今日はいい天気である。寒さの中にも冬らしい穏やかな暖かさが感じられるそんな日だ。 私、はお茶をすすって、息をはぁ、と吐いた。
午前中にやるべきことは済ましてしまったし、特にやる事もない。どうするべきか・・・。 そんな老後を迎えたおばあさんみたいな私とは対照的に反対側の廊下ではばたばたと走り回る輩がいっぱいだ。 多分訓練か何かで忙しいのだろう。 それをぼーっと見つめているだけでも結構楽しい。 ぱたぱたと洗濯物がはためく音がして、なんだか平和だなぁ、なんて考えてしまう。 実際はちっとも平和ではないし、色々大変なわけではあったが。


お茶を置いて、後ろに寝転んでみる。あー・・・気持ち良いなぁー・・・。 床が太陽の熱によって暖まってかなり居心地が良い。
今日の夕飯は何にしようか、なんてかなり主婦じみているけれどそれもここに来てからは 恒例の考え事になった。まさか、ここでハンバーグとかは無理がありすぎるしなぁ。 なんとか煮物やら焼き魚やらで乗り切ってきたけど、そろそろ料理のレパートリーも増やさなければ ならないかもしれない。なにせここにはよく食べる人たちばかりなのだから。


「あれ?何してるの」
「・・・!」


そんなころを思っているといきなり背後から沖田さんが現れた。さすがに幹部の人を目の前にして寝っ転がっている訳にも いかないので、起き上がろうとしたが、それは片手だけでやんわりと遮られて、 沖田さん自身も隣へ寝っ転がる。
元々暇があれば構ってくれる人ではあるが、猫のような気まぐれさで 現れるので、いつもびっくりする。だって、気配もなく近寄られたらなぁ・・・。


「午後は暇なので、こうしてまったりしてたわけです」
「ふーん、良い身分だね。僕はくたくただよ」
「ええ、おかげ様で。沖田さん、お疲れ様です」
「本当にね。ああ、喉が渇いてきちゃった。いっそちゃんの入れたお茶でもいいから何か飲みたいなぁ」
「沖田さん、お茶持ってきますね・・・私が入れたお茶なんかですけど」
「うん、もらおうかな」


かなり皮肉をこめて言ってやったが、さすがは沖田さん。ちっとも気にしていない。
笑顔で答える沖田さんは今日はなんだか機嫌が良いみたいだ。 私は内心ほっと胸をなでおろす。いやはや、機嫌が悪い時の沖田さんほど近寄りたくないものはない。 前に沖田さんが夕飯の時に見当たらなくて放っておいた時なんて、超絶機嫌が悪かった。 多少は免疫が付いた私はまだ良かったものの、まだ来たばかりで沖田さんの不機嫌に慣れていない 千鶴ちゃんはかなり可哀相だった。ご飯も喉を通らないとはこのことか。 周りはそんなことは気にせずにご飯の取り合いをしているわけだし、その様子に気がついていたのは 私ぐらいのものだったかもしれない。あれだ、気遣う精神がないとかそんな感じ、っていうか 多分ご飯に気を取られて気遣うことを忘れているといった感じか。原田さんや斎藤さん、土方さんあたりは これには当てはまらないけれど。
千鶴ちゃんは優しくて、いい子で、たまに私の仕事も手伝ってくれる。ああ、こういう優しい 心を忘れてはいけないよね。沖田さんにも見習って欲しいくらいに良い子すぎる。屯所内では限られたオアシスだ。 良い子な沖田さんもそれはそれで鳥肌ものだけど。


そんな事を思いながらお茶を一杯注いで戻ってくるとなんと沖田さんは寝ていた。
人にお茶注がせておいてこのやろう・・・!とか 思ったけれど口に出して言うのはさすがに怖いのでそれは心の中だけに留めておく事にする。
やっぱりここは太陽がぽかぽかとして暖かい し、寝てしまいたくなる気持ちもとても分かるのだけど。 私はそっと笑って、沖田さんの肩に寒くないように掛け布団をかけた。 そしてまた一息つく。やれやれこのお茶どうしようかな「あ、ー!」

私を呼ぶ声と共に、どうやらうるさい輩がこちらへ走ってきたようだ。 まぁ微笑ましい気持ちになるのは確かなのだけれど、隣で寝ている沖田さんの ことを考えると静かに寄ってきて欲しいというのが私の本音だ。だって沖田さんって、絶対寝起き不機嫌っぽいし。


「藤堂さん、しーっ!」
「なんだよ、!しーって!」
「だからしー!ですってば。ゆっくり歩いてきてください、沖田さんが起きますから」
「総司が?・・・なんでここに。午後からは巡察だったはずだぞ?!」
「ああ、またサボったんじゃないですかね。沖田さんならやりかねません」
「そっかー!もそう思うよなぁ、確かにここ最近サボりが増えてる気がするけど」
「寒いから出たくないんじゃないですか。ほら、猫っぽいし」


そっかー、でもまぁ気持ちは分かるな、とかなんとか呟きながらも藤堂さんは私の隣に 腰を下ろした。せっかくなので、さっき沖田さんのためにもわざわざ持ってきたお茶を 藤堂さんに勧める。


「ありがとな、あ、オレさ、のために団子持ってきたんだよ、ほら!」
「わー!おいしそう、ありがとうございます、藤堂さん!」
「べ、別に・・・お礼を言われるほどの事じゃないって!」
「このお団子、今おいしいって人気ですもんねー。ずっと食べたかったんですよ!」
「そ、そうか?まぁこれくらいはな!」
「平助、それは俺の台詞じゃないか?」
「あら、原田さん、こんにちは」
「おう、
「げ、左之さん!なんでここに!」
「げ、ってそりゃねぇだろ?に持っていく土産、俺が選んだっていうのに」
「そうなんですか?それはまた、ありがとうございます、原田さん」
「・・・で、でも!土産を持っていこうと思ったのはオレが先だったんだからな!」
「はいはい、分かってますよ。もちろん藤堂さんにも感謝してますってば」
「うう・・・すっかり左之さんに手柄奪われちまったよ・・・」
「おいおい、先に奪おうとしてたのはどっちだよ、平助」


何回見てもこの2人のやりとりは笑える。仲良しな2人だから出来ることだ。
軽く藤堂さんを小突いてからその隣に腰を下ろした原田さんは私を見てにっこりと笑った。 あー、本当にいい人だ。気遣いも完璧だし、これはモテるといってもしょうがない。 こういう人は女の人の方が放っておかないだろう。
あと1人揃えばいつものトリオが完成するのだけれど・・・あ、来た。しかも走って。屯所内で1番よく食べる人物のご登場だ。 静かに!っと1回言うと不思議そうな顔をしながらもゆっくりと歩きながらこちらへ寄ってきた。


「永倉さん、こんにちは」
「お、ちゃん!今日も良い天気だなぁ」
「そうですね、永倉さんもお元気そうで」
「今日もちゃんの飯が食えると思ったら元気になってくるんだよ」
「まぁ、お上手ですね。じゃあ今日はいつもいっぱい食べてくれる永倉さんのために夕飯作りますね」
「本当か?!そりゃ、嬉しいな!聞いたか、左之、平助!羨ましいだろ!」
「本当も何も1番食べるのはお前なんだから、結果的にいえばそういう事になるだろうよ」
「ってか新八っつぁんがに手間掛けさせてんだろー?」
「な、なんなんだよ、お前ら!ちょっと冷たすぎじゃねーか?!」
「ふ・・・あはははっ!さすが仲がよろしいですね。ちょっと羨ましいくらい」


そう言って笑う私を見て、仲良しトリオは複雑そうな顔をしたがなんとか持ち直したらしい。
屯所内ではあまり同年代の子もいないわけだし、仲良くできる人がいるということは とても良いことだと思うのだが。
千鶴ちゃんはかなり良い子だが、土方さんにむやみに 歩き回るなと言われているみたいで、私もなかなか誘い出す事を躊躇ってしまうし。 あんなに良い子な訳だから、もうとっくに監視命令とかは降りているはずだけれど、 真面目な千鶴ちゃんは土方さんの言い付けをきちんと守っている。


「仲良しって・・・新八っつぁんと一緒にされちゃーたまんねぇよなぁ」
「何だと?どういう意味だ、平助!」
「何ってそのまんまの意味だよ」
「そうだぜ、。心配しなくても、俺とお前だって十分仲が良いと思うぞ」
「ええええ?!なんなの左之さん!またいいとこ持ってかれたぜ・・・も、もちろんオレもだからな、!」
「2人してなんなんだよ、お、俺だってそう思ってるさ!なぁ、ちゃん」
「あ、本当ですか?ありがとうございます。嬉しいです」
「おう、素直なのは良いことだぜ」


左之さんの大きな手が私の頭を包むように、ぽんぽんと撫でてくれた。 本当にあったかい人たちだなぁ、と柄にもなく感激していた私は、背後の敵に気が付かなかった。
は?!とか思う暇もなく、一瞬の間に首に手を回され引き寄せられる。 そして胸板に押し付けられるようにして抱きしめられる。
突然の事で、ぐえっ?!とか声を出しそうになったが、ここは一応女子として出してはならない声だろうと、 必死に留める。ちょ、息苦しいんですけど!抗議として自分の首に回っている手をぱんぱん叩くが、 相手はなんとも思ってないようである。


「総司!てめぇ、起きてたのかよ!」
「おいおい、が苦しそうだから離してやれって」
「そーだぜ!つか何やってんだよ!」
「みんながうるさいから起きたんだよ」
「お、沖田さん!苦し・・・苦しいですってば!」


私の声なんて聞こえていないとばかりに、どんどんきつくなる腕の力。一体全体、なんだというのだろう。 そしてやっぱり沖田さんは寝起きはかなり機嫌が悪くなるらしい。なんだか顔を見なくても自分の頭の上の方から、 不穏な空気が漂ってくるのが分かる。うへぇ・・・これはマズイ展開だ。舌打ちしたくなる気持ちを抑えつつ、 とりあえず1番頼りになる原田さんへと視線を向ける。お願いだから、なんとかしてくれ。祈るような気持ちは 見事に打ち落とされ、原田さんは目を背けた。酷い・・・!いくらかかわりたくない空気だからってそれはないのでは。 とにかくこれで自分のことは自分でやるしかなくなった。もとより他の2人には期待していない。ごめん。


「あの、沖田さん?寝ぼけてます?」
「寝ぼけ?あはは、ちゃんは面白いこと言うね」
「・・・じゃあなんなんですか」
「別に?ただちゃんは僕のお気に入りなんだから手を出さないでくれるかな」
「どどどどど、どーしたんですか、本当に!沖田さん、そんなこと初めて聞きました!」
「当たり前だよ。だって初めて言ったからね。それよりさ、」
「なんですか?」
「さっき僕が持ってきてって言ったお茶は?」
「げ、あ、あの・・・それは、」


すっかり忘れてた。沖田さんのお茶はいまや藤堂さんの手元にある。 その現実から目を逸らしたくなるも、こうがっちりホールドされていてはそれも敵わない。 あー、だとかうーだとか散々渋ったが、それも沖田さんのにっこりとした機嫌とは正反対な笑顔を見て、言葉を失う。


「すみません・・・眠っていたようでしたので藤堂さんに」
「はぁ?!オレ?もしかしてこれ?!」
「ふぅん、そう。君にとって僕はそんな存在だったんだね・・・」
「は?!そんな存在って何ですか!」
「2人で楽しくお茶を飲んでいたのに、僕が寝たら今度は平助か・・・」
「なに、誤解を招くような事言ってるんですか?!ちょ、藤堂さん、違いますからね!」
「はいはい、じゃあこっち来てね。ちゃんにはいっぱい言いたいことがあるんだから」
「・・・!」


声にならない叫びとはこのことだ。すっくと立った沖田さんは意地悪そうな笑顔を浮かべたまま、 私を引きずりながら廊下を歩いていく。抵抗するが、それも無理。そんな私を見送る3人は 一応申し訳なさそうな顔をしているものの、どうしようもない、と言った感じだ。 おいおいおいおい!幹部なんだから、もう少し頑張ってくれてもいいんじゃないの?!
そう思ったが、もう3人の姿はもうない。これだから機嫌が悪い沖田さんとは関わりたくなかったんだよー・・・・。 どうにか離れてくれないか、と思って見上げた沖田さんの表情は、私が想像していたものよりもずっと楽しそう だった。・・・・・・・・・一体何故。








まだまだ分からない彼の本音
「めちゃめちゃいい笑顔だったな・・・総司」
「ああ、俺たち空気のような扱いだったよな・・・」
「あーもう!あとでに謝らないと!」









(090112)