―――得意料理はなんですか?
「あのさー・・・」


―――気を取り直して、好きなものは何ですか?
「お菓子。カツサンドも好き」


―――ズバリ!今気になる人、いますか?
「・・・・・あのさ、」


そこで私は一旦口をとじた。 何故、私が質問に応じなくてはいけないのか、ということが頭の中をぐるぐると巡る。 何回言ってもこの友人からは逃れられないのは知っているが、 この質問に答えるのは私じゃない。ターゲットを間違えているように思うけど。




「いいじゃない!ちょっとくらい協力してくれたって!」
「なんでコンクール参加者でもない私が答えなきゃいけないの!」
「だってー・・それは・・・まぁいろいろあってさ」
「いろいろって何さ?返答次第では、鉄拳を返すけどいいよね?」
ってば・・・目がマジ。目がマジです」
「ふふん、私はいつだって死ぬ気に本気、ハラキリ御免!だから。な・ん・で?」
「どうしても理由いる・・・?聞かない方がいいかもしんないよ〜?」
「な、そんな悪い理由なの?!ちょ、さっさと話しなさい!」
「それでも聞くんだ・・・・相変わらず男前な性格だねぇ。いいよ、実はさー・・・」








そんなわけで私は廊下を駆け抜けているところである。 気分は最悪、超機嫌悪いオーラをかもし出している。 周りはそんな私の様子に気付いていながら、気付かないフリをしている。まぁそれが懸命だろう。 今、私に近づくものがいたら、問答無用で切り倒す。 切り倒すっていうと語弊が生じるかもしれないが、それは言葉のあやというものだと思って頂きたい。 我が親友、天羽からの情報を聞いたためこのような事態に陥っているが、元を辿ればあいつが 原因だ。誰が原因だって・・・・?あいつの名前、それは、




「あ、さーん!」




幸せそうに廊下に響くその声は、私をイライラマックスへと導いた。この声の主が奴だ。 分かっていただけただろうか、私のこの心情を。 果てしなくムカついているうえに、その原因が声を掛けてきた。 となれば、こうするしかないだろう。 とりあえず、落ち着いて話をしなくてはいけないため、とりあえず、こっちに近づいてくる奴を 止める。とりあえずを多用しているのは、私の心の乱れと思って欲しい。とりあえず、だ。 というわけで、蹴りで止める。




「痛っ!今日も元気そうだね、さん」
「相変わらずみたいだね、加地くん」
「ふふっ、僕はいつも通りだよ。それでどうしたの?眉間に皺よせて」
「あーのーさー、しらばっくれるの止めてくれない?もう分かってんだから!」
「怒った顔も最高に可愛いね、僕はさんの色々な表情を見ることが出来て幸せだよ」
「私は今、絶不調だよ!誰かさんの所為でね!」




そう、ほかでもない、加地くんの所為だ!この電波め!
会話がかみ合っているようで、まったくかみ合っていない。勢いよくまくしたてるが、 加地くんは涼しげな笑顔で対応する。くそう、なんか花まで舞って見えるんですけど。




「私のインタビュー情報教えてくれたら、インタビュー受けるって言ったんだって?」
「え、うん。駄目だったかな?」
「駄目とかそういう問題じゃなくて、そういうのをプライバシーの侵害って言うんだよ!」
「だってね、天羽さんがインタビュー受けてくれるなら、何でもするって言ってくれたんだ」
「だぁあああああかぁあああらぁあああ、やっていいことと悪いことがあるんだよ!」
「知りたかったから、つい・・・ごめん」
「はぁ、毎回そう言うけど加地くん、これ何回目だよ」
「この想いは止められないんだよ!日野さんとさんを見た瞬間から!」
「それって全然反省してないよね!前科もあるし!」
「ふふ、ちなみに日野さんのプロフィールはもう入手したんだけどね」
「日野ちゃんも色々大変だなぁ・・・あとでねぎらいの言葉でも掛けてこよ・・・・」




なんか加地くんにまんまとやられている日野ちゃん情報を聞いたら、果てしなく同情した。 思わず目の前ののほほんと笑っている加地くんの頬を張り飛ばしたくなるくらいには。 でもまぁ確かに日野ちゃんはコンクールにも出ているし、可愛いし、応援したくなるのは分かるけど。 そのプロフィールを入手したこととかは果たして応援、という枠に当てはまるのかは微妙なライン である。そのようなことを考えていたら、また新たに面倒くさい奴が現れた。 単体ではそう害はないのだが、加地くんといると大抵うるさくなる土浦である。




「2人とも何やってんだ?周りの奴ら引いてるぞ」
「土浦か・・・なんだ・・・日野さんかと思った」
「あからさまに嫌そうな顔をするな!」
「なんだ・・・土浦か」
「加地と同じ事言うなよ!」
「まぁ、そう叫ぶなって。はい息吸ってー吐いてー・・・・」
「すぅーはぁーすぅーはぁー・・・・ってお前らのせいだろ?!悪いの俺かよ!」
「はいはい、ごめんごめん。いやぁ加地くんがまた暴走したからちょっと戒めをね・・・」
「い、戒めって怖いな。また、加地は何をやらかしたんだよ」
「別に悪いことじゃないよ。てゆうか土浦邪魔だからどっか行ってくれないかな?」
「お前っ、日野との前以外では態度全然違うんだけど!」
「そうかな、土浦の勘違いじゃない?」
「別に悪いことじゃないって・・・加地くん、全然反省してないことが私にはよーく分かったよ」
「えっ、そんなさん!」




言い争いをし始めた2人であるが、今日はまだ運がいい方だ。まだ私の話を聞く耳は持っているようだ し、いつもの喧嘩3人組の状態ではないからだ。3人組のうち2人は揃ってしまっているが、 まだ1人いないだけ大分マシだ。 そのあと1人を投入すると、かなり厄介な状況になってしまうので今の所は 運が良かったというべきだろう。運が良かった、良かった!と喜んでいないと思わぬところで 躓きそうなので、一応喜んでおく。 ふぅ・・・良かった良かった・・・、


「通行の邪魔だ。どいてくれないか」


良かっ・・・良くなかった。3つめの良かったを呟こうとしたが、それも叶わなかった。さっそく躓いた。
大体この文句で登場する奴は決まっている。私も最初にこの言葉を言われたときは、 てめぇが向こう側通ればいいだろ!とかムカムカしたものだが、今となってははいはい、と軽く 流すことにしている。彼はこういわないと会話が始められない性質らしい。 文句を言おうとしたところ、なにかしら用事を言われるので、そう気付いたのは最近のことだ。 多分彼なりのコミュニケーションの取りかたなんだろう。恐ろしく分かりにくいが。
そして土浦が私の心の中を代弁してくれたらしい。彼に向き直って怒鳴る。あーうるさい。 特にこの2人、土浦と月森は犬猿の仲なのでご用心いただきたい。むしろ逃げたい。



「通行の邪魔ってそっち側通ればいいじゃねぇか」
「土浦、君が邪魔なんだ。さんに用事がある」
「月森!今さんは僕と話しているから、後にして!」
「いや、加地くんは土浦くんと話してたよね」
「えええ、君に勘違いされちゃうなんて・・・!」
「勘違いじゃないでしょ。まぁこっちはおいておいて」
「置いておくのかよ!」
「・・・うるさいなぁ、土浦。んで、月森くんなにかあった?」
「金澤先生がこのプリントを、と」
「ああ・・ありがとう。わざわざごめんねー」
「いや・・・」



普通科までプリントを運んでくるとはなんてマメなやつだろうか。というか先生の人使いが 荒いというのもあるのだろうけど、わざわざ持ってきてくれる彼は優しいのだろうと思う。そう、多分ねっこの部分は、だが。 土浦とペアにならなければ、 少なくとも加地くんよりはマシだろう。うんうん、きっとそうだ。彼が唯一私の周りで 常識人であると言っても過言ではないだろう。




「ああ、そうそう。それでお前ら何やってたんだ?」
「2人の秘密だよ、ふふっ」
「2人の秘密って・・・はぁ。実はねー私のインタビュー情報教えてくれたら、インタビュー受けるって加地くんが」
「「・・・・・・・」」




いい加減にして欲しいよねー。だから今ちょっと話し合いという名の制裁を加えていたところ、と 続けようとした所、加地くん以外が私の視線から逃れるようにして視線を泳がせ始めた。 ちなみに加地くんはこんな状況でも私の目から視線をはずさない。潤んだ瞳がこちらを凝視して―― って違う違う、何その子犬のような目は!思わず流されてしまう所だったじゃないか! あの視線の泳がせ方、少し焦ったような表情・・・ まさか・・・まさーか・・・。




「この2人もそう頼んだって天羽さんに聞いたよ、ね?土浦、月森!」
「お前さりげなくバラしてんじゃねー!!!」
「不愉快だ!帰らせてもらう」

「ちょっと待て。お前ら・・・・」

2人の腕をがしっと掴み、多分笑っているであろう顔で事情説明を要求した。 笑えているかは、それは分からないが。加地くんが後ろでいいなー僕もさんと手を繋ぎたいー、とか 言っているのが聞こえてきたが、無視。毎度のことながら無視!言っておくが、仲良く手をつないでお花畑なんぞに行く 趣味はない。むしろ彼らと行くのは三途の川だろう。ああ、もちろん彼らだけ向こう側に渡してやる。




「悪かったって。天羽の奴が何でもっていうから・・・」
「却下」
「すまない」
「言い訳しないところは認めるが、却下」



「お前ら、歯くいしばれ!!!」





廊下に乾いた音が3発鳴り響いた。1つ、ビンタ。1つ、飛び蹴り。1つ、回転蹴り。
目撃者は語る、あれは尋常ではない威力の技ばかりだったと。まだビンタはマシなほうだと。

翌朝、怪我をどこかしらにしている3人を見て、周りの人たちは恐れおののいたという。
ふ、武勇伝をまた作ってしまった・・・。しかし私は知っている。彼らがそれくらいじゃまったくへこたれないということを。 だから余計やっかいで、あまりかかわりたくないのだが気付いてくれないのがまた痛いのだ。そして今日も私は制裁を加えるため、 西へ東へ奔走するのだ!






追撃せよ!




なんかバトルドリーミンみたいになってしまった・・・。これ読んじゃうとみんなストーカー扱いで、ほんと困りますね。 別館にあげてたものをこちらに移しました。