「正さーぁああん!」 「な、なんだこんな所で私を呼びとめる奴があるか!大佐に見つかったら・・・っ」 「挙動不審ですよ、落ちついてくださいって」 「だ、誰のせいでこんなこそこそしなければならんのだ!お前のせいだお前の!」 「やれやれいくら勇さんでも話してるくらいで斬っちゃったりなんかしないですよ」 正さんは勇さんのお兄さんだ。 6人いる兄弟の中で2番目の勇さんは、下のご兄弟たちにも結構な圧力をかけていたりする。 その中でも唯一対等に(いや普通は1番目の兄には敬意を払うものだと思うけれど)接することができているのは 長兄の正さんのみと言える。 しかしあの勇さんは実の兄相手でも容赦がないらしく、私が話しかけただけでも正さんを吹っ飛ばす、と 正さんは思いこんでいる。 頭いいはずの正さんがそんな冗談みたいな事を信じているだなんて、面白くてついつい笑ってしまう。 すると、目の前の正さんは眉を吊り上げて言葉を私に強く叩きつける。 指まで指された。人を指さしちゃいけませんよ、正さんてば。 「お前は大佐の事を知らんからそんなのんきな事が言えるんだ!茂や進に聞いてみろ!」 「あ、雅くんには聞きましたよ、でも参考にならなくて・・・」 「何故、雅!」 「や、なんか可愛くてつい構っちゃうと言うか・・・あはは」 「雅が・・・かわい、い、だと・・・お前は一体どういう目をしてるんだ?やはり大佐に似たのか?その、主に思考的な部分で」 「ちょ、失礼な事を言わないでくださいって!ほんと、仮にも弟なのにどれだけ」 「仮じゃない、実のだ!だから頭が痛いというのに・・・」 書類を抱えて、さらに頭も抱えて、正さんは実に器用な人物だなぁ、と感心感心と思って1人頷いていると、頭を鷲掴みに されて「分かってるのか、お前のせいでもあるんだぞ!」と非常に目が据わった感じでそう再度言われた。 いや、勇さんの性格というかああいう行動は私が来る前からあったし、私のせいじゃない。と言い返したくもあったけれど、 あまりに必死な形相をするので、こくこくとただ黙って頷くしかなかった。 「でもあの性格が無くて、普通に素直な良い人だったら勇さんじゃないですよ。自己中で時たま優しいのが勇さんですし」 「ジコチュー?とはなんだ」 「ああ、自己中心、自分が中心に世界が回っているって考える人の事です」 「なるほど、大佐の為にあるような言葉だな」 納得、と言った様に顎に手を沿わせて、正さんは頷く。 あんまり真面目な感じで頷くもんだから、ついつい頭を鷲掴みにされた痛みも忘れてしまって 笑ってしまった。 正さんも結構素直な所もあるもんだから、ちょっと可愛いな、なんて思ってしまうのだけれど、それを 口にしたらきっと頭鷲掴みどころじゃ済まないだろうから、それは心の中にしまっておく事にする。 そのままの体勢で正さんと話していると、後ろの扉が開いて誰かが入って来た。 あ、そうかもう学校終わった時間かと正さんの手から逃れて、 顔を上げればその入ってきた人物と目が合う。 にっこり笑えば、・・・あ、目逸らされた・・・・。 「なにやってんの?顔突き合わせて。勇に言っちゃうよ」 「なっ、雅っ!?」 「雅くんおかえりー。学校どうだった?」 「ふん、いつも通り最悪」 「そうかー。博くんは?」 「置いてきた。なんか忘れものだって言ってたけど、ほんと馬鹿だよね」 「え、ちょ、迎えに行かなきゃ、だって自動車雅くんが乗って帰って来ちゃったんでしょ?!」 「うん」 「うん、じゃないよ、もう!私迎えに行ってきますね、では!正さん、雅くんさよなら!」 「・・・・」 「・・・・」 「・・・・・・・・いつも騒がしいな、あいつは」 「馬鹿だね、本当に馬鹿」 ぽつりと玄関ホールに響く2人の声は言葉はきつくとも少し優しげなそれを含んでいるように感じられた。 なにより表情は冷たく凍ってはいない。知らず知らずのうちに表情が溶けてしまうのだ。 突然やってきて宮ノ杜に住み着いたもの。最初はわずらわしく思っていたけれど、どうもそれが最近は 少し心地よい。 それを認めたくない気持ちももちろんあるので、あいつの前では絶対に言ってやらないけれども、 今だけは。 「・・・・・・・本当、馬鹿だよね、なんで勇なんだろ」 「・・・雅、お前・・・、」 私は、自動車を慌てて手配してもらっていたので、その言葉を聞く事はなかったけれども。 優しい声で出迎えて? 「はっ、ごめんなさい、勇さんの出迎えお任せしていいですか!正さん!雅くん」 「は?何故私がそんな事を・・・」 「やだよ。どうして僕がそんな事しなくちゃいけないの」 「勇さん、出迎えないとすごい不機嫌になるんですよー。本当にさみしがり屋なんですから」 「いや、お前、それは私じゃ意味がないような、」 「お願いしますね、あ、運転手さん、ありがとうございます。じゃあいってきますね」 「あ、ああ・・・・気を付けてな」 「じゃ、僕部屋に戻るから。正、勇の出迎え頑張ってね」 「おい!私1人に押し付ける気か!?おい!」 ・ ・ 「何故、正が出迎えなのだ?はどこへ行った!?」 「は博を迎えに行った」 「どういうことだ!」 「こっちが聞きたいくらいだ・・・あいつ・・・!」 「正、をいつから呼び捨てで・・・ならん!」 「わ、おい!こんなところで剣を振りまわす奴がいるか!!」 (back) |