「・・・あれ?エンジェルちゃん?」 この所、ふとした時に彼の姿を見つける事が多くなった。 職員室はもちろんのこと、グラウンド、廊下、裏庭。特別教師と言うのだから、校舎内で彼を見かけるのは当たり前の事だ。 ・・・けれど彼と呼ぶのにはかわいらしすぎる彼はいつも1点を見つめていて、その表情は可愛いものからは少し離れていた。 その視線は遠くを向いていて、なにかを堪えるような、そんな表情だった。 話し掛ければ瞬時に消してしまうその表情を見る事が出来るのは、彼が自分を見留めるまでのほんの少しの時間である。そのせつなげな 表情にははぁ、と勘を働かせてみたりもしたのだけれど。 普段は女の子かと見間違える・・・というか、女の子そのものなのだが、自分が彼の想いに気が付いたのであれば、 担当教師と生徒のよしみで話しを聞いてやってもいいんじゃないか、と言う気もした。 ・・・彼の視線の先にいつもいる彼女―クラスZ副担任のを見つけるまでは。 「(あーあこれはちょちょっとマズいかもねぇ)」 何を隠そう彼女に惹かれていたのは自分も同じである。悲しい事に、その想いはびっくりするくらいに届かないけれど。 それでも偶然目に入った彼女の存在にわくわくするというかドキドキすると言うか。今までドキドキ させる側の人間としては、なかなかにない事だった。彼女が担当しない授業では表立っては表さないけれど、 内心はがっかりしたり、先生が出張で学校にいないと何故か気分が沈んだり・・・と言う事が続いて、どうも自分は彼女が好きであるらしい ということが今更ながらだんだんと分かって来た所だ。可愛さだけなら、ティンカーちゃんやら、エンジェルちゃんやらその他の お花ちゃんたちの方が上だと思うのだが。どうあっても彼女の魅力が惹きつけて止まないのだった。 先生に対して密かな恋心を抱いている自分であったが、そんな彼女を見つめているのは自分の担当教師である 風門寺悟郎だった。 確か先生の教え子だったとかで、その格好や才能から美術系かと思いきや、まさかのお固い公民担当である。 格好は恐ろしく可愛いし、どこにも男の部分などないように見えるのに、先生を見る時は優しく包みこむような男の目をしていた。 そんな風門寺がライバルだとしたのなら・・・。 「こんにちは、エンジェルちゃん」 「あっらーミネミネ?こんなとこまで来るなんて珍しいね」 「ウフ、もちろんエンジェルちゃんに会・い・に」 「えっと・・・ミネミネ?分かってる?ゴロちゃん残念な事に男だから〜」 「じゃあ一体何を見てたの?」 「・・・!なんだ、タチが悪いなぁ。見てたんなら言ってくれれば良かったのに」 「先生でしょ?」 「やだなぁ、ミネミネ。なんか勘違いしてない?センセを見てたのは、デッサンの資料にするためだよ」 「ふぅん、そうやって上手く他の先生にも言ってるってワケ」 「ミネミネ…あのねぇ、」 「そんなに見つめなくてもエンジェルちゃんならささっと書けるはずだし?KMS、これマジ正解?」 「はぁ・・・気付かれないと思ってたのに。なーんで分かっちゃったかなぁ」 ・・・ため息すら可愛いらしい。これは聖帝の男子生徒が骨抜きになるのも無理はない。 多くは彼の性別を知って、がっかりしているけれど。 それに比べて先生は別の意味で骨抜きになることが多い。まぁ、その・・・肉体的にだ。 そう、彼女は小柄ながら驚くほどの戦闘能力を持っている。彼女に「暗いから送っていくよ」なんて台詞は必要ないのである。 それでもなんとか口説き落として結局は無理やり送っていくのだけれど、そんな努力を相手もしている事が 良く分かった。 「まぁエンジェルちゃんもオレも叶わない恋をしているって所かな?」 「・・・あのね、叶わないのはミネミネだけだよ?ボクは違うの」 「へぇ、すごい自信だね。生徒の時から一緒だったのに、ちっとも進歩ない感じしてるけどね」 「・・・ミネミネ、人の恋路に首つっこんでも全然良い事なんてないんだよ」 「怖い怖い・・・それが無関係ってワケじゃないんだよね、フフフ」 仮面の下を覗きこむ 「今日さ、ミネミネにバレちゃったー。ボクの気持ち」 「悟郎・・・ワザとそうやって煽ったんじゃないの・・・?」 「人聞きが悪い事言わないでよ、瑞希!ゴロちゃんがずーっと待ってたのしってるくせに!」 「悟郎は結局なんだかんだいって面倒見がいいから・・・心配、ぐー・・・」 「ちょ、瑞希?!不安になるような事言い残して寝ないでよ!」 (091017) |