「ほら、DELICIOUSな焼き芋だ、存分に食らうがいい、ハーッハッハッハ!」
「・・・・あ、うん。ありがと」



職員室を出て資料室でB6専用のテスト問題でも練ろうかと思った矢先のことだった。
ガラっとドアを開ければふんぞり返って腰に手をやる翼くんがいた。
はい?!と思っていると突如として自分に向かって差しだされたのは大きくて立派な芋だった。 しかもアルミホイルに包んである所を見ると、やっぱりこれは彼の言う通り焼き芋なのだろう。



「・・・あの、その」
「なんだ?感謝してくれてもちろん構わないぞ」



言いたいのはそんな事じゃない、と言う事に一番気が付いてほしかったよ、うん。
それは分かった。そしてその衝撃にびっくりで思わず大人しく受け取ってしまった自分は、翼くんから見れば きっと間抜けな顔をしているに違いにない。 でもその時私は練らなくてはいけない問題なんてすぽーんっと頭から出て行ってしまって、「芋?!何故に芋!?」 と言う事ばかりが駆け巡ってしまっていた。
しかし・・・こう言っては何だが、翼くんと焼き芋って正反対の位置にいる気がするんですけども。 気のせい?焼き芋って庶民の食べ物だろうが!?HA!そんなもの俺の口に合う訳なかろう!とかなりそうなものなのに・・・。



「なんだその変な口調は?副担、気分でも悪いのか?」
「(あんたの口調だよ・・・!おい!)・・・気分は悪くないから大丈夫」
「そうか、ならいいが。とにかくそれを食べろ!」



そしてどこまでも偉そうな態度で物申してくる彼である。 でもそんな事も気にならないくらい、私の頭はフル回転していた。
もしかしてこの芋、自分で焼いたのだろうか、いや、まさかそんな訳ある訳ない・・・まぁ、そんなような事である。 混乱しすぎて自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。



「この焼き芋どうしたの?」
「それはな、一がモグラに掘り起こさせた芋でそれを清春が我が真壁財閥科学班が発明した火炎放射☆焼き尽くしてやるぜマシーンで焼いたんだ」
「・・・・すごい。予想の斜めを言った発言だよ、ほんとありがとう・・・うん」
「そうだろうそうだろう!クックックハーッハッハッハ!」
「いや、褒めてないからね。そんなふんぞり返られても」
「なんだ、もっと褒めていいんだぞ」
「でも聞いている限りだと翼くんなにもしてないよね」

「・・・・・・・ま、まぁいいだろう、そんな細かい事は!」

「(・・・逃げたな。まったく都合悪くなるとすぐ目を逸らすんだから)」



細かい所をつっこみだすと、キリがないのは分かっているのだけれどどうしても性分なのかついツッコんでしまう。
ふいっと目線をずらして明後日の方向を見る翼くんは動揺がもろバレすぎて、もはや面白いの域に達してしまっている。 まぁ、これで翼くんが本当に落ち葉をかき集めて焼き芋やってたらそれはそれできっとおもしろ・・・いや、 シュールな図になっているに違いないけど。



「秋は食欲の秋とも言うからな!それを食べてしっかり体力をつけろ」
「・・・?体力は万全だけど?」
「前に瞬から聞いたぞ、副担は最近菓子パンしか食べないと!それで瑞希に相談して・・・」
「・・?菓子パンはだって便利だもん。いつでも食べられるし。学校にいると食べてる暇ないもの」
「HUU・・・健康は食から。悟郎もそう言っていたぞ」
「それは正論だけど・・・」
「俺たちは頑張っている副担が好きだ、だが身体を壊したら元も子もない」
「・・・・」
「だから、それを食べて頑張ってくれ」
「ありがと。大切に食べるよ。あと・・・みんなが大人しく補習を受けてくれればもっと頑張れるんだけどな!」
「・・・・う。ど、努力はする」



ぺらぺらとよく回る口を一瞬閉じて、苦い表情でそう小さな声で言った翼くんは、それでも私の視線から目を 背けようとはしなかった。・・・ほんとにもう。


その後アルミホイルを剥いて食べた焼き芋はこれ以上にないくらいあったかい味がした。










ほっくり召し上がれ!
     


食欲の秋ってことで!