夏の暑さは異常だ。
暑くて暑くて、とりあえず暑いしか言ってないぞ今日。
ハンカチで流れ出す汗を止めてはいるものの、それはほんの気休めにしかならない。 無駄な行動だなぁと思いつつも私は学校の門をくぐり、職員室へと向かう。
その間にすれちがった生徒たちは、皆おはようございます、と声をかけてくれる。 気温はともかく、気持ちはさわやかになりますね。
うん、朝の挨拶大事だなぁ〜、なんてことを考えながら職員室のドアを開けて中へ入る。
と、共に冷気が私を包む。


「つ、つめたい・・・幸せだ・・・・」
先生!あなたはこんな時間に出勤してきて!!どういうことですか!W6たちは大丈夫なんですか!」
「・・・・・・・・・あーーーーはいはい。この気持ちを台無しにしないでくれるかなジル先生〜」
「な、」


扉をくぐって中へと入った瞬間、冷気を楽しむ余裕よりも、ジル先生の矢継ぎ早な言葉がマシンガンのように 飛んできた。 その言葉たちがぐっさりと私の体を突き刺さったままになっている。刺さってる、刺さってるよがっつりと!
・・・・・まったくこの人は心配症というかなんというか・・・。
言葉だけ聞けば、なんてやつだと思うかもしれないけれど、この ジル先生の性格に慣れてくればたまによしよしとしたくなってしまうような人なんだよね。
最初は 言葉はきついし態度も冷たいしで、そりゃあもう色々と大変だった訳だけれど。 私に言わせてみれば、W6もだけれどL6だっていろんな意味でぶっとんでるなぁと思っちゃうなぁ。

そんなことを思いながら、後ろからマシンガンをかますジル先生を連れたまま、職員室を歩く。
私はそのまま自分の机まで歩き、バックを椅子へと置く。 バックの中からぺしり、とつめた〜い冷却シートをおでこに貼って気合いを入れてから、ジル先生へと向き直る。
ついでに右手に持った冷却シートをジル先生のおでこにもぺたり。
面を食らった表情でジル先生はこちらを見るが、私はにこりと笑顔を浮かべてやや軽めのお辞儀をする。




「改めましてジル先生、おはようございます〜」
「はっ、あ、・・・おはようございます」
「はっはーーーん!かわいいジー!!そしてマドモアゼルっ、おはよう☆」
「おはように☆はいらないかと思いますよ、マルコせんせー」
「ああっ、つれない態度もス・テ・キ・ッだねっ!」
「はいはい、ジルせんせー以上に暑いねーマルコせんせー」
「暑くて語尾が全部流れていっているぞ!だらしがない!」
「暑いんですもん〜」
「甘えるな!しなだれかかるな!」
「キャッ、ジルってば照れてるよ!お兄ちゃんはジーを見守ってるからねっ☆」
「こらっ、マルコ!ジーって言うな!」




マルコ先生がジル先生を煽るものだからうるさくなる。うるさいぞ。
職員室中に響き渡っているのだけれど分かっているのだろうか。耳元でぎゃんぎゃん騒ぐのはよろしくないと思うよ。
ついでに言えばマルコ先生、私の頭の上に肘置くのもやめてもらえまいか。
ジル先生は私がもたれかかっているので半分潰れている。とりあえずこれはもみくちゃってやつである。 他のL6の皆は来ていないようなので、止めることもできずに、他の職員の方は遠目でこちらを見るのみである。
その時、ガラッと音を立てて扉が開いた。と、同時によく通る声と共に見知った生徒が入ってきた。




「冷やし中華は・・・ひやし中か!」
「ペギーーーーーーーーッ!!!!!!」
「あら、おはよう望月くん」
「お、おはよう先生」
「ちなみに職員室は食堂じゃないよ、あっ、でも冷やし中華いいね〜」
「・・・っ、今日の昼は冷やし中華で決まりだな。クールだぜ・・・」
「わーい!」
「き、来ていいとは言ってないぜ。おい、聞いてるのか?」



冷やし中華おいしいよねぇ〜なんて頭の中では、すでにもうランチタイムのことで埋め尽くされる。 来ていいとは言われていないけれどまぁ、なんとかなるだろう。優那先生も一緒に連れて行こう。
あそこのシェフの腕は確かだし。あ!でも優那先生の腕もかなりのものだ。この前もらったクッキーはかわいいしおいしい しで、食べるのをためらってしまったくらいだ。
はぁあ、こんな職場にいれることを心から感謝する・・・・。


「さっ・・・さむい・・・・なぜこれを聞いても先生は寒くないんだ・・・」
「うんうん・・・ほんと・・・・不思議だよね・・・・ほんと未知のマドモアゼルだよ・・・ぶるぶる」
「俺のギャグは今日も最高にクールだぜ!」
「マルコ先生にジル先生、望月くんのギャグで職員室、クーラーいらずになりましたね」
「カタカタカタ・・・・・」
「あれ?ジルせんせ〜?」
「あれっ、ジルってば固まっちゃったの?おーい!」



カタカタと微かに動くジル先生は遠くを見つめたまま戻ってこない。 これはやばいやつだ。
おーい戻ってこーいと声を掛けるものの、なかなか帰ってこない。肩を前後ろに動かすものの動きがない。
どうしたもんかとマルコ先生と悩んでいると、望月くんが声をかけてきた。



「というか先生はもっと仕事したほうがいいと思う。食べるんじゃなくな」
「ガーーーーーン!・・・してる・・・!してるよ私っ!ねっ、マルコ先生」
「そうだよ☆マドモアゼルは頑張ってるよ〜」
「本当〜っ!?マルコ先生ってば分かってるぅう!」




バチンと完璧なウインク飛ばすマルコ先生に抱きつくような勢いで近づいてハイタッチをかまし、 そのまま手のひらを合わせて指を絡める。
このノリの良さは他のL6にもないから1番絡みやすい。まぁノリだけじゃなくてマジメな時はマジメだしね。 うん。このままジル先生には悪いけれどコンビを組めそうだ。
もう1回顔を見合わせて「ね〜」っと言い合えば呆れたようなというか、刺すような視線が こちらへとよこされる。ため息満載のジル先生と氷のような望月くんである。
あ、ジル先生復活したんだね、良かったよ・・・ツッコミしたくなると復活するのは彼の性質に由来するところなので、 もう気にするのは止めることにする。
この2人も少し似てるよね、真面目すぎちゃうところとかね、氷のような視線とかね。




「ちょ、ちょっと、そんな目で見なくたっていいじゃん二人とも!!」
「そーですよー!少しはのってくれてもいいのに…」
「はぁ…そろそろ時間か、・・・あいつらまだ起きてないと思うぞ。授業にはまず間に合わない」
「マルコも授業の準備があるだろう?!」
「あーー!マドモアゼルッ、あとでねっ!」
「はいっマルコせんせ…痛っ!っちょ、首!首しまってるから!」
「早く行くぞ」




ずりずりと引きづられて私とマルコ先生は引き剥がされてしまった。
私は首根っこを掴まれてずりずりと、マルコ先生はなにがどうなったのか足首を掴 まれてずりずりと職員室の奥へと連れていかれた。
あちゃーあれはジル先生大荒れの予感である。ピキピキと額に青筋立ってたし。 双子といっても性質が違うのは面白い点でもあるのだけれど。
そう2人を見送ってから仏頂面(わりとまぁいつもそうだけど)の望月くんを見上げる。首根っこを掴まれている 為に必然的に見上げる形になってしまうのだけれど、目を合わそうとすればすっと避けられる。




「あのー望月くん、首がしまったままなんですけど…いい加減苦しい! というか廊下の皆の目線が辛い!」
「そのまま辛い視線を受けていろ!」
「も〜自分で歩けるよ〜」




首を掴む力がゆるくなった時を狙ってはずす。
このままワルサイユへ行き、他の子たちを朝のHRへと引っ張っていくという任務に就かなければならない。 私は望月くんの手首をぎゅっと握る。逃がしてなるものか、まずは1人ゲットだぜ・・・!優那先生、私 確実に1人1人をゲットしていきます・・・!
望月くんは掴んだ当初はじたばたしていたものの、そのままそれには構わずに私がワルサイユへの道を 歩き出すと、諦めたのか大人しく付いてきた。うん、W6の中で1番物わかりがいいだけはある。うん!

「ところで、」
「・・・・?」
「なんで望月くん職員室に来たの?」
「・・・は?」
「何を怒ってるのー。引っ張らなくてもちゃんと行くってば」
「黙れ」



その一言と一緒に強烈な凍るような視線を私に送ったかと思うと、望月くんはつかんでいた私の手首を逆にぎゅっと 握ったかと思うと無言で歩きだす。
待って待って、あなたと私の歩幅の差がひどいから!!と言うが反応はなく、 私は小走りにも近い状態になる。
振り返らずずんずんと歩いていく望月くんをどう宥めてみても、まったくもって聞いてはくれず そのままずるずると引きずられて私はワルサイユへと向かうことになったのだった。






ヒートアップサマー!
「おい、玲央、なんだその汚いのは・・・なんだお前か」
「汚いって失礼だな〜あ、今日はちゃんと起きたのね、えらいえらい」
「ギルティ・・・こども扱いをするな!」
「一真、いちいち相手をするからそうなるんだ」
「誰が連れてきたんだ!誰がっ!!!俺を苛立たせるな!」
「はぁ〜まったく、藤重くんは子供だなぁ〜」
「玲央・・・こいつ・・・」
「・・・・・・」
 






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