「なぁ、それって、あいつが好きって事じゃないのか?」 「・・・・・・・・・」 それは日常会話の雑談であるはずだった。 特に気にも留めない会話がそこで止まったのは、話相手である藤堂平助の一言が自分の心に緩く刺さったからだ。 緩くとは言ってもささやかだったその言葉は、心から離れてくれない。 確かに、それっぽいものは持っていたかもしれない。でもそれは本当にささやかな事であって、例えば彼女の姿が 見えないと無意識に探してしまったり、「沖田さん」と呼ぶ声が他とは違って綺麗に聞こえたり、 ただその空間に共に入ると言うだけで酷く心が満たされた様な気持ちになると言うだけのことだった。 「ははは、それはないね。もちろん、ちゃんをからかうのは凄く楽しいけど」 「そうかー?なんとなく思っただけだから別にいいけどよー」 「私も多分沖田さんはそう思ってるんじゃないかと思ってました」 「っ、うわ、?!いつからいたんだよ!」 「ちゃん?なぁに、立ち聞き?趣味が悪いなぁ」 「違いますよ、洗濯物干しに向かう途中だったんです、どいてくれませんか?そこ」 「はいはい、怖いんだから、もう」 「ありがとうございます、じゃあ」 こんな会話しなけりゃ良かったと思ったのはそれから少し経ってからで。 自分が確実に彼女に恋をしているのだと、自覚してしまってからだった。 平助は何も悪くないけど、ついつい八つ当たりをしてしまいたくなる衝動に駆られるのも仕方ない事だと思ってしまう。 だって、あの時の自分の言葉を聞いたせいで、彼女は、ちゃんは、そのまま、僕が自覚する前と同じように僕を相手にもせず、眼中になしといった態度のままだったからだ。 ・・・・・・・・まぁ聞いても聞かなくてもどっちにしろ今と同じような状況なんだろうけどさ!! * 「ちゃんー!」 「あ、沖田さん。なんなんです?」 「なんなんですって、相変わらず冷たいなぁ。あの、明日の事なんだけど」 「明日?明日・・・・ええと、そろそろ年末に向けて細かい所まで掃除始めないといけないですかね?」 「そうじゃなくて!明日あるお祭りの事!」 「お祭り・・・・はっ、そうか沖田さん、ありがとうございます!」 「えっ、ちょ、なにがありがとうなの?!」 「近所の子たちの浴衣、少し直してくれって頼まれてたの思い出したんです、じゃ!忙しいので!」 「・・・・ちょっとは人の話聞いてくれたって・・・」 「あれ、総司?こんなとこにぼーっと突っ立ってなにしてんだ?」 「平助は楽しそうでいいよね・・毎日楽しそうでさ・・・ふふふ・・・・」 「なっ、総司?!おい、」 あまりの素通りっぷりに、会話すら叩き落とされた気がしてしまう。 茫然として、伸ばした手を下した時にそう背後から声を掛けられてしまった。 振り返ればこんな状況を作った元凶がいて(注意・平助は何も悪くないけれど、虫の居所的に良くなかった) ついつい攻撃的な態度を取ってしまう。 平助が変な顔をするけれど、それに構ってられないくらいには僕は少しおかしくなっていた。 だってこんなに露骨に好意を示しているのに、まったくなびかないし。あーあ。 彼女のひらりと翻る着物の袖が廊下の角を曲がるのを見送りながら、若干投げやりな気持ちにもなったりした。 とにかくこれ以上平助をいじめてもなにも生まない。 残るのは平助の心の傷だけだ・・・などと思いながら、その場を後にしたのだった。 その後は屯所内をぶらぶらしてのんびりする事にした。 屯所の外からは賑やかな声や、祭囃子が聞こえてくるのをさらっと流しながら、縁側に座る。 はぁ、とため息が漏れてしまうのは仕方がない事だ、なんて自分に言い聞かせながらそれを聞いていると 酷くみじめな気持ちになってきた。 本当に、何をやっているんだろうか・・・自分。万が一にも上手く誘えていたら今頃は楽しんでいた自分が いるのだと思うと余計に気分は落ち込む。まぁ万が一だった訳だからその一になれなくても確率的にはしょうがない事だ。 そうだそうだ、なんて意味のない励ましを自分に掛ける。 と、その時、先ほど見送ったはずの見覚えのある色が傍を駆け抜けていく気がして、は、と顔を上げる。 見れば、先ほどのその人で、僕はつい口を開いていた。 「ねぇ、待ってよ」 「っ!、わ、なんだ沖田さん?そんなとこで何してるんですか?」 「・・・・・あのさ、」 「なんです?これから浴衣届けてこなくちゃいけないので忙しいんですけど・・・!」 「それはいいから。もっと・・・僕の事見てくれない?」 「・・・・・・・・・沖田さん」 「・・・・・・・・・なに?」 「あのですね、私・・・沖田さんの事どれだけ見てきたと思ってるんですか」 「え?!」 「ここの管理は全て私がしているんですよ、食事から、体調から、身なりから全て」 「・・・・・」 「ずっと見ています。今までもこれからも」 「・・・・・それはそうなんだけど・・・・うん・・・」 欲しいのは それじゃないのに 「はぁ〜あ、もういいや、もう!もういい!!ちゃんなんて!」 「なに怒っているんですか、まったく、イラついている人は傍に寄らないでください。こっちも不快になるので」 「・・・君ってそういう人だよね。はぁーあ。冷たいったらないよね。・・・分かってるけど」 (110921) 4周年ありがとうございましたっっ! 沖田でぐいぐい攻めてるのにどうしても気付いてもらえなくてやきもきしてる話(日向彼方さん)のネタを頂きました! |