「ええと、その団子5本包んでください。それとこの桜餅を」
「桜餅を1つ頂けますか?」
「え・・・?」



被った。
見事に被った。ここは盛況中の甘味処である。
来客に出すと言う茶菓子を買いに来た私は、目的の茶菓子と、自分の大好物である あと残りひとつの桜餅に目を付けて、それを包んでもらおうとしていた。
しかしその時涼やかな声が私の注文の声と被った。正確には桜餅の部分である。



「あ、っすみません、あと残りひとつとなりますので・・・」



お店の売り子さんがそう困った様に言うが、そんな事は分かっているのだ。
今現在、桜餅はあと残り1つのみ。それは分かっている。
横を見れば困った様に笑う美人の顔。これはもう譲るしかあるまい。



「どうぞ。言い使っているものは団子だけですので、桜餅はどうぞ貴女が」
「え?あの、よろしいのですか?」



疑問系の言葉と共に首を少し傾げて見せる様はとても可愛らしい。
しゃら、っと春らしい簪が音を立てる。桃色の着物に上品そうな笑みを浮かべる彼女は、 これはさぞかしおモテになるだろうなぁ、なんて思ってしまうのも仕方がないくらいだ。 なんせ自分には程遠いものであるのだから。
しかしどこかで見たような顔だ。なんだったけな。最近見たような気がするけど。誰だったっけ?



そうなにを隠そう私は今、男装中だったのである。
見た目は男の格好の私が、かわいらしい女の人に菓子を譲るのは当然の義である。 やはり女の人は大切にしてあげなければいけないといけない。
そう思ってそこは笑顔で譲ろうと、一回頷く。



「ありがとうございます」
「いえいえ。ここの桜餅美味しいですよね」
「ええ、私もここの桜餅を買ってくるよう上から言われまして」
「そうだったんですか。良かったですね」
「あの・・・譲って頂いたお礼がしたいのですが、お名前をお伺いしても?」
「え?別に気にしないでくだ、」
「そんな!それじゃ気が治まりません!」



意外に気が強い方なのか、ぐっと迫られる。
わぁお、これは男だったらちょっとくらっときちゃうかもなぁ、私は女だからまだ冷静に見れるけど。
とりあえず名前くらいは言っておいた方がいいかも。



「新選組のです」
「え・・・!」



少し驚いた様に目を見開く彼女は、口元を押さえた。
まぁ新選組ってあんまり評判良くないみたいだし、無理もないんだけど。
そう思って苦笑すると、彼女は慌てて違うんです、と口にした。



「新選組のさんですね、新選組・・・沖田さんがいらっしゃる所ですよね?」
「あれ?御存じなんですね」
「ええ・・・まぁ」



ここで沖田さんの名前が出てくるとは思わなかった私は少々面食らってしまった。
まぁ、土方さん、原田さんについで人気な人だし、知っていてもおかしくはないはず。
でも、知っているんですね?と確認してみると、結構ぞんざいな感じで投げ捨てるように返事を返される。 どことなく表情も暗い。 あんまり良い方で知っている訳じゃないのかな?
弄ばれたとか?からかわれたとか?・・・・・・・・ってこれは私じゃないか、おい。



「では、私はこれで失礼します」
「あ、はい。お気をつけて帰ってくださいね」
さん、私が襲われたら守って頂けますか?」
「え?もちろんですよ」
「ありがとうございます、そうなったらよろしくお願いしますね」
「そうならない事が一番ですけどね」
「くす、そうですね。では」



くすくす、と可愛らしい笑みをこぼしながら甘味処を後にする彼女を見送りながら、さっきの笑顔にまた 見覚えを感じながらも手をひらひらと振った。そうしてからある事実に行き当たった。

「あ・・・・・・・・・千鶴ちゃんに似てるんだ」



「ただいまー」
「おかえりなさい!」
「あ、千鶴ちゃん、今日千鶴ちゃんにそっくりな人見たよ」
「え?」
「姉妹だったりしてねー」
「えぇ?私にはいませんよ」
「そうだよね、またお礼に来てくれるっていうからその時にでも見れば分かるよ。ほんとそっくりだったからさ」















ー!お客さんだぞ、男だ」
「・・・・・・男?」
「なんか礼をしに来たって、」
「女じゃなくてですか?」
「んだと?俺が見間違えるとでも思うのかよ」
「はいはい、原田さんが女と男間違える訳ないですもんねーうんうん」
「こら、なんだその目は!」



にやにやとした目で私を呼びに来た原田さんは私が男装している事を知っているからか、男の来客と言う事で 変な勘ぐりをしたんだろう。でもあいにく先日助けたのは女の人だし、男ってなんで?
疑問ばっかりを巡らせながら、屯所の門の前まで行く。
そこには黒いマントと黒い洋装に身を包んだ確かに男の人が立っていた。



「こ、こんにちは・・・?」
「ああ、こんにちは」
「今日は男装していないんですね」
「へ?・・・・・あああ?!き、気付いてまし、いや、それより貴女も?!」
「あれは仕事の途中だっただけだよ」
「そ、そうなんですか・・・・わざわざどうも」
「こちらこそ。ほんと助かったよ、あの桜餅じゃないと食べてくんないから」
「お仕事無事に終わられたんですね、御苦労さまです」
「別に。なかなかくたばらなかったから大変だったけど」
「・・・・・・・・・・んん?!今不穏な事言いませんでした?」
「何にも言ってないよ。気のせい気のせい」



まさか相手も女装していたとはまったくもって気が付かなかった。
じゃああの時は本来の性別が逆になっていたのか。なんか変な感じ。
首を傾げると、にこ、と笑う彼女・・・今は彼か。 彼であってもその魅力は衰えない。これは並みの女じゃ叶わないぞ。



「そういえば貴方の名前お聞きしてませんでした」
「ああ、そういえば言ってなかったね、俺は、なぐ」
「南雲薫!!」



優雅に首をこてりと右に傾けて、南雲と叫ばれた彼は笑っている。 問題は誰が彼の名前を叫んで、なおかつ何故小刀が彼の頬をかすめて、門の柱に突き刺さったかと言う事である。
振り返ってみれば、鬼の形相の沖田さんがこちらへ走り寄ってきていた。
詰め寄るまでも待てず、と言った所ではと予測を立ててみるけれど、その南雲さんの前に立っていた私は 完全に無視されての攻撃だったため、あと数ミリずれていたら、私がお陀仏だったんじゃないか、なんて 冷や汗が背中を伝う。



「ちょ、ちょっ、ちょっと沖田さん!?刀投げるなんてどういう事ですか!危ないでしょ!」
「ふん、沖田か」
「なに、なんなの、なんで君がここにいる訳っ!」
「へっ、ちょっと沖田さん!?」
「君は下がっててよ!」
「なに、に指図しないでよ、こっち」
「え、南雲さん?!」



そのままの速度でこちらへつっこんできた沖田さんは、白く光る刀を抜き南雲さんに襲い掛かる。
それに応戦するように南雲さんも、どこからか出して来た刀で止める。
引かれた手は、そのままで南雲さんの後ろへ回る。南雲さんはいたって笑みを消さないけれど、それに 対して沖田さんは苛立ったように刀を打ちつけてくる。



「・・・・・なに、君。なんでそっちに回るのさ」
「いや、これは南雲さんにひっぱら」
「は、そんな事も分かんないの?は俺と来るんだよ」
「ちょっとそんな訳ないでしょ、冗談もいい加減にしないと殺しちゃうかも」
「やってみれば?出来る訳ないでしょ」
「そんな事言っていられるのも今のうちだよっ!」



きんきんかんかん刀で命のやり取りを始めた2人を茫然とつったって見てしまう私は、これがどこか夢の世界の話 なんじゃないかって思ってしまった。
それにしてもどうしてこうなったんだろう、と遠い目をしてしまう。 誰か助けてーどうにかして、この2人。



「こんな物騒な奴のどこがいいんだか、ねぇ?」
「はっ?え、ちょっと私に振らないでくださいよー!」
「君みたいに性格悪い人に言われたくはないねっ!」
「うーわ、出たよ、そうやって自分の事をすぐに棚に上げる。やだやだ」
「なに?!ちゃん、僕はそんな事ないよね!」
「だから、振らないでくださいってー!そもそもなんでさん、どうして私を知って・・・?」
「あの甘味処で初めて会った訳じゃないし」
「え?」
「ずっと見てたから分かる。それには俺の事守ってくれるって言ったよね?」
「ええと、それは言いましたけど・・・」
「なに2人だけの世界作ってるの!ちょっと!」
「あーやだやだ、嫉妬深くて嫌になるよ」
「大体君、ちゃんを付け狙いすぎなんだよ!僕がどんだけ追い返してものこのこのこのこ!!!!」
「見守ってたって言ってほしいな、ね、
「ね、じゃない!!」
「あー2人とももうそろそろやめません?疲れますよー」












狙われた心、頂戴します
「あれ、ちゃんいないの?」
「おう総司か。今男の客が来てな、門の方に、」
「なっ!ちょ、左之さん小刀貸してっ!」

(ダッシュッッッ!!!)

「おー、早い早い。総司も必死だなぁ」