アホなのか。こいつらは。 いやいや、アホだからこそのA4なんだろうけれど、それでもこのアホどうするべきか。 そう、言葉にしてしまいそうになるのを押しとどめて微妙な笑顔で受け止める事にする。 願わくば、彼らが私のこの笑顔の裏に隠された本音を拾ってくれれば良いのだけれど。 「だーかーら、いい加減にしろって!先生!」 「い、いやー、だから、あの・・・、」 「遠慮することはない、せっかくの機会だ」 「そーだよ、オレもその方がMUS!マジ嬉し過ぎる、し?」 「だよねだよねぇ!ここは強制的なノリで行くといいですなぁー」 そんな事が出来る奴らだったらここまで困ってはいない。 強制!と私が迫られているのは、いつもの事でもあるし、いつも断っているのも知っているはずなのだ。 ・・・だというのにこの変わらない強制のノリはなんなんだろう。学習しろよ!というかしてくれよ! 叫びたい、思いっきり叫びたいんだが、それが出来ない。 アホサイユという思いっきりアホまるだしな所のソファーにばふっ、と押し込められながら、私は4人に囲まれていた。 右、成宮くん、左、不破くん、上、嶺くん、後ろからは多智花くんという配置である。逃げ場がない。 ・・・つーか、これ見られたらA4のファンに目で射殺されると思うんですけど、ええ。 そして、私はもう二度と同じ間違いを犯さないと決めたのだ。そう、あの5年前のあの時から。 そして今、この時も、それは変わらない。 「てやんでぃ、往生際が悪いってんだよっ!」 「だーかーらー、私は学習したんですっ!もうしないって!」 「でも、それってずるくないですかーぁ?だってB6のセンセ―は特別って事?」 「そうじゃなくて、あれは成り行きで強引にやられたの!」 「そう言うから俺たちは強引に今言ってるんだ。・・・面倒だ、早くしろ」 「へぇええ、B6の先生方には良くてオレ達はダメ、とそういう事言うんだ、ふぅーん」 「そういう事じゃなくて、それには訳が・・・深い訳があるんだよ、うん」 「どういう訳でそうなのか説明してほしいものですなぁ、ピーちゃん」 「ほんとだよ、やっくん」 ここまで断る理由。それは5年前にあった出来事が関係している。 そう、5年前にB6の副担にめでたく就任した私は、親しくなった彼らに揃って乞われたのだ。 「ぜひ、名前を読んでほしい」と。そこに行き着くまでにはかなりの波乱万丈があったのだけど、 私はそう言われるまで、B6の皆を名前では呼んでなかったのだ。 最初のうちは向こうが私に興味を持っていなかった事もあって、 どうとでもなったのだけれど、もう季節が巡り聖帝祭が終わる頃になると向こうが上記の様な事を言ってきたのだ。 そのタイミングはあまりにも突然で、別に断る理由もなかったので、先生としてはどうなんだろうか、あーでも 南先生はもう呼んでるしなぁ、と思いながらも、 呼び始めた、あの魔の日・・・!出来るならあの日に帰って、過去の自分にもう一度よく考えろ、と言いたい。 翌日から、どういう事だと女子生徒には詰め寄られるは、男子生徒にも一体何があったんだ 、だとか、T6の先生方まで、あなたまで毒牙にかかるなんて・・・!と嘆きを 聞かされたりもうてんやわんやの騒ぎになったのだ。それはそう、B6という学園内では有名人すぎる 彼らのせい。その騒ぎは1ヶ月はゆうに続いて、へとへとになったのだ。 それが名前を呼べ、と迫られる私を留まらせる理由だ。 B6もそうだが、A4も負けず劣らずの人気っぷり。このまま名前を読んでしまえばあれだ、地獄行きに決まっている。 ああ、悲しきかな私の運命。そうした苦労の末の5年後、次はこれだ。 「という訳だから、無理」 「・・・そうか、そんな訳が・・・」 「センセ―も苦労したナリねー」 「オメェもいろいろあったんだな」 「OKS、お疲れ様、とか言うべき?」 「うん、そうなの、そんな訳だから」 「「「「・・・・でも、名前呼べ!!!!!」」」」 「ひぃっ!な、なんなの・・・って、ちょ!今までのは何だったの!納得してたじゃん」 「そう言われてはいそうですか、なんて引き下がるオレ様たちじゃねェ!」 「引き下がれ!頼むから、引き下がってよ・・・!」 なに言ってんの、なに言っちゃってんの。 説明し終えた時は皆、納得したような表情であったのに、いきなりの方向転換である。 叫ぶ声が4人とも綺麗にハモった。 引き下がってほしい、と思う切実な願いは吹っ飛ばされた。 変わらない笑顔のままの皆が怖い。別に名前を呼ばないという訳じゃない、苗字でちゃんと呼んでるじゃん、それでいいじゃん。 となおも言うと、上から嶺くんがのしかかって来た。ぐへ、圧迫感と共に、端正な顔が目の前に。 これじゃ騒がれるはずである。しかし私はあの恐怖の1ヶ月がある為にときめかない、残念ながら。 「オレのビーナスちゃん・・・オレの名前を呼んでくれませんか・・・!」 「・・・・あの、嶺くん?大丈夫?・・・主に頭が先生は心配です」 「くぅぅっ、手厳しい・・!だけどそんなところもマジマジドマジに素敵ッ」 「ちょーっと?ピーちゃん?こっちに来て!」 「どうしたの、やっくん」 さっきまで迫っていた3人はアホサイユの隅に固まっていて、そこから多智花くんが手招きをして嶺くんを呼んだ。 ぎしっ、と音がしてソファーから退く嶺くん。・・・助かったぁ。しかしあの4人がこそこそと内緒話なんて・・・・ どうせ私にとっては不吉でとてもめんどくさい事を話しているに違いない。 ・ ・ ・ ・ 「おい嶺、話が違うぞ。なに先生を誘惑しているんだ。許さん」 「そうだぞ!アラタ!抜け駆けは禁止だってテメェが言ったんじゃねェか!」 「ピーちゃぁーん?約束破るような男は馬に蹴られて死んじまえっていうですよー?」 「ごめんごめん、ついね。押して押して押して押しまくればどうにかなるんじゃないかなーって思ってね」 「そりゃぁーそうだけどよー・・・でもそれで上手く行くのかよ」 「『俺たちはそうやって名前を呼んでもらったんだ、ハーッハッハッハ!』と真壁の奴が自慢していた、間違いない」 「悔しーい!僕も斑目センセ―に自慢されたですぞぉ。大人げないにもほどがありますなぁ〜」 「よし、作戦会議だ!4人集まれば饅頭がどうのとか?って聞くしな!」 隅でなにやら良からぬ事を企んでいそうな4人をじと目で見つめてみるが、こういうときは何をやってもどうしようもない。 事を、それはそれでしっかりと体験済みだったので、紅茶をずずっと飲む。落ちつくなぁ。 名前にこだわる事を忘れて勉学に励んでくれれば良かったのに。それが北森先生にとっても一番いいと思うんだけどなぁ。 ちなみに北森先生はすでに全員名前呼びである。ということはあの恐怖を乗り越えたという事である。 私には到底真似出来そうもない。この調子なら、あの5年前と同じ様に・・・そう、あの時の南先生の様に、この子たちを 無事卒業まで導ける事だろう。 しかしながら今も、これからも私は私のまま、このままであるだろうな、とかなんとか考えながら、 私はテーブルの上に置かれた不破くんお手製クッキーをかじった。 ◇ ◇ ◇ 「兄さーん、今日も行くの?」 「当たり前だ!あいつらの根性をたたきなおしに行くんだ!」 「(素直じゃないなぁ・・・)兄さんがそう言うなら行くよ・・・あれ?今日は扉が空いてる?」 「何をしている、那智!早く突入、」 「ちょ、不破くん・・・?!ちょい待ち!ちょっと待ち!」 「待たない」 「・・?!先生、か?」 「うん、この声はせんせいだねー、なにかやってるみたいだけど・・・」 少しだけ開かれた扉の中から先生と不破の声が聞こえてきた。 その声を認めると慧は眉間にしわを寄せた。気に入らないらしい。 「不破くん、どうしても駄目だってば、無理だってば!」 「強引なのがいいんだろう?・・・面倒だから、早く済ましたい」 「ちょ、面倒なら止めればいいでしょーが!ここまでしなくても!」 「面倒だが、それを乗り越えてでも、俺はお前に、」 なんだか怪しげな会話だ。双子は顔を見つめ合わせてから、薄く開いた扉からそっと頭を入れて中の状況を覗いた。 そしてその状況を確認すると、頭が湯気が出そうになる状態になった。だってあのA4の1人、不破千聖にソファーに 押し倒されてるのが先生で、この状況はまさに・・・!どういう事だ・・・?!いつの間にそんな事に?! 「ななななあっ?!どういう状況だこれは!先生が、不破が・・・っ!」 「慧、落ちついてよ。焦ってちゃだめだよ。あはは」 「な、那智は落ちついているな。さすがは僕の弟だ。すまない、僕とした事が取り乱した」 「やだなぁ、落ちついてなんかいないよー、今にも殴りたくなっちゃうくらいだよ、あははー」 「な、那智?・・・・大丈夫か?」 「慧、ここは突入だ!せんせいを助けなくちゃ」 「そ、そうだな、・・・・先生!」 そうして突入してきた双子の形相を見た、A4の副担任、は迫ってくる不破とそれを引きはがそうとする双子の間で、そっと溜息をついたのだった。 どうせこいつらも事情を知ればあーだこーだ言うに違いない、と。名前を読んでいないのはなにもA4だけじゃない。 頭がなまじ良いばっかりにこの子たちは、A4よりも厄介だ。そう考えるとひきつる顔を押さえられなかった。 分かって頂きたいのです 「よーし、じゃあまず俺様が行ってやるぜ!」 「・・・待て、天だと幸先が不安だ。・・・俺が行こう」 「なんだと?!どーいう「そうだね〜無意識フェロモン放出してるし、安心かも。その次はモチロン俺!」 「じゃ、じゃあ次「その次は僕が行きますぞーっ、現役アイドルの技を見せてやるナリ〜」 「なるほど、頼もしいな。じゃあ、行ってくる」 「よーし頑張れ!チョリソーッス!」 「ケチャーップ!」 「「お前は友だ!」」 「だぁああああっ!!俺様を無視すんじゃねぇぇええええ!!!」 (100202) |