「おっと・・・・危ない危ない」
「・・・・・・・・・・・・・ちょ、ちょっと待て、そこのオネーサン!」
「へ?え、と。なんでしょう?」



一瞬大地から足が離れそうになったのを慌てて戻して体勢を整える。 誰にも見られていない事を確認して、さぁ、1歩踏み出そう、と思った時だったのに。
大声で呼びとめられた。振り返れば、可愛らしい女の子。紫の髪を振り乱してこちらへ走ってくる。
その彼女の肩の辺に漂うものが、いや・・・・・・・者が。



「いやいや、いやいや。ああ、最近疲れてるんだよね。・・・・・そんなまさかね」
「なにブツブツ言ってんのよ、アンタ」
「姫様、この人挙動不審ですよー。今流行りの危ない人です、危険ですよ!」
「・・・・・・・・・疲れてるんだ・・・・うん、きっとそう」



ふるふるふると頭を振って疲れを取ろうとする。いやぁ、目が疲れてるのか脳が疲れているのか・・・・・・・、
多分、どっちもだな。あはは、今週は有給取ろうかなぁ・・・。



「姫様、こんな人間に時間を使っても無駄ですよー。どういう理由で声を掛けたりなさったのですか」
「ウンバラ、うっさい。見えなかった?この人、今、一瞬浮いたの!」
「そんな私みたいな事出来るのが、キングダムにいる訳ないじゃないですか、姫様ってば疲れてるんですよ」
「うん、多分疲れてる、きっとそれ疲れてるよ。あなたも顔色悪いですもん」
「ほらほら、彼女もそう言っているじゃないですか。こんなことしてないで次の奉仕かつど・・・・・・・・って嘘!」
「え?!もしかしてウンバラの言っている事分かってる?!」
「分かってるもなにも、あなたの肩のらへんに浮いてるじゃないですか。もしかしてユーレイ?お祓いした方が、」



その言葉を最後まで言い切る事は出来なかった。
姫様、と呼ばれているその女の子の前にずずいっと出てきたユーレイもどきが 声を上げる。私を幽霊扱いするなんていい度胸してやがりますね!などなど、聞き流した言葉が多いけれど、 おおまかにまとめればそんなところだ。



「精霊のウンバラが見えるってどういう事?そんな人、今までにいなかったよね」
「ええ・・・私自身初めての事でどう反応したら良いのやら・・・」
「げ、そういう事か・・・あー・・・・まぁ、私自身も多分、あなたと同じですよ?精霊ですもん」
「そうなんですか?そんな人、人って言うか精霊って事ですよね・・・って嘘!」
「あのー・・・さっきと同じ反応しないでくれますか?ってかめっちゃ人目集めてます!」
「なぁに?アンタ、隠してんの?精霊ってこと」
「当たり前じゃないですか!そんなこと言ったらここでは頭おかしい人呼ばわりですよ」
「・・・・・・・・姫様、これが世間の見解ですよ」
「うっさいわね、まだ根に持ってんの?」



ぶっちゃけいきなり私は精霊なんですよー。なんて言いだしたら確実におかしい。
だからキングダムに来てからと言うものの、わたしはこっそりほそぼそと暮らしていたのだ。
それだというのに、この2人組み、もとい女の子は違ったらしい。聞いてみれば、彼女は魔神だという。 しかもそれを胸を張って公言しているらしい。堂々とした様は確かに姫っぽくて、しかもそれが魔神の 国EVUUの姫様だと聞いたときはかなりびっくりした。
でもくるくると動く表情は可愛らしくて仕方がない。自身が精霊だとバレた時はやばいなぁ、とは思ったものの、 この2人ならば大丈夫な気がした。なんていったって同族だし。



「さぁ、!私たちここに着いたばかりなのよ。案内して!」
「またまた、姫様のゴーイングマイウェイが始まりましたねー。すみません、さん」
「いや、わたしまだ仕事が・・・!うぎゃあああああ、だ、ちょ、引っ張ると浮いちゃいます!」
「ぐだぐだ言わない!さぁ、行くよ!」



手をぐいっと掴まれたと思ったら、勢いよく引っ張られると同時に身体に広がる浮遊感。
ああああ、やばいってば、ちょっと勢いが良いと浮いてしまうのは私の隠さなくてはいけない所。 精霊だという事がバレたら、なんて考えたくもない!
ああー凄く天気が良いわぁーなんて砂漠のど真ん中に位置するキングダムでは当たり前な事なのに、そう 思わないと今、この状況から目を背ける事が出来ない。

だというのに、アスパシア姫さまはお構いなし、ウンバラも見守るだけに徹している。こいつ、「すみません」とか 言っておいて、まったく止める気ないな・・・!まぁ精霊なんてそんなもんだ、自分を含め、だけれど。

この2人組みに出会ってしまったが為に、今日の午後はつぶすこととなりそうだ。
・・・・・・・・・・ま、いっか。これから面白くなりそうだもの。結局運命からは逃げ出せたりなんか しないのだから。








浮遊感エクスプレス!











(100603)