酔っぱらい、とは。かなーりやっかいなものである。それがまた、いつもは酔わない人だったりすると かける二乗でかなーりやっかいである。いつもは常識人だったはずの人が酔っ払って訳の分からない事を言ったり やったりするのは見るに堪えないものである。

とは、まぁよく言ったもので。実際の所はそんな対処に追われた事もなかった私である。
そんなわたしを突如として襲ったのはやはり酔っぱらいだったのである。それもかなり、マジでヤバい重度の酔っぱらい。





月が綺麗に照らしている。満月の夜はとても明るくてそのまま寝てしまうのがもったいないくらいで。 だから1人ぽつんと座って見ていたのである。まぁ、もちろん時期が時期なのでとても寒く、行儀が悪いと 怒られる事を承知で布団をひっかぶって見ていた。
現代とここの生活リズムはかなり違ったので、みんなが寝静まるといっても私にとってはまだまだ夜は始まった ばかりであると言える。勝手に淹れてきたお茶をすすりながらの夜はかなりわたしを風流な気持ちにさせた。

のは、ここまでだった。

「そんなとこで、何してんだよ、

背後から声が掛けられて、それと同時に首に絡まる両腕。
・・・・そこまでなら、甘い空気にでもなんでもなっただろう、そうドラマみたいに。
しかしまぁ、そんな訳もなく、実際原田さんからは色気たっぷりの声と共に酒の匂いがする。 そういえばいつもの三人で島原に行ったとかなんだとか千鶴が言ってたよーな。でもなんで原田さんだけ?
疑問に思って振り返ってみれば、合わさる私の目と原田さんの目。

・・・非常に悪い事に、彼の目が据わっている。あの、怖いんですけど。


「ん?原田さ、・・・げ」
「ああん?なんだ、その態度は〜。ははーん・・・分かったぞ」


全然まったく分かってない分かってない!!とばかりに首をぶんぶんと振るけれど、あいにくとこの酔っぱらい、 人の話なんてまったく聞きやしない。つーか、酔っぱらいというのは人の話を聞かないものである。
にやり、と原田さんの口が弧を描いたのを見て私はぞっとする。いつもは安心するその笑顔も酔っぱらった原田さんの 笑みには少しもそんな要素は見当たらない。そんな悪い勘っていうのはよく当たるもので、 そのまま原田さんは私を抱きこんだまま、手慣れた感じで自分の方を向かせる。
都合の良い事にくるまっていた布団もいつのまにかはぎ取られて遥か彼方へどこへやら状態である。
あれれれれ、と思っている間に原田さんと私の間には数ミリの隙間もない。酒で火照っているのか原田さんの身体は 熱くて、布団よりも暖かかったけれど、あー、湯たんぽみたい・・・・いや、そうじゃない。駄目だ、流されては。


「ちょ、原田さん、こういうの良くないと思いますよー、あははー。こういうのは正気の時に本命の方にしましょうねー」
・・・、いいじゃねぇかー、ちょっとくらい、減るもんじゃねぇだろ?なぁ?」


いやいや、減りますよ、猛烈に!
そっと原田さんの胸に抵抗する様に手を置くが、ぐぎぎぎぎ、という攻防の後その抵抗はなかった事にされた。 くそう・・・こやつ、手慣れてやがる。さらり、と原田さんの髪が私の肩に触れる。 抵抗も空しくそのまま廊下に押し倒される。ひぃい、このままでは・・・・一か八かの賭けに私は出る事にした。
どうせ酔っぱらいだし明日には覚えていない。ここはくぐり抜けなければ今までの私はなくなる!
そう決意した私はそのままぐっと小さくなり、足を胸にまで上げた。そしてそのまま思いっきり原田さんを蹴っ飛ばした。

足のばねを使ったこの技はかなり聞いたらしい。原田さんはそのままの勢いで廊下から転げ落ちて、庭へと転落した。
あー、庭にある木の枝に引っかからなければ良いけれど。私はばたんきゅー状態の原田さんに向かって合掌し、一言言って その場を何事もなかったかのように去った。ああ、あれは悪い夢だったに違いない。さぁ、早く寝ろ、と土方さんからの お叱りのお言葉を賜る前に寝ろという事であろう。うんうんきっとそうだ。


「原田さん、おやすみなさい。良い夢を」


翌朝、朝飯の場に出てきた彼は、素晴らしく麗しい顔に引っ掻き傷を作って出て来たのであった。
ああ、可哀相に。しかし何故その傷を原田さんが作ったのかは、私だけしか知らないのである。






悪い狼に食われる前に
                  (原田)