「おい、なーに食べてんだよオレにも寄こせっ・・・ってこれオレのじゃねぇかよ!マジありえねぇ!!」 「え?これ?おいしーよ?」 「そんなことは知ってんだよ!!!てめ、許さねぇ!!これ2個目だろっ」 「うーおいしいなぁ〜」 「食い過ぎると豚になるぞマジで!!バーッカッ!・・・寄こせっ!」 「やだよー赤桐くんはちゃんと課題やってからね〜あーうまっ!」 「はぁああ?なんっでそーなるんだよ!」 「おっなにやってるんだ〜!おいらも混ぜろよ〜」 「テメーはもっと来なくていいんだよ、むしろ入ってくんな、うぜぇ」 「ウザいってなんなんだよー!そんなこと言うなよなぁ!」 「ウザいったらウザいんだよ、そのままだっつーの!分かんないんですかあ?」 ギャーギャーと頭上で喚かれるがそんなことはまぁどうでもいいのだ。 私の手元にある優那先生お手製の冷たーい杏仁豆腐をレンゲですくって食べる。 つるんとした喉越しとフルーツがとっても美味しく夏にはぴったりのデザートである。 W6の分だけでなく私の分まで作ってくれる優那先生にはほんと頭が上がらない。 というわけで授業が終わった今、私の休憩時間は始まる。 放課後ということで、W6たちはそれぞれの時間を過ごしているため、寮にはあまり戻ってこない。 そのため1人で杏仁豆腐を食べていたわけだが、どこからか嗅ぎつけてきたのか赤桐くんと朝比奈くんの コンビが来てしまった。 うるさい、しかし正直捕まってしまったら逃れる事など出来やしないということを私はここ数か月余りで 学習していていた。 スル―の能力だけ着々と上がっていく私をクリス先生は呆れた目でみていたけれど。 「またそんなに騒いでると怒られるよ、ギリギリ、ニンニン」 「ほんとほんと。静かにしてほしいよね」 「あれま、ジャンくん、カオルくん」 「・・・先生余裕だよね、そんなところで食べてられるなんてさ」 「いや〜なんか2人ともこう見えて配慮してくれてるんだよ、一応当たらないようにしてくれてるし」 「・・・・・はぁああ?!勘違いチョロすぎんだよオンナァ!」 「いや、やっぱり先生に当てちゃいけないよな!うんうんおいらもそれくらいは分かるぞー」 この騒がしさに我慢できなくなって部屋から出てきたカオルくんとジャンくんにそう言えば、 一瞬お互いを攻撃する手を止めてこちらを見やる2人が私の発言に言葉を返す。 にこにこと2人を見れば、そう言ってくれている2人の内1人がふるふると震えだした。 「あ、これマズいやつじゃない?」 「そうだね。逃げたほうがいいかもしれない」 「2人ともなに言ってるの〜」 「先生の悪いところは危機感がないってところだよね、うん、全体的に」 「カオルくん酷いな!笑顔でそんな事言わないでよ」 「それについては同感かな」 「な、ジャンくんまで酷い!私が何をしたっていう・・・・ぎゃっ!」 杏仁豆腐に向けていた目をジャンくんとカオルくんに向けた瞬間何かが飛んできた。 横からすごいスピードで飛んできたせいで、よけることもできずに顔にぶち当たった。 酷過ぎる。一応先生なんですけど、先生である前に女子なんだけど。 そんなことは微塵も感じさせない鋭いスピードで私の顔面に投げましたね。視界が真っ白である。 パイ投げをそんな遠距離からするんじゃありません。コントロール力が良いってのが悪い方向に出てしまっている。 「ぎゃーー!赤桐くん何するの!本当にもう!」 「がるるるるる・・・!オレが悪いんじゃなくてテメーのせいだっつの!」 「はぁあああ私が何をしたっていうの!もー悪ガキなんだからっ」 「・・・これを悪ガキって言う言葉で片付けちゃう先生が大物なんだろうけどね・・・」 「なんか言ったか!あぁ??バーカバーカバーカッ!」 「照れ隠しもここまで来ると・・・ねぇ、先生も大変だよね」 そう言われて私はジャンくんから差し出されたタオルを受け取り顔を拭きつつ、私は首を傾げる。 そうかなぁ、なんていうとカオルくんとジャンくんはやや顔を引きつらせた。 「ほんと慈愛の心というか・・・マドモアゼルはさすがだね」 「というより・・・鈍いのかな、かなり」 「あはは、そうかも〜!よく言われるんだよね」 「いや、そこは笑う所じゃないでしょ」 「ってかオレを置いて話を進めるんじゃねぇ!バッカじゃねぇの!?」 「おチビ〜!先生に向かってそういうこと言ったらダメなんだぞ〜!先生大丈夫かぁ?」 朝比奈くんがしゅばっという効果音がぴったりなスピードでこちらへ駆け寄ってくる。 ぴっぴっぴと顔を拭いてくれるのはいいけど、これではどっちが年上なのか分からない。 わりと世話焼いてくれるのが朝比奈くんのいいところではあるけれど私の立場が危うくなる事も確かである。うむ、なんて目を合わせてみれば 何を思ったのか輝かんばかりの笑顔をこちらへ寄こしてくれた。 うん、眩しいね、笑顔。 純粋な笑顔の子ってW6にはいない気がするからなかなか貴重で嬉しいものだ。 「ありがとう朝比奈くん、優しいよねぇ」 「へへっ、そんなことないぜ!おいらは忍者だからな!」 「忍者が関係あるか分かんないけど、ありがと!」 「これで会話が成立してるところがすごいよ」 やれやれという視線を送ってくるカオルくんとジャンくんは首を振りながら呆れたように反対側のソファーに座る。 どうやらこの場にとどまってくれるらしい。最初は話もそんなにできなかったくらいなのに、今は歩み寄ってくれる までになったのがとても嬉しい。 す、と視線を下に逸らすと、私が持っていた杏仁豆腐にもパイ投げの生クリームが少し垂れてしまっている。味的には問題はないだろうけども、 やや朝比奈くんの視線が気になる。食べたいんだろうな、うん。 私はレンゲでひとすくいして朝比奈くんの口元まで運んでやる。お礼というやつだ。まぁ一口くらいくれてやっても いいかという気持ちになったからね!うん! 「はい、朝比奈くんあげるよ」 「えっ、あ、いやでもそれ先生の・・・!」 「ん?朝比奈くん?」 「ヒャハハ!やりぃ、頂きぃ!!!」 「あーーーっ!おチビお前・・・っ!」 「ゴザルがトロトロしてる方が悪ぃんだよ!」 「なんだとー!?やるかぁー!?」 「望むところだほら早くかかってこいっての」 「やっちゃうぞーやっちゃうぞーー!!」 「・・・・・・こういう所は赤桐くんの方が上なのかな・・・うん」 「ふふ、自覚がない分困るよねぇ。見てる分には面白いけど」 大らかな心でもってそして 「本当にお子さまだね、あの2人は」 「そうだねカオリン、俺たちは俺たちで紅茶でも飲もうか」 「いいね、あ、この前の紅茶のシリーズがいいな」 「先生、一緒にお茶飲もう?」 「ありがと。私も2人と飲むお茶、好きだな」 「ふふ、嬉しいことを言ってくれるね、先生」 「さすがだよね〜・・・生徒泣かせ」 (130901) |