「なに、暇だと?私は暇ではない、大佐にでも遊んでもらえ」
「勇さんはお仕事ですもん」
「私も仕事だ!!」




部屋の扉をノックして、そろりと入ってみれば怒号が飛ぶ。
部屋に入ろうとすれば、そう苛立ったように言われたせいで動揺し、手に持っている急須が揺れる。
中に入っている緑茶を絨毯に落としそうになった。あっ・・ぶな、こんなすんばらしい絨毯にお茶なんてこぼしたら、 申し訳なさ過ぎて、めまいがする。
部屋に入ろうとしていた右足をもう一度部屋の外に出し、扉に半分身体を隠しながら、私は正さんに話しかける。 というか、今廊下側から誰かに見られていたら、かなり恥ずかしい状態だ。早く部屋に入れて欲しい。




「いや、なんかイライラしてるから、息抜きでもどうかなって思って・・・すみません」
「お前は・・・はぁ、いや。茶でも貰うか」
「はい!へへ、今日すごい美味しいお茶が入ったんですよ〜ここのお茶はすごい美味しいものばっかりで」
「お前の茶は別にそんなに不味くもない。・・・・・・が、美味くもない」
「淹れ方適当ですからねーまぁまぁ、そう言わず」




やれやれと言いながら、私が淹れた美味くも不味くもない普通のお茶を飲んでくれる正さんは、自分で言うほど冷たい人間 でもないと思う。というか、逆に面倒見の良いお兄さんと言った感じだ。うん、6人兄弟の一番上のお兄さんなだけある。現に今構ってくれている訳だし。
というか私だって、別に仕事中の正さんを邪魔するような事はしない。
ただ、朝食の時の正さんがとても疲れて 見えたから、少し心配になっただけで。
あ、あと千富さんにちょっと息抜きさせてあげてくださいって頼まれたのも あるけども。


その千富さんから差し入れにもらったのが和菓子だ。 緑茶にはやはり和菓子だけあって、素晴らしいチョイスだ。
うんうん、特にこの宮ノ杜に入ってくる和菓子はすごくおいしい、その上可愛い。
今の時期にぴったりな和菓子ばかりで見目麗しいものばかりとくれば、自然になごむものだ。 はぁああ、とその和菓子を見つめていれば、正さんが目の前ではぁ、と息を吐いた。多分私の吐いた息とは違う種類のものだ。
目を向けてみれば、湯呑を掴んだ手をもう一度置いて、こほん、とひとつ咳払い。なんなんだろうか? 大抵咳払いした後は私への小言とか、そういうのが多いけど。まぁ・・・私に大和撫子度を求める方がおかしいと気が付いてからは、特に そう言う事もなくなっていたので、なんか珍しいなぁ、という思いが大きい。




「あー、その、。私のもやる」
「えっ、いや、駄目ですよ、これは正さんの分って千富さんからもらったんですから!」
「そんな目で見ていたら食べ辛い」
「ごめんなさい、・・・・・はい、見てないですよ」
「そう言う問題じゃないだろうが・・・まったく」




後ろを見て目を和菓子と合わせないようにしてみるも、やれやれという表情で正さんはため息をついた。
あれっ、休憩もとい息抜き件話相手になろうとしたのに、余計に負担を増やしている?と焦るけれど、正さんの表情は 変わらない。




「・・千富の事だ、その包みの中にお前の分も用意してあるだろう。それでも食べていろ」
「はっ、ほ、本当ですかね?」




そう言っては見るものの多分表情はいいの?これ食べて、私が食べても本当にいいの?みたいな感じになっているに違いない。
あーかわいい。色も、形も素晴らしくて申し分ないこの和菓子達を本当に頂いてしまってもいいのだろうか、ほんとに?
・・・そろりと包みの中を見てみれば和菓子が3つ。さっき正さんに渡したものを合わせれば、4つ。 ・・・・・・・じゃあ1人2つ?なんて計算をしつつ、正さんを見やれば、呆れた様な目が私の目をかち合う。




「ほら、」
「・・・・・はい、ありがとうございます!!」
「・・・食べないのか?」
「いや、なんか可愛くてたべるのもったいないです」
「いつも夕飯を姫とは思えないくらい、がつがつ食べているだろうが」
「ははー肉とか魚とかは別に、それ以上に食欲が勝りますからね。こういったお菓子類は別です」
「そういうものか」
「そういうものなんです。乙女心的に」




うんうん、と頷けば、正さんはお前のどこに乙女心なんてものがあるんだ、とそっけなく吐き捨てた。
私はと言えば、酷いですねーなんて言って緑茶をすする。
この緑茶と甘い物ってほっこりとする最強の組み合わせだな、なんて考える。 ここってあんまり洋風のお菓子も銀座に行かないとないみたいだし、なかなか食べる事は出来ない。
だけれどもやっぱり本格的な和菓子を食べられる機会の方が今まで少なかった私にとっては、和菓子の方がなんとなく貴重な気がする。 そういうとやっぱりお前の言う事は意味が分からん、と打ち捨てられたけれど。




「まぁ、お前との茶は暇つぶしにならん事もない。・・・いや、私は忙しい身だがな!」
「はいはい、いつも大変ご苦労様です、正さま」
「お前に正様、なんて呼ばれるとぞっとする」
「・・・・・・酷い!まったくなんでそんな可愛くない事ばかりいうんですかねー!」
「可愛くなくて結構だ」
「ま、可愛い正さんとか正さんじゃないですもんね、別にこっちも求めたりしてません」
「・・・・・・・・・お前・・・・・・!」














あたたかいうちにどうぞ

「あーーー!!正が!!正がを連れ込んでる!!!」
「な、なにを言っている!こいつが勝手に押しかけてきただけだ!!」
「あれ、博くんおかえり。学校楽しかった?」
「あ!聞いて聞いて〜!今日すっごい発明したんだよ!後で見て!!」
「はいはい。分かったから落ちついて。あれ?雅くんは?」
「雅?いるよー、扉の外に立ってる」
「五月蠅い、馬鹿。余計な事言わなくていいし」
「おかえり、雅くん」
「ふん」
「あらら・・・・」
「雅も素直じゃないのー!千富に聞いて走って来たくせにー」
「なっ、馬鹿じゃないの?!それは博だけだろ!!!馬鹿馬鹿馬鹿っ!!!」
「・・・・お前ら・・・いい加減に騒ぐのを止めろ!!」
「まぁまぁ正さん落ちついて・・・」
「誰のせいだと思っているんだ・・・お前だ、お前!!」





キネマモザイク楽しみすぎます!