「つっきもっりくーん!!」
「(・・・・はぁ)」
「あ、今すごい嫌そうな顔した!」
「分かっているなら、構わないでくれ」


やけに明るい声を掛けられて、振り向かなくてももう誰かは察しがつく。
その声を聞かなかったことにして、そのまま歩いていくと後ろからばしーんっと背中を叩かれた。 俺よりも小さいそいつはちゃっかり俺の隣を陣取り歩き出す。 傍目から見てももちろん気の合う仲間ということでないのは分かってもらえると思う。 でもなぜかこいつはコンクールが終わってもう関係がなくなった今も しつこくつきまとう。俺は音楽科では普通科。もともと接点がなかったのだから、 当然そのうち来なくなるだろう、なんて考えてた俺が甘かった。
・・・こいつはコンクールが終わってもなにかと構ってくるのだ。




「・・・日野と土浦はどうした?」
「めっずらしー月森くんが土浦のこと気にするなんて!」
「あいつに用があるわけじゃない、お前をひきとりに来て欲しいだけだ」
「ふーんふん、月森くんと土浦意外に仲良くやるんだね、びっくりだ」
「人の話を聞け!」




いやだなぁ、2人きりなのにそんな土浦のことばっかり!妬けちゃうよー、なんて阿呆な ことばかり言っているこいつには俺の話など聞くはずがない。 すでに自分の世界に入ってへらへらと笑っているばかり。
おい、日野、土浦お前等ちゃんとこいつの管理をしろ。
普通科三人組としてコンクール出場から結構な人気がでたらしくこの三人の名前をしらない 奴はいない。こいつの音楽は俺とも日野とも違う。何が違うのかと言われても言い表せない ものがあるのだが。 確かに・・・その実力は百歩、二百歩譲ってしぶしぶ認めるとしても、 この普段との変わりようはなんなんだ。あそこのステージに立って本当に演奏した人間か? この俺の横でへらへら笑いながら、少しでも油断すると腕にしがみついてきそうなこいつが! ・・・信じたくない。




「ところで月森くん、今日はなんであたしがここに来たか分っかる〜?」
「知りたくもないな」
「うっわ!つれないなー!そんなんだとモテないよ」
「結構だ」
「ああ、ごめん!別に今のままでも十分モテるから心配ないよ!ってオイ、話ずれたし!」
「君が勝手に話を脱線させたんだろう」



またしてもため息をつくしかない。どうしてこうもに調子を狂わされるんだろう。
俺がため息を何回ついたところでこいつは一向に離れようとしないし、 傷ついた様子もない。多分性格によるところが大きいとは思うが。


「話を戻すとして、今日は何の日だ〜?」
「今日・・・?何かあったか?」
「え?それマジで言ってる?今日だよ?!今日!!」
「・・・ヴァイオリンの練習が7時からに変更になった」
「今はヴァイオリンから離れろ!!」
「そうじゃないとすると何だ・・・?」
「あーもー!!誕生日でしょ!たんじょうび!!」
「誕生日?」
「・・・言っちゃ悪いと思うけど、月森くんって健忘症?」
「失礼だな」
「ハッピーバースデー月森くん!!」
「!!」
「ふふー月森くんの驚いた顔写真に撮っちゃった!思い出した?」




そうだ、今日は俺の誕生日だった。最近ヴァイオリンの練習に没頭していて、もうそんな時期に なっていたこともまったく気付かないままだった。 だが、誰だっていきなり目の前でフラッシュを浴びせられたら吃驚するものだと思う。 そんなことはおかまいなしで、は楽しそうに話を続ける。




「月森くん、おめでとう!」
「あ、ああ。ありがとう・・・・」
「!!つ、月森くんがありがとうって言った!」
「俺だって言う時は言う」
「そ、そうだよね、月森くんだって人間だもんね!!」
「君は俺のことなんだと思ってたんだ」
「ヴァイオリン馬鹿」
「・・・・」
「怒った?でもいいことだと思うよ、何かに馬鹿になれるってのは」
「まぁ・・・そうだな」




んじゃまた明日ね!と言い捨ては校門まで走っていく。
駆けていく後ろ姿を見ながら、俺はふと疑問を口にする。

「なんで今日が俺の誕生日って知って・・・?」

届くことのないと思っていた声は、何故だかしっかりの耳へと届いていたようで。 くるりと綺麗にまわって振り向くと、さぁてなんででしょう?と口を動かした。 それから口の端をくっとあげて笑って見せるとまた背を向けて走り出した。



俺をひとり気になる状態で残して。




それは嵐のように
「(結局昨日のは何だったんだ・・あれは)」
「あ、月森くん、いい写真ありがとねー!いいネタになるわー」
「?」
「いやー月森くんのびっくり顔なんてめったにないからね、希少価値ありだよ」
「(びっくり・・・?)」
「売れて売れて困っちゃうくらいだったしね」
「売った?!どういうことだ?!」
ちゃんにネガ貰ったの、好きにしていいって」
「(・・・あいつ!!!?)」





月森くんおめでとう!
愛は溢れています、ただ表現の仕方がちょっと問題あるだけです。