常々思っていた。明るくて、人をからかうのが好きでいつも飄々とした態度で私をかきまぜてしまうこの人の事を。
決して性格は良いと言う方ではないし、かといってその整った顔に興味を持った訳じゃない。
ま、まぁ確かに、綺麗だとは思うんだけれど・・・ それを言ったら幹部連中は皆、文句なしの美形な訳で・・・。
それは置いておいて、問題はこの状況である。



「あ、あのー、沖田さん?どうしたんです」
「なんでもないよ」
「なんでもないって・・・これ、似合いませんでした?せっかく頂いたので、と思ったんですけど」
「そうでもないよ」



さっきから7文字以上の言葉を発しないままに、部屋と廊下を繋ぐ障子の前で腕を組んで どく気配を見せない沖田さんである。彼の心境が何でもない訳ないし、そうでもない事もわたしには分かるが、 どうしてそうなったかが分からない。
なにかしただろうか、と思いながらもなにも見当がつかない。彼の言動はわたしには理解できない事が多いので、 いつも通りだとは思うのだけれど、それでも気まずい空気は留まる事なく、わたしの部屋に充満していく。
一体どうしたらとわたしは冷や汗が垂れるのを感じた。















事の始まりは、困っていた人を偶然助けたという単純な出来事だ。
けれど、たまたま助けた相手が、呉服屋の方でわたしにお礼したいと言ってきた為大事になってしまったというだけの話。 大荷物を持った方がふらふらと歩いてくるのを見ていたわたしは、その人がふらりと倒れてしまったのを 偶然に目撃した。
いてもたってもいられなくなったわたしは駆け寄って、水を操る事となった。
日差しは鋭く身体に突き刺さる様に振ってきていたので、熱射病になってもおかしくはない。 慌てて、駆け寄るとやはり熱射病の症状そのままだったので、指をくるくるっとして、水を操る。 霧状にした水をその人の身体に纏わせて、熱を冷まし、ゆっくりと水を飲ませた。 応急処置としてはこれくらいだろう。その後、 意識を取り戻したその人は何度もお礼を言って帰って行った。
屯所から出る事のないわたしが、そのような緊急事態に遭遇するとは思わなかったけれど、日光の辛さは十分すぎるほど 知っている。

わたしからすれば、水を操る事は特にといって疲れるけれど、大変な事でもないのでむしろ「あー、良かったですねぇ、」なんて言って、 のんびり屯所に帰って来たのだが、帰るとその呉服屋の主人がお礼の品まで持って来ていたのだった。
断る事も出来ないくらいのスピードで、着物一式(しかも肌触りから言って最高級品だ)を手渡され、お礼の言葉を 頂いてしまった。

まぁ、折角頂いたのだし、と思い着付けをしてもらった所で巡察から帰って来た沖田さんがわたしの自室に来た、 という話なのだけど。



「あの・・そこ、どいてくれますか?」
「やだよ」
「ええと、なにかわたし、・・・しました?」
「なにも」



7文字だったのが、今度は3文字になってしまった。
どうしたものかと、苦笑して見せれば、沖田さんはそれ以上に苦々しげな表情で下を向いた。 けっ、とか言い出してもおかしくない様な雰囲気を持っている。
睨みつけられるかの様に私と目を合わせたかと思えば、そのまま顔は横へふん、と逸らされる。



「なんでそんな格好のちゃんを皆に見せなきゃいけないのさ」
「は?沖田さん、どうかしたんですか・・・・」
「なに、その目。いいじゃない、別に」
「いや、いいかどうかは私が決める事ですけどね」
「ほんと・・・・・ちゃんはつれないなぁ。僕がこんなに言ってるのに気にもかけてくれないし」
「そんなことないですよ」


笑顔でそう言ってみれば、沖田さんは逸らしていた目をこちらに向けてじっと見る。
しかし、はぁ、ともう一度深く深いため息をもらした。 ちょっと人の顔見てため息とか失礼じゃないですか?!沖田さんが失礼なのは今に始まった事ではないけれど、 それにしたって、失礼だ。まぁ沖田さんが失礼な人だと言う事はもちろん十分に分かっている。

「でもまぁ、」 なんて言いながらゆっくりとした足取りでこちらへ近づく沖田さんは、心なしか嬉しそうに、口の端を上げた。 あ、なんか機嫌治ったのかなぁ。なんてゆっくりと頭を回転させてそう思う。 そのまま、手が伸ばされて、彼の口が開く。



ちゃん、きれ、」
「綺麗ですよねぇ、」
「・・・・・なんで自分で言っちゃうの、あーあ」
「へ?いや、だって着物が綺麗で、ほんと緊張するっていうか・・・」



頭に向かってくるかと思った手はそのまま下へ伸ばされて、両腕を肩に乗せられる。
先ほどまでの嬉しそうな笑みは影をひそめてしまい、今は逆に口元が引き攣っているような気さえしてくる。 あーあ、と言う沖田さんは片方の手を自身の頭に置いて、嘆きのポーズを取っている。


そこでガラリと障子が開く音がして、沖田さんの表情はついに、というかすでに氷点下の笑顔になってしまった。
ま、間近で見るとかなり心臓に悪いのですが・・・・!なんてそんなことも言えず、ただただ笑うばかりの 私に逃げ場などあっただろうか、いやそんなものはもうどこにもないのだろう。







伝えたいのに

まったくもって
「おっ、こりゃまたべっぴんさんになったもんだな!」
「新八っつあん、おじさんくさい・・・・」
「んだと、平助!じゃあお前はなんなんだよ、」
「えっ、オレ?あ、あの・・・綺麗だと思う、けど」
「ははっ、平助をからかうなよ、新八」
「左之さん!?あれ、巡察だったんじゃないのかよー」
が着飾るって聞いてな。おー、、いつもそれでいればいいのによ。似合ってるし綺麗だ」
「わぁ、嬉しいです・・!あ、ありがとうございます!」
「なんで僕は言わせてもくれないのに・・・あーあ、ちょっとそこの3人組出てってくれない?」
「「「(げぇ、総司の機嫌が最低な事になってるぞ・・・何故!?)」」」



(110809)


4周年ありがとうございましたーー!
薄桜鬼の雷切の主人公が着飾った時の周りの反応(青桜さん)ネタを頂きました!