びゅおぉぉおお、と寂しく木枯らしが吹くのである。まさに私の心情を表しているのである。



目の前にあるこの紙切れがとても憎らしくて仕方がなかったのである。自然にこの憎っくき 紙切れに力を入れてしまい、ぐしゃっとしわがよるのである。くそう、この紙さえなければ! いや、私が悪いのは分かってるのである。 さっきからである、口調を使っているのもなんとかして頭の良さをアピールしたいという一心で 、続けているのである。「我輩は猫である」だって猫のくせにちょっと頭良いような感じがするじゃないかである。 でもちょっとウザくなってきたから、一旦止めることにしよう。口調を 変えたところで、頭のレベルがすぐに上がるわけではないのだから・・・である。



それでもこの現状を認めたくない私が確かに存在していることも確かだ。
馬鹿は嫌いだよ、といつぞやかあの恐怖のY先輩に日野ちゃんが言われていたのを思い出した。 (あえて伏字なのは・・・あーっと、そこは察して欲しい) そしてそれを庇おうとして日野ちゃんよりももっと悪い点数だった私のテストを見せたことも ある。その時はY先輩になんと言われようとかなり平気でけろりとしていた私だったわけだが、 今とその時では事情が違う。この数学と英語の点数のおかげで私は来週の月曜日の追試で点を取れなければ、 冬休みに快適な補習ライフを送ることとなりそうなのである。 ヤバい、果てしなくヤバい。しかもいじめのようにその補習は クリスマスイブに行われるとのこと。先生性格悪すぎだぞ!いや、まぁ過ごす相手がいないから・・・ いや、うーんまぁ別に良いじゃないか、と言われてしまえばそれまでなんだけどさ。・・・いやっ! 良くない良くない!



普通はそれに歯向かいたくなるのが人間である。
(あ、また再発してるぞ)(気を取り直して)



・・・しかし補習が赤点が何だって言うんだ。この紙切れで私の点数が決まる・・・?はぁ?こんな 紙切れなんかで私の未来決められてたまるかー!ばっきゃろー!こんな紙っ切れビリビリに破いて Y先輩の登場シーンに使う紙吹雪にでもなってしまえ!(そんな場面はない)
でもどうしたら追試乗り切れるだろうか・・・元がわかんないのに、勉強しても絶対に追試は 乗り越えられるはずがない。どうしよう・・・・。





前置きがかなり長くなったのはこういう事情があったので仕方ないとして、 私は内心そんなことを思いながら、街路樹がかなり寂しくなった通りを1人でとぼとぼと歩いていた。
・・・っていうかぼたぼた? もう何か脳みそが出て行く勢いである。ありえないありえないありえない。しかも寒いし。 心も体も財布も寒すぎる。 寒冷前線どっかいってくんないかな。いっそ日本が1年中常夏のアイランドでも構わない。 そしたら気分だけでも浮上すると思うんだ。



さん、1人でどうしたの?」



そんな感じでぼったぼったと歩く私の肩をぽんっと叩いたのは、こんなに寒いのに相変わらず 爽やかオーラを身に纏っている加地くんだった。
彼の周りだけは、春が訪れているようだ。この爽やかオーラは尊敬に値すると思う。 でも誰も彼以外の人物には着せることの出来ないオーラでもあると言える。 例えばどうだろう、と私は若干顔を俯き加減にして加地くんを放ったらかしにしてしばし考えて みる。この爽やかオーラを月森くんや土浦くんに被せてみるとしたら・・・・・。 うげー・・・・。やーめたやーめた。想像したらなんか気持ち悪くなってきた。こりゃ即効性ありだな。



「お前、全部口に出てんだよ、悪かったな爽やかじゃなくて」



そう言って加地くんの後ろから登場したのは土浦くんだ。
残念ながら爽やかなオーラは引き連れて いないらしい。多分纏っていたとしても加地くんに全部吸い取られている。うん、きっとそうだ。 てゆーかいたのか、全然気付かなかったぞ。あー私それどころじゃなかったんだ。補習ライフの 危機に立たされているんだった。しかしそうかといって相談出来るわけではなく、 残念ながら加地くんも土浦くんも補習を受けるって感じではない。加地くん はもちろんのこととして土浦くんはしっかりとしている方だし、テストも余裕でパスしていそうだ。
くそう、それは正しいことなんだろうけど、かなり腹が立つ。理不尽な怒りだがかなり腹が立つ。 ま、それはともかくとして土浦くんのこめかみがピクピクとしている。 この状態を続けさせておくのはかなり危険な行為だ。





「お前・・・とことん腹の立つことばっかり言うよな」
「え、だ、だ誰もそんなこと言ってないってば!!」
さん、帰り1人なの?僕も一緒に帰っていいかな?」
「お前、この状態でそう言うこと切り出すか?!俺へのフォローとか考えろよ!」
「いいよー。あ、でも日野ちゃんは一緒じゃないの?」
「だからお前も平然と返事すんなって!」
「だって2人だけなの・・・?私の癒しは日野ちゃんだけなんだよ!?」
「はぁ・・・日野は委員会の仕事があるんだとよ、だから、」
「「はぁー・・・・・」」
「2人して盛大なため息つくんじゃねぇ!」
「だからしょうがなく土浦と帰ることにしたんだよ。それで歩いてたらさんが見えたから走ってきたんだ」
「こいつ、全力疾走してくから何事かと思ったぜ。しかもお前かなり前歩いてたのに気付いたんだぞ」
「加地くんって・・・・一体・・・。いやいつものことか」
「やだな、僕が気付かないわけないじゃない。だってさんのことだからね!」
「言い切るお前が凄いよ・・・」



加地くん、お花が・・・お花が飛んでます。
この爽やか発言は相変わらず絶好調のようで、土浦くんがつっこんでもびくともしない。 それ以前に加地くんは土浦くんの発言を華麗にスルーし、にこにこと微笑んでいる。 土浦くんは土浦くんで、えが・・・笑顔で加地くんのことを見ている。 それは苦笑というか呆れたというかなんというかその乾いた笑みだったが、「笑い」という字が 入っているので、笑顔ということにしておく。
あんまりそこに触れられると爆発して、頭ぐりぐりされると私が困るしね。土浦くんの怨念が こもってるから、かなり痛いんだ。前にもやられたことあるし・・・(軽くトラウマ)





「それで?」
「それでって何だ、
「だからいるんでしょ?」
「僕達以外誰もいないと思うよ。あっ!さんは僕と2人きりになりたいってことかな?」
「加地、お前、向こう行ってろ」
「土浦くん、お見事。見事3単語で加地くんを黙らせたね」
「まぁいつものことだからな。それで何がいるって?」
「だーかーらー、月森くんだってば」
「はぁ?月森?なんで月森が関係してくんだよ?」
「だって2年生トリオじゃん?いつも一緒にいるじゃん、だから今日も一緒かなーって」
「いつも一緒って・・・あれは練習だから仕方なくだ!そうでなきゃ誰があんなやつと・・・!」
「それはこちらの台詞だな」
「つ、月森!?な、なんでここに・・・」
「ほーら、やっぱ来たじゃん。2年生トリオ!」
、その呼び方はやめてくれないか」
「だって仲良しじゃないの、月森くんと土浦くん・・・と加地くんはー・・・」



それぞれの顔を見ながら名前を呼んだのだけれど、月森くんは無愛想な顔、土浦くんは不機嫌な顔、 加地くんはどこに・・・・と思ったら向こうから走ってきた。本当に向こうに行ってたんだな。 やけに素直というか、そういうところが月森くんや土浦くんとは違うって感じ。 そして月森くんと土浦くんは一緒にされると怒るから違う表現にしたけれど、仏頂面はそっくり だ。そういうところが2人は似ているなーと心の中だけで思っておく。 口に出したら、絶対怒られるし。





「お前どこに行ってたん「はい!さん、コーヒー!」無視かよ」
「あったかーい!加地くん、ありがとね」
「気にしないで、僕がしたかったんだから」
「聞けよ」
「え、ああ、なに2人ともいたの?」
「さっき来たばかりだ。土浦と馴れ合っているわけではないからな」
「加地、ちゃっかりいつもいいとこ持っていくよな・・・!」
「なにが?ああ、ごめん月森と土浦の分はないよ」
「むしろお前が俺たちの分を買ってきていたら、寒気がする!」
「ちょ、土浦くんてば!加地くんは両手に1本づつしか持てなかったんだよ」
「いや、が頼めば100本くらいは持ってくるのは容易いだろう」
「月森くんまで・・・・ほーら、このキラッキラのスマイルを見て!」
「ふふ・・・僕を庇ってくれるんだね。さんはやっぱり優しいな」
「「(だまされてるぞ・・・・・・!)」」



ちょうえがおなんですけどかじくん・・・!その流し目攻撃はヤバい。
慣れていない私にはかなりの大ダメージでーす!ピピピピッピー!



「ところで、。何を握りしめているんだ?」
「え、あ、うーん?月森くんそれは見なかったことにしてくれない、か、な・・・」
「月森、お前目聡いな」
「お前が気付かないだけだろう・・・普通はすぐに気付くはずだが」
「なんだと!?さっきからことあるごとに突っかかってきやがって・・・」
「それは俺の台詞だ」
「それで?さん、それなんなの?もし何か悩んでいるんだったら力になるよ?」
「いいいいいや、別に、なんでも・・・っ」
「貸してみろって・・・んー、なになに・・・?」



土浦くんに2枚の壮絶な点数のテストをいとも簡単に取られてしまう。
取り返そうとしても長身の土浦くんには適うはずもない。ひょいひょいひょいっと軽くあしらわれて、 土浦くんはそのテストに目を落とす。月森くんと加地くんもその両脇から覗き込むようにして私の 壮絶な点数のテストを見る。だぁぁあああああ!!!ちょ、土浦くんのばかやろー!! 1人でじたばたしているうちに、3人の顔色は徐々に変わっていく。



「お前・・・・数学と英語、破滅的だな」
「こんな酷い点数は初めて見たな」



私のテストの点も酷いがこの2人の感想も結構酷いと思う。
しかも今、立ち直ろうとして屁理屈をこねていた所だったから、余計にその心無い一言が つららのように突き刺さる。わ、私だって、どうすれば追試乗り切れるか考えていたところだったんだ からね!努力はしようとしたんだからね!



「いーよ、もう私はどーせどうしようもないお馬鹿さんですよーだ!」
さん、大丈夫だよ。僕が教えてあげるから!」
「へ・・・?それ、ほんと?!」
「「ちょ、なっ・・・!」」
「うん。さんのためだったら構わないよ」
「あ、ありがとう、加地くん!追試が来週の月曜日でどうしようかと・・・!」



思わず加地くんの手を取って、お礼を言う。
さんの役に立てるなんて、幸せだな」と加地くんはなおも、微笑みながらそう言う。 この加地くんの言葉は冷え切っていた私の心にじーんときた。今、きた。すごくじーんってきた! 特に心無い一言の後にくる優しさって身に染みるね・・・!

「おい、手離せ」
「そうだ、いつまでやっているつもりだ」

その声と同時に私の手と加地くんの手は引っ剥がされる。それこそべりっと音がしそうなくらいの 勢いで、月森くんと土浦くんに両肩を片方ずつ持たれて離される。 なになになに?まったく変な所で気が合うんだから・・・。



(加地、どういうつもりだ?)
(どさくさに紛れて手を繋ぐとは・・・お前・・・!)
(2人があんなことを言うからだろ?僕のせいじゃない)
(抜け駆けすんじゃねーよ!)
(大体、加地は日野のファンじゃなかったのか?)
(そうだけど、それとは別にさんには、何かしてあげたいって思うんだ)
(な・・・・っ!)
(・・・・・っ!)
(だから悪いけど、邪魔しないでくれる?)

「「そうはいくか・・・・!」」





3人でこそこそ私に背を向けて話していたと思ったら、次は月森くんと土浦くんが凄い勢いで こちらを振り返りながら大声を出した。そうはいくか、って何。



、俺は英語が得意なほうだと思う。だからその、追試にも力になれると思うのだが」
「へ・・・っ?急になに?」
「さっきは笑ったりして悪かった。俺、理数系得意だから良かったら教えてやるぜ?」
「は・・・?どうしたの2人とも・・・教えてくれるのはありがたいけど」
さん!じゃあさっそくやろうか!あそこのカフェで!」
「い、いきなりぃ!?なんでそんなやる気まんまんなの!?」
「早く君の役に立ちたいって思ったからだよ」
「・・・加地くん・・・いい人・・・!!」



加地くんが指差したカフェに4人ぞろぞろと歩く。
月森くんと土浦くんのこの急な変わりようにも驚いたけれど、まぁ何にせよ皆教えてくれる らしいし、追試もこれで乗り切れたらいいなぁと思う。





(ちょっと、さんの隣は僕だよ!大体僕が教えるって話だったんだからね!)
(な!俺だって最初からの力になりたいって思ってたぜ?)
(俺だってそうだ!英語が1番得意なのは俺だから、俺が隣に座るのは当然だろう)
(そんなこといったら俺が隣に座るのが1番いいだろ、数学が得意なのは俺だからな!)
「あ、あのー。なにを話し合ってるの?さっさと入りたいんだけど・・・」
「ああ、ごめんさん。今何の教科から教えたらいいか話し合ってたんだ」
「え、そうなの・・・?みんな、お馬鹿な私なんかのためにありがとう・・・!」
「いや、いいんだ・・・。俺たちが言い出したことだしな」
「そうだ、気にすることないぜ」
(でもさんの隣は譲らないからね!)
(だー!もう俺だって言ってんだろ!!)
(俺が1番妥当だと思うんだが・・・!)





「あ、あのー・・・・は、はやく・・・」



入りたい、とは言いたくても言えなかった。ちなみにさっきの「あ、あのー・・・」から 15分が経過した。さっき加地くんが買ってきてくれたコーヒーは既に手の中で冷え切ってしまっている。 一応私のための相談会なんだし、文句言うのは駄目だと思うんだけど、でも。あの、とりあえず店の 中に入りませんか・・・・。







五線譜の中で

     音符は巡る

「ここはね、こうしてこうやって・・・」
「これは現在進行形で・・・」
「ここは割り算だ、分かるか?」
「あ、あの・・・一気に言われても・・・(これは本当に話し合いしたんだろうか)」




さくらちゃんに進呈です。加地がニセモノくさい。でも彼はなんでも出来そう。