大きく青い空が自分の真上に広がっている。
そしたくさんの花が自分を埋め尽くすように咲き乱れている。
風は穏やかで、その風が吹く度にたくさんの花達が さわさわと音を立てながら自分の顔を撫でていく。



そう、至って、平穏。
平穏なはずなのである。



自分が何故ここに寝っ転がっているのか、という理由が分かれば。



ここはどこ、わたしは誰。そんな事をわたしがまさか言う羽目になるとは思いもしなかった。
平和すぎる空気がわたしをまどろみへと誘うのだ。もしかしてこれは夢を見ているんじゃないかって。 そうに違いないと信じたい気持ちが大きく上回って、わたしはそっとこの夢から目覚める為に目を閉じた。











一時の間そうしていたのだろうか。まぁ自分が眠っていたと言う事は良く分かっていたからやっぱり 夢だったんだな、さっきのは。そう思って光が眩しい現実の世界へ目覚めようとした時だった。
・・・・・・なにか感触を感じた。なんか、こう、言葉では言い表せないような、こう、そう、やわらかいものが。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「起きたか」



なんかさっきの風景プラス変な人まで現れてしまったのだけれど。いやいやいやいや、これは嘘だ夢だ幻だ陽炎だ。
うそうそ、全部うそ、これ夢だもの、そうだもの、それしかないもの。 頭の中ではそれがぐるぐると回ったけれど、表面上は ひたすら無言でぽかんとその人を見つめるわたしはとても阿呆に見えたに違いない。
しかも起きたか、ってなんだよ。勝手にキスしといてそれはないだろうよ。そりゃびっくりするよ、飛び起きるよ。



花の中に埋もれているのもあれだったのでゆっくりと身体を起こして周りの状況確認からし始める。
ここはどこだろう。そんな事しか頭に浮かばない。そこは庭園のようだった。噴水があって、手入れが行き届いている花壇には 花が咲き乱れていて、その真ん中にわたしは投げだされるように寝転がっていたという訳か。 いやはやどこに投げ出されたんだ?今から朝食を食べる所だったはずだ。特に変な事はしてない。
うーん、と考えるがまったく持って身に覚えがない。


「・・・シュネーヴィトヘン、ふむ、本当にこの時が来るとはな・・・!」
「しゅね・・・ビィー?あ、あの感動しているところ誠にすみませんが、ここどこでしょうか?そしてあなたは誰です?」
「ほう、この俺に質問をするとはな・・・・・・・まぁいいだろう」



なんなんだこの無駄に偉そうな俺様は。
こんなに下手に出て質問しているというのにあの態度。すばらしい俺様具合である。
それにしゅねーなんとかってなんだろ?人の名前?なにかと私を勘違いしてるんだろうか?



「ここは宮ノ杜家の庭園、そして俺は帝國陸軍大佐、宮ノ杜家次男、宮ノ杜勇だ」
「みやのもり・・・はぁ・・・そうなんですか?」
「まさかと思うが・・・貴様、宮ノ杜を知らぬのか」
「知ってる知らないで言えば、まったく知らないですね」
「なっ・・・・宮ノ杜を知らぬ奴がこの世にいるとはな!これは傑作だな!田舎の猿だって知っているぞ」
「さ、猿・・・・・!!!?あはは、えっとそれはすみません、でも知らないんです」



こ、こいつぅぅうう!!と思ったが表面上は当たり障りなく愛想良く返答を返す。
名前に至るまでの肩書きが長くてどこが名前?とか思ってしまったけれど。
今いる状況が分からないから、とりあえずはあまり刺激しないでおこうという日本人気質が ここで現れたのだった。いや、刺激を受けたのはこっちなんですけどね。
なんかいきなり知らない所へ行ったと思ったら、キスされて、挙句の果てに俺様で、意味分からない。 どうしたらいいんだろうか。
あはは、と乾いた笑いだけが庭園を響かせる。ここ、ほんとどこなんだろう・・・・。 それに帰る方法は?どうしてこんなことに?疑問が頭を駆け巡って支配する。
これからの展開についていけそうになくて、俯いてしまう。



「なんだ、どうした?」
「え?あー・・・・帰るところがないなぁっと、そう思って。今からどうするべきか考えてたんです」
「・・・そうか」
「どうしたらいいのかっ・・・て、わぁ!えっ、ちょ、ちょっとあの?!みやのもりさん?!」
「苗字で呼ぶな。ここには宮ノ杜が7人いるからな。見分けが付かないであろう」
「ええっと、それでは、えーと、あの、次男さん?大佐?」
「何故そこまでしか覚えてないのだ?さっき言った事をもう忘れたのか?・・・勇だ」



私の顔に影を落としてそう低く口から出た言葉は、呆れを含みつつもその目は優しかった。
どうしてこんな不審人物にこんなに優しくしてくれるんだか、まったく分からないが、この人は もともとお人好しで、優しい人なんだろうな。そうでなきゃ、どうしてこんな私を優しく扱ってくれるかが わからない。というか現時点でもっとも疑問なのは、何故お姫様だっこをされているかと言う事だ。
それに反論しようとじっと勇さんの眼を見ると、視線を感じたのかこちらを見やる。



「・・・?」
「あの、」
「なんだ、言いたい事があるならばはっきりと言え!」
「はっ、えっ、えっと、私はどうなるんでしょうかーっ!!」
「そんなの決まっている。俺の妻となるのだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「やっと俺のシュネーヴィトヘンが見つかったのだからな」



ふっ、と笑ってまた勇さんは前を向いてしまった。
いや、そんな格好良さげに微笑まれても。 いやいや、お前はそれでいいかもしれないが、言い逃げされて爆弾を投下された私の身にもなってはもらえないか?! いやいや、妻って、いやいやいやいやいやいや、冗談でしょう?!
手を振り上げようとしたその手から今まで無意識に握っていたものが落ちた。



赤く赤く、真っ赤に熟れたりんごがころり、と地面を転がる。

まさか? シュネーヴィトヘンって・・・・・・。ささーっと血の流れが一気に重力に従って落ちるのを感じた。
嫌な予感がするけれど、それだと今までの流れにしっくりくる。
それ以前にこの人がそんなロマンチックというか、そんなおとぎ話を信じている事がびっくりで。
まぁ、キスしたら目覚めるし(もともと毒で寝ていた訳じゃない)、花に埋もれていたし(人の家の庭園ですけどね) りんご持ってるし(これ絶対朝食で食べようとしたりんごだよ・・・)まぁ、分からなくもないけど、いや、でもですねぇ!!







毒りんごをお食べになって
「ふははは、これはさっそくトキに報告だ・・・!いつもいつも笑われていたが今日はそうはいかん!」
「(ひぃぃぃいい誰か止めてーーーー!!)」




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