憂鬱、なんて感じる事は今までであまりなかった。つまらない日常がある事は時々あったが、 それでも自分の役目を果たしていく毎日にそれなりに満足をしていたから。 けれど今ならしっかりはっきりその言葉の気持ちが分かる気がする・・・憂鬱だ。


気分がいまいち乗らなくて、イライラする。何にイライラするか分からないせいで余計にイライラする。 嫌な循環だ、と考えてから今日は放課後A4の補習の補佐があった事を思い出して、もやもやしてたのがあっさりすとんと 落ちた。単純すぎる。自分はもともと単純な人間の部類にには入らないと思っていたのだけれど。
・・・補習の補佐は嫌ではない。補佐に付けば必ずあの人が来る。どれだけ踏まれ、叩き付けられても平気で ずっと前を向いている人間。後ろは振り返らない強い彼女。その眼差しも、平気そうに見えるだけであって、 本当の所はどうかと言われると確信をもっては言えないのだが。

自分が前に立っていて彼女は後ろにいるかと振り返ったらもう戻れない気がするのだ。 振り返ったら最後、囚われてはいけないと自分の中の何かが警告する。
そんな人間は今まで自分の周りにはいなかった。そんな彼女に自分は結構興味を抱いているのかもしれない。 近づいてしまったらもう戻れないと分かっていても。自分がそんな事を思う様になるとは思わなかった。
あの人と関わると知らなかった自分をどんどん発見していくようだ。この事は生まれた時から一緒の片割れである彼にも言っていない。 もしかしたら、もう知っているかもしれない。自分のこの気持ちに。自分たちはよく似ているから。
だけど彼女に手を伸ばす事は出来ない。自分は生徒であって、教師であるあの人の視界に入る事は決してないのだから。


ああ、そして今日も朝が来た。廊下の向こうからぱたぱたと軽い足音を立てて歩いてくるのは、 あの人――クラスZ副担任のだ。書類を確認しながら廊下を歩く彼女を見ているとはた、とそこで初めて彼女が顔を上げる。 ほら、やっぱり、と思う。彼女はなんでもないような顔をして声を掛ける。そう、本当に何も思ってない。
だから今日もまた自分にある秘めたままの気持ちに見て見ぬ振りをして、知らないふりを決め込むのだ。



「あれ、方丈くん。おはよ、早いね」
「…おはよう」



苦しく、重いものを飲み込むようにして答えた朝の挨拶を彼女はおかしいと思ったのだろうか。 軽く首を傾げる。さらりと彼女の髪が揺れるのを目で見ながら、どうして、と思う。
自分が閉ざしたものなのに、どうしてこんなにも心揺さぶられるのだろうか、と。





幕は確かに下ろしたはずだった




慧でも那智でも、どっちでもいいかなーと思います。あえて名前は出さない。
たまにシリアスが書きたくなります。

(090825)