箒で意味もなくずっと門の前を掃いていた時の事だった。 いつものように落ち葉が落ちてはそれを掃く、といったいつまでも終わりのない無駄な事を続けていた私は、 ふいに後ろから声を掛けられた。 振り向けば、なんてことない。飛脚のおにーさんであった。まぁ、現代で言う郵便屋だ。 そのおにーさんに愛想笑いをかましつつ受け取ったのは、綺麗な模様と良い香りが漂ってくる手紙であった。 なんか・・・高貴な方からの手紙って感じだけれど。 「きれー・・・」 これでも一応女という分類ではあるので、綺麗なものは好きだ。 思わず手を止めて日の光にそっと透かせてみれば、綺麗なすかし模様が浮かんだ。 この時代の人って本当に細やかで繊細な心遣いが出来る人ばかりなので、こういった品を取り扱うお店も多い。 じっと、思わず見入ってしまうほどに素晴らしい手紙だった。 ・・・と、そこまでぼーっとしてしまってから、誰か宛ての手紙を不躾に見てしまった事で、はっと目が覚めた。 人様の手紙を・・・!と思いつつも、こんな手紙を送ってくるのは誰だ?というのと受け取るのは誰だ?という 疑問に行き着いた。 ふむ、と思い差出人を見ようとひっくり返した途端、誰かに手紙をひったくられた。 後ろから手がにゅっと出てきたものだから、びっくりして箒を手放してしまいそうになったくらいだ。 「よ、。どーしたんだ」 「あれ、原田さん。どうしたんです、そんな顔して」 「そ、そんな顔ってなんだよ?」 「・・・そんな顔ですけど。で、その手紙、誰からです?」 「あー、まぁいいじゃねぇか。そんな事はよ」 思いっきり「やっべぇ!」って顔してるのに、いいじゃねぇか、って事はないと思うぞ。 とか思いつつ、じーっと見続けていると原田さんは焦り出した。あらら、いつも余裕綽々な百戦錬磨、原田さんが 慌てるなんて珍しいなぁ、とちょっと可笑しく思えて笑っていると後ろからまた声が掛かった。 今日は声をよく掛けられるなぁ、と思いつつ、原田さんから視線を外して後ろへと移す。 そこにはぶんぶんと元気よく手を振りながら、巡察から帰って来たのであろう平助くんがいた。 相変わらず元気が良く、声が大きい。平助くんの私を呼ぶ声で屋根に留まっていた鳥が飛んでいったぞ。 「ん?左之さんも一緒かぁー。なーんだてっきり出迎えに来てくれたのかと思った!」 「いやー、ここを掃こうかなぁと思って。出迎えに来たわけじゃないんですけどね」 「そっか、でもまぁが最初に出迎えてくれて、なんていうか・・・オレ、嬉しいから、うん」 「平助くん・・・。後ろの隊士さんが困ってるよ。平助くんが邪魔で門から中に入れない、って顔してる」 「・・・いや、いい。もう何も言うな!オレがみじめになるから!てか左之さん何笑ってんの!」 「あ、ごめん。なんか言ってた?いや、本当隊士さんが気になっちゃって、ごめんごめん」 謝ると平助くんは何故かへこんだ様子で頭を軽く掻いた。 そしてその後に 隊士さんが通れるようなスペースを開けて私の隣へ並んだ。 いやぁ、素直な事は素晴らしい。隊士さんがほっとした様子でそこを通っていく。 「んで?何やってたんだよ、と左之さん」 「なんだ、気になるのか平助。・・・そうだよなぁ、うんうん」 「ばっ、ちょ!左之さんてば、余計な事言わないでくれよな!」 「ああ、平助くん。原田さんが気になる事を教えてくれなくて」 「は?・・・・えーと、それって?、まさか・・・左之さんが気になる、とか・・・?」 「気になる?まぁ、主に原田さん(宛ての手紙の差出人)が今は1番気になるね」 「・・・・!!!?」 え、なんです?その「うっそぉおお!」って言いたげな顔は。平助くんの顔が真っ青になる。 大丈夫か、秋だけど日が強くて熱射病とか?隣で座り込んでしまった平助くんを見て原田さんはちょっと勝ち誇った顔を している。心配になって一緒にしゃがみこんで声を掛けてみるけれど、放心状態で反応がない。 これ、やばい?大丈夫、これ、平助くん・・・ちょっと?あの?大丈夫? 頭を(主に平助くんの頭の中身が心配で)そっと撫でてやると、その肩が跳ねて、顔を思いっきり上げられた。むしろこっちがちょっと引くくらいの勢いである。 「・・・!」 「な、なに・・・?」 「オレと、その・・・げふっ!・・・いってーな!!なんだよ左之さん!」 「平助、まだまだ甘いな。ほらほら、どいたどいた!」 「ちょ、待ってってば!オレはまだ・・・!」 平助くんは立ち上がり、原田さんになにかを抗議していた様だけれど、勝てなかった様子で大人しくなった。 今までは平助くん、私・・・・・原田さん、という並びだったのが、平助くん、原田さん・・・私になった。 要するに平助くんは引き離されていった。隊服を強く引っ張られたせいか、少し伸びている。 あーあ、土方さんにまた怒られるぞー、と苦笑を洩らした。その時だった、今度は奥の方から誰かがやって来た。 あの体格は・・・永倉さんだ。まぁ、体格で永倉さんを判断した事はそっと黙っておこう。 「よぉ、なにやってんだ揃いも揃って!男ばっかで固まっちまってよ、・・・ってあれ、ちゃんもいたのか」 「最初からいましたよー。永倉さんこんにちは」 「お、おう、ごめんな。こいつらが壁みたいで気がつかなかったぜ」 「いいんですよ。小さい方がなにかと便利ですしね」 「そうか、気にしてないならいいんだけどよ。んでどうかしたのか?こんな所に溜まって」 「ああ、そうです、忘れる所だった!原田さん宛てのお手紙の差出人を聞こうと思ってたんでした!」 「え?左之さん、の手紙・・・の、差出人・・・?、気になるってそれの事か!」 「そうだけど・・・どうかしたの、平助くん」 「よ、良かった・・・・って、な、なんでも!なんでもない!!」 「話がどうも掴めないんだが・・・左之の手紙ってこれか、ちゃん」 「・・・あ、てめ、新八!いつの間に!」 「あ、そうです、その手紙ですー。知りたかったんです!」 「これ島原からの手紙じゃん!」 「馬鹿、平助・・・!」 原田さんの悲痛な叫びで、「ははぁ」としたり顔な永倉さんである。 なにが分かったのかは分からないが、永倉さんのこういう顔は大抵よく分かっていない時の顔なので嫌な予感がする。 平助くんはなにが良かったのか知らないけれど、元気を取り戻したようだ。 良く分からない事が多すぎる。けれど、まぁ、別にいっか。私が困る訳じゃない。 「島原・・・いいよなぁ、左之は!いっつもいっつも芸者のおねーさんに人気で!」 「そうだよなぁ。左之さんばっか、いつもずるいよなぁ」 「お前ら・・・。、いいか、別に俺はいつも貰ってるとかそういう事はないぞ」 「はぁ・・そうなんです?あ、そうそう午前中に平助くんに同じような手紙が来てたよ」 「お、オレ?!な、なんでこんなタイミングで・・・!ちょ、。違う!違うからな」 「何が違うの?えーと、ほらほらこれ。凄い綺麗な手紙・・・羨ましいな」 「うらやま・・・あれ。あの・・・?」 「はい?」 「気になるのは手紙の形状だけか・・・?」 「ええ。だってこんな綺麗な手紙を見た事が無かったから、すごく珍しくて」 「・・・ふぅ」 「・・・はぁ」 「くそ、お前ら2人だけかよ・・・そうだよ、どうせ俺は・・・・、」 あれれ、永倉さんだけ手紙が来ないせいで、拗ねている。というかネガティブモードになっている。 いつものはつらつとした感じはなりを潜めてしまい、しゅんとしている。 そうかーやっぱこの時代は手紙くらいしか連絡手段がないもんなぁ。そりゃなにも連絡なかったらへこむわ。 と思う。でもやっぱり大の男がそのことでへこんでいると何故か可愛く思えてくる。 私は永倉さんを見上げながら、少し笑って口を開いた。 「永倉さん。手紙が来なくて寂しくても、私がいるじゃないですか。元気出してくださいよ」 「「は?!!!?」」 何故か声を掛けた人からではなく別の人たちからの声が聞こえた。耳がキーンとした。 そして何故か黙りこくったままの永倉さん。な、なに?私変な事言った? 滅多におろおろしない私だけれど、その時ばかりは周りの変な空気に包まれて焦って来た。 そしてそれに比例するように、みるみる赤くなる永倉さんの顔。 あれ、原因は・・・・私? 棚から飛んで跳ねて牡丹餅 「・・・・!!(なん、なんなんだ!お、俺か?まさか俺?夢なのか、これは!)」 「・・・・!!(なん、なんで、新八っつあん?!どういうこと、どういうことだよ、!)」 「・・・・!!(なん、なんだっていうんだ、この状況・・・。まさか新八とは・・・嘘だろ・・・)」 「・・・・・・・・(3人とも百面相してる。なに考えてんだろ?面白いなぁ・・・)」 (0901025) |