がばっと後ろから掛かるのは誰かの体重…お、重い! それと同時に持っていた御膳の上に乗っていた味噌汁やら焼き魚やらご飯やらが前方へ飛んでいった。 と同時に、それは前に立っていた永倉さんへとクリーンヒットした。 いっそ潔さを感じるなぁと思ってから、慌てて駆け寄るも、永倉さんは味噌汁やらご飯やらでとんでもない ことになっていた…。乾いた笑いが逆に怖い。 ワカメが顔に張り付いたままだからだろうか、一言で言ってしまえば不気味だ。 「す、すすすみません…!大丈夫…な訳ないですよね」 「あ、ああ。だ、大丈夫だ。別に何ともなってない、から」 「あはは、新八さんったら何ともないってことないでしょう」 「「…お前が言うな!」」 けろりとした顔でそう発言するのは、沖田さんである。というか原因はこの人しかいないんだけれど。 私の視線も難無くかわしてあはは、と笑っている。 「だってちゃんてば、面白いから、つい」 「つい、で味噌汁吹っ飛ばしたこっちの身にもなってくださいよ」 「ったく総司は…!」 「とりあえず、永倉さん、脱いでくださ、」 「えええ、ちゃん!?ちょい待て俺にも心の準備が…」 「…」 「洗濯しないと染みになっちゃうでしょう?味噌汁ってやっかいですよね・・・ごめんなさい」 「い、いや、ちゃんのせいじゃないしな。じゃあ…」 視線は私の後ろにいる沖田さんに注がれていたけれども、それを明確に言ってしまうのはやはり言いにくいらしく、 言葉を濁しながら、永倉さんは羽織を脱いだ。 御膳を端に置き永倉さんの着ていたものを受け取る。すみませんと言うと永倉さんは別にたいしたことないと軽く首を 振った。たいした事はあるだろうに、そう言ってくれる永倉さんの優しさが身に染みる。ああ、優しさっていいよね…! 疲れた体に染み渡るね…! 最近あまり優しさを感じた…というか災難続きだった私は感動して、しばらく永倉さんと見つ めあったままだった。 おおらかに笑う永倉さんを見ていると気持ちがだんだん浮いてくるような気がする。 そんな時に割って入るように沖田さんが口を挟む。 「はいはい新八さんも、いい加減にしてくれないかな?ちゃんもだよ」 「え…私なんか関係あります?今のは完全に一方的に沖田さんが悪かったですよ…ね、」 「そこまで言われちゃうとさすがの僕でも傷つくなぁ」 「そこまでって言うか、本当のこ、」 「…え?なぁに、ちゃん」 「お、おい総司!の顔が真っ青じゃねぇか!」 「…別になんにも言ってないんですけどね、僕は」 ※ 元はといえば、仲良く廊下で話している2人にいらいらとしてちょっかいを掛けたのだが、まったく 気づかない所にまたさらにいらつく。 自分が好意を持ってるって事に気が付かないのは、ただ単に鈍いからっていうだけじゃなく、 ちゃんが僕に好意を持っていないから。きっと僕がまさかちゃんの事を好きだとは考えてもみない、という事 なのだろう。 気に入っている事は確かなんだけれど、自覚するまでに色々やったからかなぁ。考えてみるとちゃんの 笑ってる顔…あんまり見た覚えがないな。 普通にしてたら笑うとは言っていたけど、僕の前で笑うちゃんは未だいない。 僕はちゃんの手に乗っかったままの新八さんの洗濯物をひょいと取り上げるとそのまま2人を残して歩きだした。 「えー…ちょ、沖田さん?」 「総司!それをどこに持ってくつもりだ!」 「永倉さん…あとで切り刻まれた着物発見しても泣かないでくださいね…沖田さんは容赦なくやる男ですよ」 「(ちゃん、総司をめちゃくちゃ警戒してんなぁ…無理ないけどよ)」 「永倉さん?どうかし、」 「頑張れよ」 「…?(頭ぽんぽんって…どうしたんだろ)」 「…いっ!!」 視線で人が殺せる訳はないのだが、沖田に限って言えば出来るような気がした。 立ち去ったかと思っていた沖田がこちらを窺う様も妙に怨みがたんまり篭っていそうだった。 多分洗濯物も彼女の手を煩わさないように、という心から来ているのだろうが、その元々の原因は沖田自身だ。 といえば不思議そうに首を傾げるだけだったが。 …気づかないって平和な事だと永倉は本日何回目か分からないため息をついた。 そのため息がそういうことだと気が付かないは慌てて「私が追いかけて取り返してきます!安心して、永倉さん!」と一言言ったかと思うと、 駆け出して行ってしまった。・・・・行動力がある良い子なんだけどなぁ、ただ鈍すぎるのがなぁ、と保護者のような 目で見てしまう自分がいて、永倉は慌てて首を左右に振った。 * 「で、ちゃん。これで何回目?」 「え、なにがですか?」 「なにがって決まってるでしょ。御膳をひっくり返した数だよ。まったく懲りないよね」 「あ、そうですね…ごめんなさい」 「別に良いけどね、土方さんの時は盛大に笑わせて貰ったから。でも僕の時も酷かったよね」 「冷奴が飛び散りましたもんね」 沖田さんの整った笑顔に冷奴が飛び散った時は息が止まりかけたというか実際止まった。 あの笑顔のままで冷奴が顔に張り付いている様は実に…実に恐ろしかった。 というか、必死に追いかけてきたのに、最初にその質問とは・・・どういうことだろうか。まだ根に持ってるとか? 疑問符ばかりとびかう私に、さらに沖田さんは疑問を投げかける。 「結局何回目になるのかな?」 「あぁ、えっと…沖田さん、平助くん、原田さん、土方さん…今の永倉さん…」 「あれ一くんだけまだひっくり返してないね」 「そりゃあ、斎藤さんには掛けないよう凄く気を付けていますからね!!」 「…へぇ、ふぅん、一くんはね。そうなんだ」 「は、い…?」 急に周りの温度が下がったのは気のせいだと思いたい。 だが、梅雨の季節になっただけあってじめじめして蒸し暑い気 候は吹っ飛び、涼しい空気が主に沖田さん中心に湧き出ている気がする。 「(いや、そんなまさか!ブリザードじゃあるまいし!)」 笑い飛ばしては見るものの、やはりそっと隣を見れば若干怖い笑みを見せている。ブリザード沖田と呼ばせて頂こう。 「(やっぱり私またなんか地雷踏んだのか…!沖田さんのスイッチは訳分からん!)」 「(一くんだけは違うのか…面白くない)」 しばしの沈黙(主に私がキツい)の後にようやく口を開いたかと思ったら、 「ちゃんは…好きな人とかいるの?」 「(あ、あれ?!なんでこの状況で女子高生みたいな話題を振るのかな?)ま、まぁ、そうですね…結構いますけど…」 「結構!?…ああ、うんまぁいいや(どうせみんなとか言うんだ、この子は)」 「はぁ…そうですか?」 「うん」 これ以上こういう会話をしても意味のない事だと分かっている。ちゃんは、どっかずれているところがあるから。 願うべくは好きな人の中に僕が含まれている事だけど…。 「…どうかしました?」 まぁ…ゆっくりで良いか。消えてしまう訳でもない。 訝しげに問う彼女ににっこりと笑ってやって から、そんな事を思った。 ゆっくりでもいいから どうか気付いて 「そうなんです。大変な騒ぎになったんですよ!」 「総司は面白がってはた迷惑な事をよくやるからな」 「まぁ…あれも慣れれば、…はっ!」 「どうした」 「いや最近斎藤さんといるとなにやら殺気を感じるんですよね…」 「そうか(総司だな…)」 「怖い世の中ですよね!」 「そうだな。背中を見せぬよう気を付けた方が良い」 「はい!分かりました」 左之さん新スチルを見ての妄想! (090630) |