木の上に登ってしまえば、冷たい風が頬をなでていく。
こちらも秋か、冬にさしかかるというところだろう。庭園に立っている木の多くはとても高く、随分遠くまで 見渡せる。



「わぁ・・・・」



こっちに来て、初めて屋敷以外の所も見た。そこはおおよそ現代とは言えない光景が広がっていて、やっぱりなぁと 思うのと同時に少し物悲しくもなったりした。
いや、どう思っても結局ここから帰れる方法が見つかる訳ではないし、来た時も唐突なら、きっと帰る時も唐突だろう。 きっと帰れるに違いない、いつかは。



そんな事をもくもくと考えていると、身体を支えていた手が枝から離れて、後ろから落ちた。
正確にはずり落ちた。ハプニングはいつだって突然やってくるものなのだ、などと冷静に分析してみたが、 それでも身体が落ちていくのは止められない。
ずるりと服のすれる音がして、後ろへ投げ出される。そんなに高くもないから大丈夫だろうけど、それでも この1人喜劇は結構つらい。来る衝撃に身構えた時だった。柔らかな2つのものの間に自分の身体が挟まった。
ん?どういうことだ、と身に覚えのない感覚に瞑っていた目を開けた。



「おうわっふ・・・・・・・うわっ!!!??」
「危ない事しないでくださいね、ほんと息が止まるかと思いましたよ」
「・・・・・・」
「あの、聞いてます?」
「へ?・・・・あっああああ、あの、そ、すみ、すみません!」
「職業柄人を助ける事が多いですから、そんなに気にしないでください」



す、すみません…ともう一度頭を下げると、上から降ってくる声。
うわぁあああ、進さんじゃないかぁあああ!と顔を覆ってしまいたくなるほどの爽やかな笑みが見えた。 いえ、無事なら良かったと穏やかな声と共に微笑み掛けられて、一瞬止まってしまったのは仕方ない事だろう。 しかし優しく頭を撫でられたのは嬉しいが、ここの人たち、絶対私の事子供だと思ってるよ。
なんか扱い方が幼稚園児を相手にしてるかのようだもの。まぁ可愛がって貰えるのはいいんだけど。
ただ勇さんがロリコン疑惑を掛けられてしまう事だけが心苦しいけど。いやぁ、ほんと苦しいよ・・・!


なにか面白いことでも?と進さんに尋ねられてしまったのは決していつも俺様唯我独尊勇さんがそんな事周りから思わ れてたら面白い、だなんて思った訳じゃない。・・・じゃないよ?ロリコン勇さ、ぶほっ!!いけないいけない、むせた。 面白過ぎてむせた。進さんと言えばむせる私を心配そうに見て、首を傾げていた。まぁ無理もない。


自分が落ちてきた木を見上げてから、くるりと何気なく花壇を見る。 そこで人型にくりぬかれてしまっている部分がひとつだけある事に気が付く。 言わずもがな、私が目覚めた所である。私の体重はそんなに辛かったか、宮ノ杜の庭園の花たちよ。 と思ってしまうほどにそこの場所だけがくっきりと残っていた。
私の視線に気が付いたのか進さんが私をゆっくりと降ろしてから横に立つ。



「…本当にここで目覚めたんですね…えっとなんて言うんでしたっけ?しゅねーびとへん?」
「…日本語だと白雪姫ですね、本当に姫なんて柄でもないし、あれなんですけど」
「いやそんな事ないですよ?さんは姫君の様に可愛らしいと思います」
「………は?!!?え?・・・・・?!」
「そんな顔しなくてもいいじゃないですか。あ、姫君の様なんて失礼ですね、さんは姫君な訳ですし」



いや、さっきは一瞬固まったが今回は一瞬どころじゃ足りない。なん、なんなんだこの人!?
……素面なのに あんな台詞吐けるなんて!やはり時代が時代だけあって草食系な顔して中身は肉 食系か!?
そうなのか?!進さん…恐ろしい子…っ!
驚愕すぎる表情で固まり過ぎたせいで、進さんは怪訝そうな顔でこちらを覗き込む。



「まぁさんが来た事は勇兄さんにとって良かったと言えますよ…?あんな に毎日生き生きと…いや、結構お1人でもそれはそれで楽しそうでしたが、」
「まぁ…あの性格ならそうでしょうね…さぞかし大変だったでしょうし…」
「分かりますか…いつぞやは勇兄さんが置いてきた自分の本を自分が取りに行ったりとか…いや 、そうでなく!」
「えと…?」
「勇兄さんが他の者に心を砕くなんてこと一回もありませんでしたから、」



そういう進さんは少しすっきりした顔をしていた。
そんなに酷かったのか、勇さん・・・!
こんなに優しい進さんが言うのだから相当なんだろうなぁ・・・・。 しかし確かに私に対しては少しだけ考慮してくれているような気もするような気も・・・うーん、でも微妙な所だけどなぁ。 軍隊ごっこは暑苦しいから止めてほしいんだけど、あれ、みんなにやってたりするの?
ぐるぐると回る思考に振り回されていると、いきなり庭園 と屋敷を繋ぐ扉が勢い良く開いた。



音がばーんっと響いて肩が跳ねた。
慌てて二人してその音が発生した方を見ると、 肩を上下させて荒い息を吐く、いつも通りの、そして噂していた通りの自己中俺様男の勇さんがいた。
なにをそんな焦って・・・?というか仕事は?と思って首を傾げると怒号が飛んできた。



っ!離れろ!これは命令だっ!」



・・・は?どこからです?と聞き返すと、まったく困った奴だっ!と言いながらずかずかと粗い足音を立て、 進さんの肩を持ち、ぐいっと後ろに引いた。な、なにがしたいんだろうか・・・この人・・・と呆然としているとあれよあれよで 腕の中へ。
困った奴は自分だと言う事にまったくもって気が付いていない所がさすが勇さんである。
進さんにどうしてこうなったのか、その訳を聞こうとして腕の中から進さんに向かって視線を投げれば、 進さんは結構乱雑に扱われたと言うのに、少し笑って小さく口を動かした。 ほらね、言ったでしょう?と。





*






それは良いが、中庭からずっと私の背後をキープしているこの人をどうにかしてほしいと思ってしまったのも本音だ。
進さんに見送られて中庭を出て、 部屋に戻る途中で学校から帰ってきたのであろう博くんと雅くんに変な目で見られてしまったのはかなり痛かった。 いたたまれなくなってへらりと笑っておかえりーと言えば、後ろからの怒号が耳を貫いた。



「第一貴様があっちへふらふらこっちへふらふらと、おい、貴様ら見るな!減る!」
「なんでだよー別に減らないよ!大体勇が玄関に来たんでしょ?俺たち関係ないし!あ、、ただいまー!」
「はぁ・・・・いい年して恥ずかしくないの?僕、部屋に戻るよ。じゃあね」



勇さんが何を言っているのか知ったこっちゃないしよく分からないけれど、帰ってきてばっかりの2人からはなにか可哀相なものを 見るような目で見られたなんて、そんな、信じたくはない!








甘いお菓子を受け止めて






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