なんだかあっさりしていると逆に不安になるものだ。
その不安の元凶は彼ら―A4と呼ばれる最凶集団にあった。 厳密にいえば、そのリーダー格の成宮天十郎くんを今は相手しているわけだけど。


「ほ、ほほほんとーに受けてくれるの?!それとも嘘?!」
「だぁーから大人しく受けるって言ってっだろ?オメェも歌う栗っぽいな!」
「いやもちろん、嬉しいよ!?嬉しいけどいまいち信じられないくらいあっさりで・・・あ、ちなみに歌う栗っぽいじゃないから。 疑り深いだから」
「あー?そうだったか?ま、いいけどよ。オメェ、素直に受け止めた方が良いと思うぞ」
「う、うん。でも本当に受けるとか言って逃亡しない?落とし穴に落とすとか水浸しにするだとか。 バイクで突撃だとか、バイトだとか忘れたとか寝てるとか!本当にないの?!」
「オメェ・・・そこまで裏を読むことないんじゃねぇのか?」
「・・・実際問題、起こった話しですけどね…はは、」


オレ様は誓ってそんな事はしねぇ!と胸を張って高らかに宣言するのは成宮くんである。
いやぁ、素直なオレ様がこれほどまでに楽に動くものだとは…感激して涙が出そうだ。 今まで散々素直じゃない俺様たち(誰とは言わないが、この際誰もが当て嵌まる…)を相手にしてきた 為、この素直なA4は逆に不安になるくらいだ。
何て言ったってまず約束はどんな形であれとりあえず守ってくれる。それが約束を破られ続けていた私には死ぬほど嬉しい。 そうだよ、約束とは守る為にするものなんだから!それは決して欺く為にするものではない!


「そこまで言う事ないだろう!」
「だって本当の事じゃん・・・これは事実だよ?」
「まぁまぁ、その時はゴロちゃん達も若かったって事だよ」
「そうそう!今では立派になったよな!」
「自分で言うんじゃありません!」
「クックック・・・まぁ俺たちもようやく1人前と言う訳だ」
「1人前・・・屁理屈だけは相変わらず1人前だけどね」
「・・・ふふ・・・でも先生は変わらない…僕らが大人になっても、ずっと」
「キシシッ、まぁなぁ、お前の性格が変わったらビビるどころじゃねェぞ!」
「失礼な!みんなほどではないです!」


ばしっと言い放つと、B6たちは口ぐちに自分がいかに成長したか、だとか、自分のここが凄いだとかを語った。 まぁ、私はそれを大半スルーである。・・・はいはい全スルー!
そこでおずおずと成宮くんが口を開いた。 いつもきっぱりはっきりな彼にしては珍しい。不思議に思って次の言葉を待っていると、 歯切れの悪いながらもぼそぼそと言葉が彼から発せられた。


「なぁ・・・先生」
「・・・い、今私のこと先生って呼んだ?!成宮くん!」
「・・・おう。あのな、先生。この数ヶ月間で思ったんだ。先生!おれ様のヨ、・・いっだぁっ!」
「あーっ!ごっめーん!ゴロちゃんの可愛いおててが滑っちゃった、アハ☆」
「ナナァ!あれ行くぞッ!」
「もちろん、了解だ!」
「「必殺・ハゲ縛りッ、バージョン2!!」」」
「へ?……ってぎゃああ!!」
「ふ、成宮のボーズ。身分不相応な事は止めるんだな。さて、国外追放の手続きは・・・、」
「いけ!必殺ねこにゃんパーンチ!今日もタマは可愛いぜ!」
「これ…劇薬☆忘れ忘れール。15歳以上は1回2錠」
「うわっ、お、オメェらあぶねぇモンばっか出してくんなッ!」


「先生」と呼ばれた感激や嬉しさもじっくり味わう暇もないくらいに唐突に成宮くんはB6に あれよあれよと言う間に、縛りあげられてしまっていた。
またか、というため息を零さずにはいられない。なにしろ、問題児なのは逆にこの特別講師、とは名ばかりの・・・ まぁ、たまに役に立つ事もあるけれど、大体が迷惑なこのB6集団である。今は、一応講師としてA4の補習に 当たってくれてはいるのだけれど。
素直に補習を受ける、と言ってくれる生徒を縛りあげて、パンチを食らわせて怪しげな薬を飲まし、あげくの果てには 国外追放、なんて一見聞いただけでは誤解を招きそうだ。 まぁ、人数的にも6対4なので、どうしても方丈兄弟の担当の清春くんと瑞希くんは手が空いてしまって暇になるらしい。 その為に、悪戯もたまに度を越しているものも含まれている。 担当生徒が優秀だとこういう事にもつながる。・・・恐ろしい事である。


「てやんでぃ!生徒吊り上げるなんて先生として良いのかよッ」
「まぁ喚くな、成宮のボーズ。話せば分かる事もある。・・・こっちへ来い」


低めのトーンで翼くんが縛られたままの成宮くんを教室の隅まで連れて行く。
ああ、悪い事にならなきゃいいけど。とか思いつつ、こうなった時のB6の結束は深いもので、私は止めるすべを知らない。 彼らも大人になっている(はず)なので、そんなには成宮くんにとって悪影響にならないと思われる・・・が。 まぁ、結果的にどうなるかは私にも分からない。・・・分かるはずがない。
なんだかすごく悟郎くんが良い笑顔なんだけど、それが逆に不安に思えるのは何故なのか。 そしてまだ縄を持ったままの瞬くんが恐ろしいくらいの笑顔(・・・私はこんな笑顔の瞬くんを見た事はない)をしている のもかなり不安を煽る。 いつもは格好以外は常識人な彼と金銭面以外ではまともな彼がこの様子ではちょっと、成宮くん・・・どんまいかも。
はらはらとして見守っていると、B6に囲まれていた成宮くんが戻って来た。・・・補習受けないとか言い出したら、 私泣いちゃいますけど。


「・・・・オレ様・・・帰るわ。・・おーい、千、帰るぞー」
「なんだ、天、もう補習終わったのか。ん・・・先生、どうしたんだそんな顔をして」
「え、ちょ、もうこの際不破くんがどっから現れた?!とかはなしにして。成宮くん、補習は?!」
「なんかもうアレだ。・・・とにかく帰る」
「えええ?!さっきまでの勢いはどうしたの?!」
「悪いな先生。・・・補習はまた今度にする。じゃ、また明日な・・・」


恐ろしく覇気がない。あの成宮くんをここまで貶めたのは・・・言わずとも原因は分かっている。後ろのB6集団である。 おいおいおい、先生がやる気なくさせてどーすんの!そしてもう私は半分涙目である。
なにを言ったかは知らないけれど、B6全員が私と顔を合わせない事と、成宮くんの元気のなさで、私はかなり 心配になる。そしてそれは不破くんも一緒の様だ。「天が・・・・こんな事を言うとは。明日は雨か槍か・・・外で料理はしない 方がいいだろうな」・・・おっと見当違いの方に思考がいっている。
そうして、とぼとぼと教室を出ていく成宮くんとそれに付き添う不破くんを見送ったあと、振り返った私がB6に 雷を落とした事は言うまでもないだろう。







やる気を引き出せ!







(091114)