!」
「おっ、天ちゃん言うね〜。確かに、俺も結構不安だけど?うっふん」
「ずるいずるいずるーい!僕も、すごぉーくすごぉーく心配してるのです!」
「まぁ、面倒くさいがお前はたまに暴走する時があるからな。1人くらい止める奴がいないと」
「一応、私、B6時代も副担やってたから腕には自信があったんだけど・・・そんなに不安?」


そこまで心配されているとは全然思ってもみなかった。
同僚の先生にもよく心配はされていたが、まぁ、南先生や北森先生に比べて副担の仕事は楽だし、そこまでの ものじゃないと思うんだけれど。そこまで私は頼りなく見えているんだろうか・・・それはそれでへこむ。


「あー、副担。多分お前が考えているのは少し違う気がするがな」

言いづらそうに翼くんが口を開くが、まぁ、大体合っているだろう。たまにここの人たちは何を言い出すか分からないしね。 うんうん、と1人で納得していると翼くんはますます不機嫌そうな顔になった。「絶対分かっていないな・・・はぁ」とか 今、聞こえたぞ!確かーに聞こえた!


「翼くん、私が分かってないってなにが!日々皆を引っ張っていく努力はしてるつもりだよ?!」
「ああ・・・確かに副担なら文字通り引っ張っていきそうだな。ずるずると」
「そーでしょ?基礎トレもきちんと清春くんとやってるし!」
「げげ、あの仙道センセーと?先生はマジに凄いね、尊敬もんだよ、ホント」
「本当?やっぱ嶺くんもそう思うよね!清春くんの基礎トレ半端ないんだから」
「へぇ〜あの仙道せんせいとねぇ〜。まさか・・・ちょっと真壁せんせい」
「なんだ、なにかあるのか、方丈弟」
「・・・せんせいって仙道せんせいと付き合ってたりするの?なーんか怪しいよねぇ」
「・・・・・」
「あれれ、真壁せんせいってば、黙っちゃった」
「こらー!方丈くん。翼くんは単純バ・・じゃなかった素直な子なんだからなんでもかんでも嘘つかないの!」
「やだなー、別に何も言ってないよ。それよりせんせいが俺たちの事を名前で呼んでくれてないことが問題だよね、慧?」
「な、なな那智!僕は別にそんなことは思っていないぞ!ただ呼ぶ時に面倒なんじゃないかとは思うが・・」
「そこ、なに言い出してやがんだ!俺たちだってまだ名前で呼ばれてないんだぞ!」
「そーだぴょん!僕たちの副担なのに、ほじょあにとほじょおとは黙ってろだぴょーん」
「天と多智花の言う通りだ。俺たちの先にお前らが呼ばれるなど、ありえん事だ」
「やっぱり近しい者から順番に、ってことだね。先に呼ばれるのはオ・レ・た・ち!もしくはオレ!」





言い合いをし出したA4とP2は静かだった職員室を一気に騒がしくした。
A4も、もともと頭の回転は速い子たちなので、口での言い合いもP2に負けてはいない。 それがさらに拍車をかけることとなってるんだけどね。あんまうるさくすると加賀美先生に見つかるから、やばいんだけどなぁ。
騒ぎがなかなか納まらなそうな事にため息をつきながらも、隣で黙ったままの翼くんに話しかける。 さっきから不気味なほど静かでそれが逆に恐ろしい。翼くんは決しておとなしいとは言えない部類の人間だからだ。 翼くんはかなりの長身なので、見上げるような形になって首が痛いがそれも今だけだ、と我慢をして話しかける。


「・・・ちょっと翼くん?大丈夫?方丈くんになんか言われた?」
「副担・・・!」
「な、涙目でこっち見ないでよ!こらこら、泣かない泣かない。いい子いい子」
「副担は、ずっと俺だけの副担でいてくれ・・・!」
「・・・は?ああ、ちょっと大丈夫?翼くん?おーい、戻ってこーい!」


肩に頭を埋めたままで顔を上げようとしない翼くんをどうにかして引き離そうとするが、体格のせいかピクリとも動かない。 さらさらと当たる髪の毛が首筋に当たってくすぐったくて笑ってしまいそうになるけど、翼くん本人はなんだか真剣 な感じなので、笑う事も出来そうにない。
中途半端な姿勢で抱きしめられるような格好でこの上なく恥ずかしいんですけど・・・! ぽんぽん、と背中を叩いてあげるが、一向に変化はない。
でも、なんかこの姿勢懐かしいなぁ。よく「ねむい・・・ねむい・・・」とごねる瑞希くんにしてあげたっけ。


「・・・・なに?瑞希に?お前という奴は・・・・もう知らん・・・!」
「へ?や、やっと顔あげたかと思ったらそれかい!・・・もうなんなのさー」


最後のぼそっと言った言葉にようやく口を聞いたかと思ったらすぐに元の体勢に戻ってしまった。
とりあえず拗ねている翼くんをいい子いい子ーと頭をなでてやる。学生時代からもうすでに5年も経ってしまっている男 の人にこんなことをするのは失礼じゃないかなーとも思うけど、それでも制止する声は私の耳には届かないので、 そのままゆっくりと撫でてやる。


「翼くん、落ち着いた?オーケー?」
「ふ・・・相変わらず下手くそな発音だな、副担。・・・OK、Thanks」


しぶしぶ、といった様子で顔をあげた翼くんと至近距離で見つめ合う形になる。
メガネ越しの赤い瞳はいつ見ても凄く綺麗だ。口から紡がれる流暢な英語も少し懐かしく思える。そーいや、最近は 変なタイミングで英語入れなくなったもんなぁ。5年の月日は確かに人を変えるみたいだ。そう思いながら じっと、そのまま見つめ合った格好でいると、ふい、と照れた様に翼くんが目を逸らす。・・・ん?なんで逸らす?と 不思議に思ったが、その直後に思いっきり、じじじーっと目を合わせられた。すごい見られている・・・・さっきから一体 なんなんだ。首をかしげていると、翼くんはおもむろに喋りだした。


「ふ、副担、俺はお前に言いたい事が・・・、」
「うん?なにかな?」
「俺はずっと・・・ずっとお前の事を、」


そのまま見つめ合って数秒。
唐突にすっ、と私たちに上から影が差した。驚いて上を見上げると元気の良い掛け声と共に、 かなりどアップな多智花くんが上から降って来た。
そうそう、翼くんと話し込んでいてすっかり周りの状況を忘れていた。


「やっくん流、チョォォオオオップ!!」
「ナイスだよ、やっくん!いいとこいったね!ちょっとヤッくんが顔覗かせてたけど」
「ふ、ピーちゃんの肩車もなかなかのものでしたなぁ」
「いやいや、それほどでも」


どうやら嶺くんの肩からジャンプしたらしい。それにしても見事な身のこなしだ。 やっぱアイドルは身体とか鍛えなくちゃいけないもんね。
私が妙なところで関心していると、肩をがしっと後ろから掴まれた。振り返るとなんとなーく黒い笑顔の方丈(弟くんの方ね)くん がにっこりとは言い難い顔で、笑っていた。・・・分類的には笑ってるけど、どことなく怖い。


「駄目だよ、せんせい〜。真壁せんせいはオオカミだからね。怖いよー、がぶりといっちゃうよ」
「先生、貴女はそんな奴らに構っている暇なんてないはずだろう!ほら、書類が溜まっているぞ!」
「あーあーあー、そうだった、書類激溜まりでした!ごめん、翼くん。さっきの話は後で聞くよ」
「・・・・またこうなるのか・・・」


もう一度泣き出しそうな顔をした後、翼くんはふっきれたようにいつもの表情に戻り書類の一つを手に取り文面を 確認しだした。
その隣ではダブル方丈くんが書類の仕分けをしている。生徒にこんなことさせてていいのか・・・とも思ったが、 これは生徒会の書類でもあるので、と言われてしまったのでお言葉に甘えて少し手伝ってもらっている。 2人が晴れやかな表情をしていたのが気になるが、そのまま作業を続けることとして、また書類に目を落とした。


・・・なにもやることがないと騒ぐばかりのA4にキレた方丈くん(今度は兄の方ね)が雷を落とすのはその10分後の 事であった。




とある夏のとある日のこと
「知っているか、副担の好みは・・・・」
「「「「「「・・・好みは・・・?!」」」」」」
「メガネじゃなく、長髪ではなく、髭がなく、大人の男だ!」
「えええー!それって、やっくんのことじゃないですかぴょーん?」
「オレのは長髪、っていうのかな。ギリギリセーフってとこ?GS?」
「おめぇはメガネって所でまず引っかかってんだよ!」
「ふむ、俺も当てはまっているな・・・やはりか」
「慧、俺たち2人ともせんせいの好みにハマってるねぇ〜」
「そ、そうか・・・!ぴったりハマっているな!」
「いや、お前ら全員大人の男、というところで引っかかっているぞ!ハーッハッハッハ!」
「それを言うなら、お前だってメガネで引っかかってんだろーが!真壁!」
「ハーッハッハッハ・・げほっげほごほ、そ、そうだったな!」



翼くんのお誕生日の記念のお話です。誕生日なのにまったく関係ない話な上、いつものパターンとは・・・可哀相に。

(090814)