目を瞑っていても聞こえるあなたの声は、まだ私の中で残ってる。
この世の中、時代と共に消えていく者はたくさんいる。
ずっとずっとこの幸せが続くとは限らないのだ、と言い聞かせてきたけれど、 いざ自分がそこに立たされるとなると感じることは違う。



こうやって1人歩いていると、思い出す。
一さんと歩いた道、一緒に見た景色、それは数え切れないくらいの 想いを私にくれた。
桜を見上げていた一さんの目が、私を見るだけで、本当に、胸がぎゅっとなるような 感覚に襲われることも、もう今はない。隣にいた一さんはもういないから。



無口で、無表情で、初めて会ったときはなんて読めない人なんだろうと思った。
でも、それは違って。本当はあったかい人で、涙が出そうになるくらいに優しい 人。私が落ち込んでいるときは、どこで察知したのかいつのまにか傍にいてくれた。



一さんの重荷になりたくなくて、守られるだけじゃなくて、守れるようにと握った刃。
全て分かっていたのか、刃を握りだした私を優しく見つめて頭をそっとなでてくれたこと、忘れない。
いつもいつも私はもらってばかりで、何一つ返すことなんて出来なくて、せめて盾くらいにはなれると、 鬼と対峙した彼の前に飛び出した時はさすがに、彼も驚いた顔してた。
それから、ずっと眠って、意識が戻らなくて、目が覚めたときはすごく平穏な時が流れていた。 太陽の光が障子を透かして、私の部屋を照らしていた。あの時の戦いなんて感じさせないくらいに。


「・・・生きてる・・・・」


手を動かしてみて、息を大きく吐いて、ちゃんと生きていることを確かめる。
その時だ、障子の向こう側からどたばたと大きな足音が聞こえてきたのは。かなりいい音がして 障子が開き、太陽の光と共に飛び込んできた一さんはこれまで見たことがないくらい酷い顔してた。



・・・起きたのか・・・っ!」
「ええ、生きているみたいですね・・・なんとか」


へらり、と笑った私の頬を張った音は、しん、としていた部屋によく響いた。
唖然とする私の前で、膝をついた一さんは苦しげに息を吐きながら言った。


「二度と・・・二度と、あんな真似はするな・・・!」
「・・・一さん、」
「あまり、心配させるな」


ぎゅっと一さんの腕が引き寄せるままに、抱き寄せられて、一瞬何が起こっているか分からなかった。
裾を握れば、彼の身体は小さく震えていた。私は名前を呼ぶことしか出来なかった。



今ならあの時の一さんの気持ち、痛いほど分かる。
大切な人を失うかもしれないって気持ちを私は嫌と言うほど味わったから。
そしてその時羅刹化した彼は、寿命がそう長くはないと知っていて、新撰組という「信じるもの」のために生きた。
私はといえば、想いを伝えることはなく、そのまま彼はまた巡ってきた桜が満開で花弁が空に広がったそんな日に消えた。



悲しくなるくらい好きで、どうしようもなく好きで。
涙と一緒に喉の奥へと飲み込んだ好きは、苦い想いを残しながらずっとずっと消えることはないのだろう。







淡く幸せだと、微笑む











(090301)