「ぎゃーっ!ちょ、清春く、じゃなかった仙道先生っ?!なにやってんです!」
「はァー?んだよ、なんか文句あッかァ?」
「うわぁあああ、副担!早く助けやがれってんだっ!」



補習を受ける為教室でA4に待っててね、と言い自分は職員室で彼らの為に作った 補習のプリントを取りに行った。
そして今、教室の扉を開けた所、なのだが・・・・・・・・・・・・うん。

ご覧の通り、清春くんが、もとい仙道先生がA4を椅子に縛り付けている。
いやいやいや、まずいよ?!私も結構B6担当時代にいろいろやったけど、こうPTAに訴えられる ようなのはさすがに・・・!おいおい!



「こらこらこら!仙道先生、勘弁してやって。この子たちだって椅子に座るくらい出来るから」
「あァ?そんな訳あるかヨ。こいつらすぐに逃げようとすんだ、出来る訳ねェだろが」
「動物園の猿だってそれくらい出来るよ!A4だからって座るくらい出来るはず、馬鹿にしないでよね!」
「ちょちょっと、ビーナスちゃん?今、何気に酷い事言ったよ?仙道先生より酷いからね」
「確かに、そこまで言う事ないと思うナリー。しかも出来るはず、って曖昧ですなぁ」
「馬鹿にされている感がひしひしとこちらに伝わってくる・・・・」
「やいやいやい!オレ様たちを馬鹿にするとはどうゆう了見でぃ!」
「あああああ、ごめんごめん。悪気はないんだよほんと、ごめんて!」
「お前、確実にこいつらの心えぐったなァ・・・・そういうとこ、ほんと変わらねェ・・・」



4人が椅子に縛られたまま、教室の窓から青空を見上げる。
それに同調するように、うんうんと頷いて清春くんはため息を吐いた。
変わらないって褒め言葉だよね、・・・・・・・・・うん、多分。 と、自分まで青空を眺めてぼーっとしてしまいそうになったのを、慌てて戻す。
いかんいかん、と頭を振って調子を取り戻す。そしてついでに椅子に縛り付けられていたA4を助ける。 縛られたせいかぐったりしてんなぁ・・・・。大丈夫だろうか。



「オレたち、どっちかってーと心の傷の方が重症なんでぃ!」
「DMDM、・・・・・・・・・俺たち」
「ほんとどんまいですなぁ。・・・・・ふぅ、なんだか疲れたナリ」
「今日はスタミナが付く料理にするとするか・・・」
「それくらいの心の傷はそのうち塞がる!ほらっ、補習頑張るぞー!おー!北森先生にも任されたしビシバシいくよ」



ほらほら、と背中を軽く叩いて、机の上にだらりと伏せた身体を起こさせる。
プリントをばばばっと配って、今日は清春くんもいることだし、数学でも・・・・・って、


「おいっ!!ちょっと、仙道先生、あなたは違うでしょ!?」
「んァ・・・?ンだよ、騒々しいなァ、キシシシッ、センセー?」
「先生は清春くんもでしょうが!なに一緒になってそっちに座ってるの、ほら、こっち!」



隣にいるはずの清春くんを見て、数学を強化しようかと思い同意を得ようとしたら、そこはもぬけの殻で。
代わりにA4の並んだ机の後ろにだらけた清春くんの姿が。 思わず脱力。
教壇から降りて、清春くんを起こしにかかる。面倒くさそうな表情の清春くんを呼ぶ。
すると、少し目を見開いてから大人しく引っ張られるがままになる。 案外素直な清春くんを不審だとは思ったけれど、そのまま引っ張って教壇まで連れて、ようやく補習は再開された。

・・・・・・・・・・・まぁ、結果は散々なものでしたが。
それを成長させるのが私の仕事であり、頑張りどころでもあるので、まぁ、それはいい。



「はい、今日はここまでー。これ、家でやってきてね」
「「「「ええええ、だって、」」」」
「こら!もっともらしい理由を並べて逃げようとしない!今日は皆時間があるってことは確認済みです」
「うげー・・・面倒くさい・・・。オレ、これから海に行かなくちゃなんねぇんだよ」
「真壁先生に確認取りました、今日は出掛ける用事はないでしょ」
「オレ、お花ちゃんたちとの約束があるから、これは無理かなー、SN」
「それも風門寺先生に確認取りました。今日はお茶会はなし、と」
「僕も収録があるから。こんなに出来ないナリー!」
「それも七瀬先生に確認取りました。今日はレッスンも収録もないでしょ」
「お、俺は・・・料理しなくてはいけないからな・・・・これをやる暇はない」
「草薙先生に確認取りました。今日は食材を買い忘れたから、料理は出来ないでしょ」



ええええ、とまだ文句を言おうとするA4に、少しでもいいから取り組むように、と 念を押して、清春くんと共にA4たちが帰宅するのを見届ける。



「ばいばーい、また明日ナリー」
「はいはい、ばいばーい。多智花くん、前見て歩きなさいよーっ」
「分かってるですよー!センセーこそ油断は禁物ですぞ!」
「なにに油断するっての・・・・、大丈夫だってば」
「・・・では、また明日だな」
「はい、また明日。不破くん。面倒くさがらずに家まで帰るんだよ!」
「・・・・・・・大丈夫だ、任せておけ」
「その空白気になるんだけど」
「じゃあね、ビーナスちゃん。また明日その笑顔が見れる事を祈ってるよ」
「あ、はは。嶺くんも元気に学校来てね」
「うーん、冷たい感じもまたマジマジドマジにス・テ・キだね」
「ありがとー。あはは、嶺くん早く帰りなよ」
「やべぇっ!忘れものした!・・・・あったあった、んじゃな!」
「もう、成宮くん、しっかりしてよ?神輿から落ちない様に気を付けて帰ってね」
「おうよ、またオメェも神輿に乗せてやっからよ、楽しみにしとけよ!」
「はは・・・・ありがとー」









そう、今日の補習も上手く終わったはずだ、(成果は別として、ええ。まぁ次がある)

問題は職員室に帰った後からの話だ。 職員室に帰った清春くんはむっつりと黙ったままで、テキストをぺらぺらと捲るばかりで、 職員室は無言で静かな空間だった。
なんか考えているのだろうか、と思いながら今日の補習を踏まえて明日の補習プリントと北森先生への A4の数学の理解度を記したメモを書く。



ボールペンの音と紙の音しかしない空間で、その全てを終えた時、すでに日は傾いて、 西日が眩しいくらい差しこんでいた。はっ、また集中しすぎて、時間を忘れていた!
慌ててボールペンを置いて顔を上げると、そこには同じようにテキストをぺらぺら捲りながら 頬杖をついて椅子の上であぐらをかく清春くんの姿があった。
時計を見ればすでにもう1時間半経っている・・・・しかし変わらない清春くんの姿。 1時間半もぺらぺらしてたんかい!とツッコミしたくなるのを押さえる。
それにしたって清春くんが同じ場所に座ったままってかなり珍しい事だと思うんだけど。
まじまじと見つめてみれば視線に気が付いたかの様に、テキストから目を上げ私のそれとかち合わせる。 その瞳に映るのはいつのも悪戯っぽい光ではなくって、ちょっと不機嫌そうな光。
ずずっと私と清春くんの距離が縮まる。きゅっと清春くんの目がさらにすがめられる。


「どうしたの?・・・集中して清春くんの事、忘れてたの怒ってる?」
「忘れただとォッ・・・!ちょ、オマエ、真剣に忘れてたのかよッ!」
「ああ、えーっと。・・・・少しは覚えてたようん、そう。そうよ、忘れてはいない!」
「今思い出してとって付けたように言うんじゃねェ!・・・クソッ!」
「そ、そんなにイラつかなくてもいいでしょ?本当にもう、」

「イラついてンのが分かるのに、・・・・ンで、分かんねェんだよ・・・!」



え?と聞き返したけれど、清春くんはすでに椅子から乱暴に降りてそっぽを向いてしまっていた。
その表情は苦々しげで、苦しそうだった。 これは彼がまだ生徒であった時にかなり貴重ではあったが見せた事のあった顔だ。 どうしようもない想いを抱えて、どうしようもない事をどうにも出来ないと思ってしまう、そんな感じの。
そう・・・・丁度バスケに悩んでいた時の表情とよく似ている。 そういう時はそっと見守って、彼から口を開くのをじっと待つのがいつものパターンだったのだけれど。



「・・・・・・・・・、だァ!もう!そんな目でオレッ様を見んな!お前のその目、弱くなンだよッ!」
「は?・・・・・・なに?」
「もやもやしてイライラしてンのはコッチなのに、なんか悪ィ様な気がしてくンダローが!」
「ちょ、話に着いてけない、落ちついてってば!清春くん」
「・・・・・・・・・・あァァァ、仕方ねェなッ!」



頭を抱えた後、がつん、と激しく音を立てながら椅子を引き、私の横にどかっと座る。
いいか!と鋭い視線が私を貫く。う、うん、と思わず私まで真剣に頷いてしまう始末だ。



「言っとくけどなァ、これは警告だ」
「へ?!そ、それは尋常じゃない感じだね・・・!」
「よォーく聞いとけッ!まずなァ、オレ様がいねェ時にあいつらの補習すんな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?何言ってんの?清春くん大丈夫、頭」
「いいから黙って聞いとけ!ンで、オレ様の事はいつも通りで呼べ!」
「呼んでるじゃん」
「だァーかァーらァー。ッチ、鈍いんだよホント・・・・名前で呼べって事だッつうの!」
「清春くん?呼んでるよね?」
「・・・・・・・・・だァァアア、だからあいつらの前で先生とか付けんなッつー事!」
「それはけじめだもの、無理だよ」
「・・・・・・グダグダ言うんじゃねェ!守らなかった場合は一生オモチャ決定だッ」
「清春くん、いつもに増して言ってる事めちゃくちゃ・・・!」
「うるせェ!」

だだんっと足を踏み、机をたたきながらそういう清春くんの目は据わっていた。
ほ。本気だよ、この子・・・・!
本当によく分からん子だなぁ、いきなり黙ったかと思えば、急に叫んだり怒ったり。情緒不安定なんだろうか・・・、 今度B5の皆に相談してみようかなぁ・・・。



「おいッ、今、他の奴らに相談しようとか・・・・・・考えただろ」
「な、なんでそんな鋭いの・・・!すごいな、清春くん!」
「バカか!・・・・・・オマエの事は、何でも分かっちまうんだよッ!」
「へぇー私、そんなに思考読みやすい方じゃないと思ってたんだけどなぁ・・・・不思議だ・・・・」





10分の1も伝わらない
       「そう言う事じゃ、ねェっつうの!気付け!」





3周年記念企画。「5年後清春」から。リクエストありがとうございました!
出来あがってから気が付いたのですが、これは5年後清春じゃない・・・!むしろ子供っぽくなってしまった・・・!


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