「うわ、沖田さん」 「なに、その顔。ほんと酷いなぁ」 「・・・ええと、いいお天気ですね!」 「いや、それ言われても別に変わらないからね。ちゃん」 非番の日だったらしく、沖田さんは着物の上にゆるく羽織っただけの大変見た目的には寒々しい格好で 私の前に現れた。 私はといえば、非番もなにもあったもんではない雑用なので、いつも通りに動きやすい服装であっちへこっちへと 走りまわっていた矢先の出来事であった。 「今日も忙しそうだね、ちゃん」 「沖田さんは・・・・ええと」 「困るくらいなら別に言わなくてもいいよ。大体分かるから」 「そうですか。暇そうですね」 「言わなくても良いってば」 苦笑にも見える笑顔で沖田さんは笑って見せる。 いつものにやにやとした笑顔じゃない事に気が付いて、少し違和感を感じる。 なんか、おかしい。沖田さんらしくない笑顔。ええ、ああいや、”沖田さんらしくない”なんて沖田さんを全て 知っているわけでもない私にはまだまだ分からない事なんだけど。 少しむずむずともするこの感情を抱えながら、そして両腕には一杯の洗濯物を抱えながらそんな事を考える。 どうしたんだろうか?沖田さんも私の前に立ったまま、考え込んでしまった私をじっと見つめている。 っていうか、あの、すっごい見られてるんですけど。頭のてっぺんがじりじりしてくるほどに。 「ちゃん、どうしたの?」 「どうしたのと言えば沖田さんの方ですよ。なんか可笑しくないですか?」 「・・・・うーん、別に可笑しな所なんてない、はずだけど?」 「そうですか・・・?なんか、」 「っ!・・・・・っと、」 「沖田さん!」 首をこてりと傾げてみて沖田さんを凝視して見ると、いつも飄々と笑っている沖田さんの目尻が少し赤い。 それでもなお普通だと言い張る沖田さんを見つめていると、くらりと身体が前のめりになる。 慌てて洗濯物を放り投げて私に向かって倒れてくる身体を支える。 「大丈夫だってば、」 「もう!なんか可笑しいと思ったら熱あるじゃないですか!薬は飲んだんです?」 「苦いの嫌だ・・・・」 好き嫌い言ってる場合じゃないでしょうが!と言うと、だって、とだだをこねたように俯いた顔を上げないで小さく呟く沖田さん。 そんな格好してるから風邪をひく事になるんだ、と思いながらしだれかかってくる沖田さんを必死に支え続けた。 なんとか肩に沖田さんの腕をまわして、担いで沖田さんの部屋まで行く。沖田さんと私の身長差だと、沖田さんの 足が引きずられてしまうんだけれど、この際仕方がない!緊急事態だ! ずりずりと傍から見ればかなり異様な光景だったけれど、それでも必死に引きずって沖田さんの自室までたどり着く。 比較的近い場所で沖田さんに出くわして良かった・・・!これが遠かったら永倉さんとかに頼まないとだめだったかも しれないしね。 障子を開ければ、確かに布団が敷いてあり熱があり寝てたという痕跡が残っている。 なんで出歩いたりするかなぁ、と思い今度はこっちが苦笑をもらしてしまう。 よっこらせ、と少し年寄りくさい声を出しながら沖田さんを横にする。 布団を掛けてやりながらふと枕元を見ると、誰かが持ってきたのか薬と水が置いてあった。 これは本当に薬が嫌で逃げたんだな、と妙な確信が自分の中で沸き上がった。うん、絶対そうだ。 「もう、ほら。はやく飲んじゃってくださいよ」 「・・・・やだ」 ぷいっと横を向いてこちらに背を向ける沖田さんに少しだけ 可愛いと思ってしまった事は内緒だ。けれど漏れる声から、私が笑っていると気が付いたらしい沖田さんは、 じとーっとした目で私を見上げた。 布団を引き上げて目だけ出して訴えてくる沖田さんに、いたたまれない気持ちを 感じながらも、緩む口元は押さえられない。 「なんで笑うのさ?」 「いや、だって、なんか沖田さんかわいいから・・・!」 「可愛い?心外だよ、そんなの」 布団が跳ね除けられる音がして、宙に浮いていた私の手がやや乱暴に引かれる。 立ち膝だった私の着物はずりっという音を立てて、そのまま私の身体は沖田さんへと傾いた。 「ちょ、なにするんです?」 「やだなぁ、ちゃんてば。病人相手に手を上げるなんて」 「全然病人じゃないじゃないですか!元気ですよね!」 「ただ寝てるだけってのもつまらないでしょ。せっかくだから、」 訂正:やはり沖田さんは可愛くなどない。 引き摺り込まれる熱 「おーい総司!見舞いに来てやったぞー」 「なんだ平助か。こんな良い所で来なくてもいいのに」 「なんだよその言い草は!オレがせっかく来てや・・・・ってなにやってんだ!お前!」 「見ての通りだけど?」 「う、うう、嘘だろーーっ?!!?馬鹿、離れろって!」 何気に前回の藤堂と続いてます。 (110218) |