「学園のマドンナからデートのお誘いなんて!」 「ちょーーーっと待ったぁああ!!!」 「?!」 「今のは聞き捨てなりませんね、先生!!!ちょっと、烏丸くん?ぼけっとしてないで!整列よ!」 「はぁ?なんで俺まで・・・・てかなんで整列」 「先輩の前ですよ?当たり前です!」 「俺もお前から見たら、先輩だと思うんだけど」 デートのお誘いなど!さすが先輩!先生さえも魅了するその高貴なお姿・・・はぁ・・・! うっとりと手を絡めてそう語る奴の姿はかなり怪しい。自分の世界に入るのは百歩譲っていいとしても、 いいとしても・・・・その世界に他の人を巻き込むのは止めた方がいいと思う。 自分の人格を疑われる事になるぞ、と眉をひそめてそう助言してもまるで聞く耳をもたない。 はぁ・・・・金持ちの感覚についていけないなんてそんなレベルではなかったのだ。彼女は わりと、こっち寄りのこういってはなんだが、平民よりの人間であるから、 ちょこちょこつるむ事があったのに、まさかこんな一面を隠し持っていただなんて、俺だって知らなかったぞ。 実際に姫乃も、先生もぽかんとしている。や、そうだろう、かなり怪しい上に、かなりおかしい(頭が) 「なんですって、烏丸くん!酷いじゃないですか・・・本当の事を言ってるだけなのに!」 「そうですよ、お嬢様が素敵で高貴でさすがなんて、当たり前の事です!!!」 「お前が出てくるとめんどくさくなるから、止めてくれ」 「真之介、恥ずかしいからやめなさい」 「はい!お嬢様!」 「やーでもね、柾木くんの言っている事よくわかるよ・・・今度じっくり話し合いましょう・・・」 「ええ、もちろんです」 ここに変なタッグが結成されていた、かわした拳は力強くて、どうにもこうにも止める事はできやしない。 呆れ顔な俺と、呆気に取られる姫乃と、うんうん、と頷いている先生の3人は同じ気持ちを共有しているに違いない。 烏丸さん、いつも彼女と一緒で楽しそうですね、なんて姫乃に言われて、俺は少しげんなりとする。 いや、いつもは金持ちの話題とかにもならないし、わりといいやつだったはずなんだが、なんて言葉を 口にしようとしてこの状況ではそんな事なんにもならないと気が付き口を噤む。 先生にも苦労してるんだねぇ・・・と言われて、肩をぽんぽんと叩かれる。 や、もう苦労とかそういう次元ではなくてだな、なんて頭が痛くなるのも仕方がない事だろう。 「さん・・・」 「やだ、先輩ってば、呼び捨てで構いませんよ」 「いえ、でも・・・!」 ☆が飛びそうなほど軽快なリズムでウインクをばちりと決めるこの後輩は、わりとそこそこ普通に一般レベルのかわいいを 保っているのに、いまやその言動でかなりのマイナスである。 真之介、と姫乃が言いそれに反応した柾木がこちらを、と差し出したものはお菓子である。焼き菓子だ。 見るからに高そうで、それはパッケージから予想される。 「これ、この前美味しかったので、さんにも」 「先輩!!!大好きです!!!!」 「・・・菓子につられんなよ」 「烏丸くん?なにか?」 今まで一番熱のこもった大好きだったな。 隣を見れば多分同じ事を思っていたのであろう先生が頷く。 「そういや昼ごはんの時に食堂のおばさんが嘆いてたぞー。あーっと言う間に平らげちゃうのよ、あの子って」 「・・・・・・・お前・・・」 「なんかおなかすいちゃうんですよね、一応その前に私早弁してるんですけど」 「早、弁・・・?」 「お嬢様は知らなくて良い事です」 「先生のご飯もおいしくって、ついつい食べ過ぎちゃうんですよ、あれって持ちかえりとか」 「ないぞ」 「ないんですか・・・そうですか」 「ランチと言わず午後のお茶の時間まで販売していてくれたらいいんですけどね・・・」 「今度先生の家庭菜園手伝ってくれたら、好きなの持ってっていいぞー」 「ほんとですか!是非、ぜひぜひぜひやります!いえ、やらせてください!」 「本当に、さんは食べ物に命を掛けているのね」 「はい!だって大好きなものですからっ!」 穏やかにそうに姫乃が言えば、それに応える様に輝くような笑顔を姫乃に向ける。 純粋な好意ってこんなものを言うのだろうな、と思ってしまったりする自分が少し悔しい。裏表のない素直な 人間は案外いるようで、いないものだから。 そんな事を考えていれば、うっと姫乃が心臓の当たりを押さえている。柾木が慌てて寄れば大丈夫、と 返事をしているが、本当に大丈夫だろうか。 そんなことを考えているとぎゅっと拳を握った姫乃がくるっとに向き直って声高々に宣言するように口を開いた。 「さん、今度私と、早弁というものをやってくれませんか?」 「先輩と・・・?もちろん!!先輩となら大歓迎です!!」 「お嬢様何を!?」 「真之介、止めても無駄よ。この早弁というものを攻略しなくてはいけないような気持ちが」 「おい・・あんまり無理すんなよ」 「そうだぞー、姫乃が早弁って・・・」 「・・・好きな方の好きな物は把握しておきたいのです、いけませんか?」 「先輩・・・っ!さすが、ステキ!あふれ出るオーラが止まらない!」 姫乃を崇め奉る生徒はたくさんいるけれど、それにしても直球ストレートな奴はこいつぐらいなものだろう。 くらり、と傾く姫乃の身体を慌てて支えに走ったのは、無理もない。 大丈夫だろうか、なんて本日何度思ったか分からないけれど、それでも思わずにはいられなかったのだった。 砕け散るハートを守り抜け (1) |