「だぁああっ、なんで左之ばっかり!」
「そんな事言ったって仕方がないだろ」
「それで諦められるんなら、うらやましがったりしねぇよ!」
「新八っつあん、そういうところ大人げねぇなぁ」
「平助、お前、言ったな・・・!」
「いだだだ、やめろよ、新八っつあん!」



部屋の掃除をして、いらない書物を束ねて持っていく時に、そんな声が聞こえた。


慌てて裏へまわってみると、丁度平助くんが永倉さんにヘッドロックをかまされているところだった。
平助くんの顔は赤から白になり最終的に青になった。・・・ってのんきに見てる場合じゃなかった! と3人の元へと走る。原田さんは苦笑いである。止めてあげてくださいな!



「永倉さん?平助くんが青くなってますよ。離してあげてください」
「お、ちゃん」
「・・・ぶはっ、たく、新八っつあんは馬鹿力なんだから勘弁してくれよなー。、助かったよ」
「いえいえ、死にそうだったもので、ついつい口出してしまいました」
「おー、悪ぃな、平助」
「全然悪いと思ってねぇ!!」
「まぁまぁそこまでにしとけよ。が驚いてるぞ」
「元はと言えば左之のせいだ!」



またその言葉を皮切りに、3人の言い争いが始まってしまった。あらら、せっかく止めたのにまたしても 逆戻りである。まぁ、この人たちはこの掛け合いがすごく楽しいのだろうし、放っておこうか。
と踵を返そうとした時に、手の中の重みがすっぽりと抜けた。
あれ?と思って見上げてみればにっこりとほほ笑む原田さんの姿。さっきの掛け合いからはきっとうまく 抜け出したのだろう。そういうの上手いもんなぁ・・・。



「持ってやる。門の前まで持ってけばいいだろ?」
「はぁ、わざわざ丁寧にすみません。助かります」
「ああああああーっ!ちょ、新八っつあん、オレに構ってる場合じゃねぇって!ほら!」
「ん?・・・・・・だぁあああ、ちょ、待て左之!そういう力仕事は俺の得意分野だ!」



喚きながらこっちへ向かってくる2人に唖然とした表情を晒せば、原田さんは少し笑って、 「あいつら、男前度を競ってるんだってよ」と小さく零した。
なるほど、だからあんなどうでも・・・いやいや、男の人にとっては大事なんだろう、そんな事を 争っていたのか。しかし全てを理解したその今でも唖然とした表情は崩せない。 むしろもっと唖然というか・・・呆れた。
今の時点で最も男前なのは、・・・・うん、言わなくても分かるな。うん。
そういう風だからきっと悔しくなってしまうんだろう。どんまい。



「ほらっ、貸せ!左之、」
「新八、お前なぁ・・・」
「ほんと皆さんすみません、ありがとうございます」
「いいって、どうせ力しか自慢できないんだから、こういう時くらい花もたせてやんねぇとな」
「そうだって。が気にすることじゃないし!」



平助くんの満面の笑みである。
いいのか、永倉さんに持たせている訳だけれど、そこは気にしないと言わんばかりの笑顔。
すがすがしささえ感じる。そこは合わせてへらりと笑っておく。
そして その視線をそのまま永倉さんに持っていくと、なにかを期待されているような目で見られる。 じー・・・・じじじー・・・視線がつらいぞ。なに、なんなんだ。
一度逸らした視線をもう一度頑張って合わせてみる。



ちゃん、」
「な、なんでしょう?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・えと」
も無理して付き合わなくていいんだぞ」
「まーた新八っつあん、馬鹿な事考えてるんだよ」



くしゃっと髪をなでる原田さんに横に並ぶ平助くん。前を行く永倉さんの表情がちょっと曇った。
そして見つめられる。な、なにか言わなければいけない雰囲気・・・!永倉さんの自慢な所は・・・。 ぱんっと手を合わせて答える。



「え、えーと永倉さん。力持ちですね」
「おうよ、これは俺の自慢だからな!これくらい軽い軽い!」



嬉しそうだが、いまいちだ。ええーと他には・・・。
はっ、そうだ。これで正解。ファイナルアンサーに違いない!



「永倉さん、力持ちでさらに格好良いですね!」
「・・・・」



あれ、無反応で固まってしまった。
へ?え?と左右を固める原田さんと平助くんを見れば、あちゃーという顔をしている。
束ねた書物を持った手が伸びてきたかと思えば、脇に手を差しいれられ、そのまま浮遊感。 ん、浮遊感? 疑問に思う間もなく、あっという間の事だった。



ちゃんはほんっとうにいい子だなぁ!俺は感動しちまった」
「へ?は、はぁ、それは何よりです・・・ははは」



どこかの家族ドラマであるような、くるくるくるーと一緒に回る私と永倉さん。
というか私は振りまわされてるんだけど。そして止めようがないんだけれど。 景色がくるくると動いて、めまぐるしい。
やっと止まったと思ったら、そのまま抱えられる。



「ほーら、どうだ。俺はちゃんに格好良いと言われた!」
「ああ・・・良かったな・・・そんなこと言ってくれるのは逆にぐらいだろうけどな」
「・・・・なーんか、むなしくなってきたな・・・てか新八っつあん、離せよ!」
「ふははは、羨ましいか、平助ぇええ!」
「くそーっ!子供扱いしやがって!」



永倉さんの下でぴょんぴょん跳ねる平助くんは、可愛かった。
しかし永倉さんとの差で、私には手が届かないようだ。くるくる動き回る永倉さんを、追いかける平助くん。 うわぁーっははは。なんだか巻き込まれ出した。どうしよう。この状況。 自分では降りたくても降りれないんだけどもね。



この後束ねていた書物が、永倉さんの早さについていけなくてほどけて周りに飛び散り、 それが、こともあろうに土方さんの顔面に直撃したりして、その日は4人で夕飯抜きの刑に処されたのだった。

私、あんまり悪くないと思うな、と思っていたら皆が皆そんな表情で、それがバレて、土方さんの説教を さらに受けたのだった。








不用意な一言
「あれ、なにちゃん、新八さんに抱えられてるの?」
「はっ!抱えてる事を忘れてた、ごめんな、ちゃん!」
「別に大丈夫ですよ、ただ目がくるくるします・・・」
「よーし、じゃあまた今度な!」
「いや、・・・・あれは、・・・もういいです」
「あはは、新八さんふられてるー」






3周年記念計画。「いつものオールの感じで、新八本命」で海さんから。リクエストありがとうございました!
もっともっと永倉のお話書きたいです!増えればいいのに・・・!

(100611)